6. [配信回] No.3 ダンジョンを攻略せよ ダンジョンボス
「や、やっとボス部屋についた……」
「手間かけさせやがって」
『ははは、大変だったね』
『なんて意地が悪いダンジョンなの!』
No.3 ダンジョン深層。
真っ白な部屋で大量のヴァルキリーを相手に探索していたボクらは、階層を一通り探索して地図が完成したのにボス部屋への入り口が分からなくて困っていた。
隠し部屋でもあるのかと思って壁を沢山破壊したけれど見つかる気配もなく、このままだと疲弊するだけだから今日は攻略を諦めようかという話を始めた瞬間、他とは色合いがやや違うヴァルキリーをかなり遠くに見つけたので急いで駆けつけて倒したら、ボス部屋への入り口に強制転移されたんだ。
まさかボクらから逃げ回る特定の魔物を倒さないとボス部屋に辿り着けないなんて。ここのダンジョンって正々堂々と物量で押し潰して来るのに最後だけ逃げる魔物が出て来るなんて思わないもん。
"この人達ヴァルキリー何体倒したの?"
"三百は軽く越えてると思う……"
"それなのに息を切らしてもいないとか"
"ここってもっと大人数で攻略してあのキーとなる魔物を見つけるのが正攻法だよね"
"正攻法<パワー"
"パワー<ぷぎゃあ"
"ぷぎゃあ<KAIGI"
"世界はKAIGIで救われる……?"
救われないから!
しかもどうして英訳しないで『KAIGI』なのさ!
すし、てんぷら、ふじやま、かいぎ。
うん、嫌だ。
後で厳重に抗議しよう。
残念ながら今はボス戦前だからこんな話をしている余裕ないからね。
どうにか気持ちを切り替えて、少し休憩してからボス部屋に突入だ。
「京香さん、頼りにしてるよ」
「おうよ、任せとけ。ハーピアだろうがガムイだろうが今の私なら戦えるからな」
これがイギリスでの最難関ダンジョン最奥ボス初アタックなので、撃破すればもちろん初撃破。
しかもパーティーには
これらの組み合わせにより隠しボスの登場条件を満たす可能性がそこそこ高いんじゃないかと思うんだ。
少し前までならば
でも今のボク
安定して倒す姿を皆に見せることで、ボクの探索をもっと応援してもらえるようになりたい。
そのための大事な配信なんだ。
「キョーシャさんとカマセさんも準備は良い?」
『ああ、問題無い』
『だ、だ、大丈夫よ』
その震えは武者震いだよね。
あるいはボスが怖いんだよね。
ボクが怖い訳じゃないよね!
戦っている時は落ち着いているし、本当に問題だったらキョーシャさんが何か言うはずから大丈夫だと信じよう。
『ああ、ついにこの日が来たか』
キョーシャさんはボス部屋の扉を見て感慨深そうにしている。
このダンジョンはキョーシャさんの生まれ故郷に近いらしくて、地元が危険に晒されないようにと長年このダンジョン攻略を夢見て努力して来たらしいから、色々と思う所があるのだろう。
しばらくの間何かを考えていたキョーシャさんは、徐に剣を手に取るとそれを高く空に掲げた。
『皆、行こう!』
よし、ボス部屋に突入だ!
ボス部屋の中もまた真っ白な空間だった。
そしてその中央でふさふさの真っ白なあごひげを蓄えた白髪の偉丈夫が腕を組んで立っている。
上半身は裸で引き締まった筋肉が格好良いのだけれど、ボクらが部屋に入った途端に手にした武器は杖だったので魔法使いタイプなのかな。
『やはりそう来たか』
『神話の神様をモチーフにしているのかしら』
『恐らくはそうだね。色々と混ざっているようだから特定は出来ないけれど』
"ヴァルキリーが沢山いたんだから、そりゃあそのボスが出て来るよね"
"そこは綺麗なお姉さんだろ! むさいおっさんとか誰得だよ!"
"あのおっさんが綺麗なヴァルキリー達を従えてたと思うと妄想が捗る"
"侍らせてそう"
"どうしたらボスになれますか?"
"ほんと男ってさいってー"
"英国紳士は死んだ"
"すぐ女性を性的に見るんだから"
"ならヴァルキリーが綺麗なお姉さんじゃなくて可愛い男の子だったらどうよ"
"天国"
"お姉さんが育てたい"
"どうしたらボスになれますか?"
"ダメだこいつら……"
見た目が神様っぽいって話をキョーシャさん達はしているのかな?
確かにそう見えなくはないけれど、隠しボス特有のプレッシャーが全然ないからそんなに強く感じないんだよね。油断はしないけれど、所詮は通常ボスだよ。
神様らしさで言えば、これまで出会った隠しボスやゲームマスターの方が圧倒的にそれっぽかった。
『ここは俺に任せてもらおうか』
あのボスもヴァルキリーと同じで聖属性を纏ってそうだからキョーシャさんの得意の聖属性攻撃は効かないと思うけれど、他の属性で攻撃するのかな。
いや、もしかして。
「あれを使うのかな?」
「だろうな」
結局ヴァルキリー戦では使わなかったキョーシャさんの秘策。
このままではカマセさんがここまでついてきた意味が無くなってしまうかもしれないから、ここで使う気がする。
『カマセ、用意は良いか?』
『いつでもOKよ!』
やっぱりそうだ。
それじゃあボクと京香さんは見学してようっと。
『ジャッジメントボルト』
ボスが言葉を発するなんて珍しい。
たくさんの聖なる光の雷がボクらに降り注いできた。
「なかなかの、いりょく、だねっ」
「だが、このいりょくなら、ギルメンの、やつらでも、だいじょうぶか?」
超高速で何度も降り注いでくるけれど、この程度ならボクも京香さんも当たることは無い。
着実に避けながらキョーシャさん達の様子を確認する。
『ホーリードーム!』
キョーシャさんを中心にドーム状の聖なるバリアが発生して、聖なる光の雷を完全にシャットアウトしている。カマセさんを守るためにバリアを用意したのだろうけれど、あのバリアを張っている間はキョーシャさんは動けない。
そのためきっと遠距離攻撃をするに違いない。
『ハアアアアアアア!』
キョーシャさんが腰に剣を構えて気合を溜めると、剣が真っ白に発光しはじめた。
ちょっと光らせすぎじゃない?
眩しくて味方が目を瞑ってしまいそう。
そういえばキョーシャさんが少人数パーティーでしか探索しない理由を聞いた時に、自分の技は眩しいのが多くて困らせるからなんて言ってたけれど、あれって冗談じゃなくて本当だったんだ。
『ホーリースラッシュ!』
溜めに溜めた聖属性のエネルギーを斬撃に乗せて打ち出すシンプルな攻撃だ。
炎や氷などの他の属性でも出来る一般的な技だけれど、弱点属性に合わせて使わないとただの斬撃とあまり変わりはない。でも聖属性の攻撃は多くの魔物に特攻があるからとても便利なんだろうね。聖属性のスキルや魔法ってボクでも使えないから『勇者』特有なのだろうか。
それはさておき、キョーシャさんの攻撃はこのままだと意味がない。
何故ならばこのボスは数少ない聖属性に耐性がある魔物だから。
そこでカマセさんの出番だ。
『属性反転!』
聖属性の斬撃が、漆黒の邪属性へと変化した。
聖属性の魔物にとって邪属性は弱点攻撃になる。
聖属性だからと避けるそぶりを見せなかったボスは予想外の属性反転により邪属性の全力攻撃をモロに喰らってしまい大ダメージを与えられたようだ。
『俺とカマセのコンビに死角は無い!』
『キョーシャ、やっちゃって!』
自らはホーリードームの中で魔物の聖属性攻撃を完封し、邪属性に変換した遠距離攻撃でボスを着実に追い詰める。
本来であれば聖属性の相手はキョーシャさんにとって効果的な攻撃が出来ない厄介な相手の筈なのにカマセさんがいることでむしろ最高の相性になっているんだ。
「パートナーって良いな」
「京香さんだってボクのパートナーだよ」
「そう言ってもらえると嬉しいが、あんな風に協力して戦ってみたいんだよ」
「あはは、ボクらってソロの方が向いてるから中々そういう機会が無いよね」
ボクも京香さんも攻撃力が高すぎるから、協力する前に倒しちゃうんだ。
この先、もっと強い魔物と戦うことになったらキョーシャさん達みたいに協力することになるのかな。
"愛の共同作業素敵"
"属性反転なら私だって使えるのに!"
"使うだけならな"
"あの威力の攻撃を一瞬で丸々反転するなんて普通は出来ない"
"しかもカマセの話では聖→邪って通常の反転より大変らしいぞ"
"キョーシャの役に立つために特訓してたもんな……"
"キョーシャがスライムに喰われてからは特に必死だったし"
"もう二度とキョーシャを残して逃げるのは嫌だから"
"最後までキョーシャと共に戦うための力が欲しいから"
"救様式の特訓だってやってみせる!"
"あの配信は涙なしには見られない"
"あれ以上の神回は無いわ"
おっとボスが発狂モードに入ったのかな。
手に持った杖が仕込み杖だったらしく、刃を剥き出しにしてキョーシャさんに襲い掛かろうとしているのだけれど……
「あいつ容赦ないな」
「近づかせないように弾幕張るのは基本だよ」
「弾幕なのにほぼ命中してるじゃねーか」
「ボスの避けるモーションから行動を先読みして攻撃してるだけだと思う」
反転された聖属性のレーザー弾が悉くボスに当たる様子は見ている側としては爽快感があってとても気持ち良い。やられてる方はたまったもんじゃないだろうし、キョーシャさんの方は計算が大変で必死だろうけれど。
並列思考のスキルの覚え方を教えてあげれば少しは楽になるかな?
結局そのままボスに何もさせずに倒しちゃった。
ボクらの出番が無くてちょっとだけつまらない、なんて言ったら
「お疲れ様」
『俺達だけで倒してしまってすまない』
『この程度の相手なら余裕よ。むしろ救様の方が……』
カマセさんは最後何を言いたかったのかな。
思念共有で上手く伝わってこなかった。
「!?」
「!?」
『!?』
『!?』
どうやら勝利の余韻に浸らせてはくれないみたい。
猛烈なプレッシャーを感じたと思ったら、いつの間にか部屋の中に一人の若い女性が出現していたんだ。
剣先を地面に向けて立て、柄の上に両手を置いて姿勢良く立っている。
隠しボスのおでましだ。
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