5. [配信回] No.3 ダンジョンを攻略せよ ヴァルキリー

『ホーリースラッシュ!』

「次元斬!」

『ボルケーノ!』

「し……指弾」


 皆の火力がありすぎてボクの出番が全く無いや。

 だから遠方の天井で様子見しているコウモリを打ち落とすことにした。


 "連携とは"

 "ひたすら火力を叩き込むこと"

 "なんだか魔物がかわいそうになって来た"

 "ここって最難関ダンジョンのはずなんだけどなぁ"

 "初級ダンジョンの魔物を蹂躙しているようにしか見えない"

 "救様が活躍するチャンスが無いよ!"

 "いやいや、むしろ一番活躍してるだろ"

 "地味だけどあのウザコウモリを排除してくれるのはありがたい"

 "あいつらかなりの遠距離から不可視の音波攻撃してくるからな"

 "勇者様達が倒している魔物は囮説すらある"


 買いかぶりすぎだよ。

 だってボクらはカマセさんの補助魔法で音波攻撃耐性がついているから放置しても問題にならないもん。


『流石救様だ。最小限の動きで的確に魔物を倒すとは。私も省エネを覚えないといけないな』


 省エネしなくちゃって言ってるのかな。

 キョーシャさんがボクを呼んだ理由の一つがこれで、探索に力を使いすぎてダンジョン深層まで潜ると疲れちゃって引き返せざるを得なくなっちゃうんだって。


 だからボクらが攻撃に参加してキョーシャさんが疲れないように探索をする予定。

 でも抑えるどころかはっちゃけてる気がするのは気のせいだろうか。


 そしてもう一つ問題がある。


『おいコラ、てめぇさっき私ごと焼き尽くそうとしただろ』

『あんたなら避けられると信じてたのよ』

『嘘つけ。私の動きに合わせて発動場所をずらしやがったくせに』

『気のせいよ』


 相変らず京香さんとカマセさんの仲が悪いままなんだ。

 動きは鈍って無いけれど、本当に大丈夫なのかなぁ。


『ははは、仲が良いな』


 はははじゃないですよキョーシャさん。

 うう、不安しかない。


『おっと話し込んでいる場合じゃないか』


 さっそく次の魔物の群れ・・がやってきた。

 イギリスでは『No.3 ダンジョン』って呼ばれているここは洞窟タイプだけれど迷路じゃなくて通路がかなり広い。そして魔物が必ず複数体でやってきて、酷い時には十体以上が同時に襲ってくる。

 日本の九頭竜ダンジョンがこんな感じで多くの魔物と戦わされるんだけれど、派手な範囲攻撃で一掃するととても気持ち良いんだ。


 ちなみにイギリスでは日本と違ってダンジョン名に地名をつけないで数字で表現しているんだって。No.3 ダンジョンはもちろん最難関ダンジョンだ。


「ボクに任せて」


 さっきはほとんど何もしてなかったから、今度はボクが力を使おう。

 黒い水牛、二足歩行の熊みたいなの、巨大なトカゲ……地面を歩く魔物しかいないみたいだから、これでどうかな。


「グラビティ」


 上から地面に押し潰すように魔法をかけてみたけれど、歩みが遅くなっただけでまだこっちに向かってくる。


「ほい」


 そこで地面を強く殴ったらボクのコンボは完成だ。


『…………』

「…………」

『…………』


 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"


 あ、あれ、どうしたのかな。

 機械の故障……なわけないか。

 だってかのんが撮ってるんだもの、ありえないや。


 それならどうして。

 でもちょっとだけ懐かしいな。


 ボクが配信をはじめた頃はこんな反応が結構多かったっけ。


 "私の目がおかしいのかな"

 "俺の目もおかしくなったのかも"

 "救様が地面を殴ったら巨大な亀裂が出来たような……"

 "そしてそこに魔物が吸い込まれるように落ちたような……"

 "いやいやそんなまさか"

 "もしこれが現実で外でやられたら"

 "こらー! 考えないようにしてたのに言うなよ!"


 外でやるわけないでしょ!?


 ダンジョンだと謎の力で亀裂が自動的に修復されるからやったんだよ。

 その修復に魔物が巻き込まれて倒された扱いになるから、素材がいらないなら簡単で便利な倒し方なんだもん。


「な、なぁ救。まさか地球を真っ二つに割ったり出来ないよな?」

「京香さんったら何言ってるのさ」

「だ、だよな」

「京香さんだって出来るくせに」

「…………」

「冗談! 冗談だから!」


 京香さんが白目剥いて気絶するところだった。

 いくらボクだって地球を割るなんて出来る訳が無いよ。


 多分。


『こんな大掛かりな攻撃をして疲れないのかい?』

「うん」

『そ、そうか……』


 スキルも併用してるからね。

 キョーシャさんも少し練習すれば出来ると思うけどな。


「立ち止まっていると魔物がどんどん来るからさっさと行こうよ」


 深層までは地図があるので、それを見てひたすら真っすぐに下へ向かおう。

 その間の魔物は省エネでボクがどんどん倒すからね!


――――――――


 "まだ三時間も経ってないのにもう深層についちゃった"

 "結局ほとんど救様が倒してたけれど疲れて……ないか"

 "その場から動かずに殲滅してたしねー"

 "複数同時指弾が全弾命中でクリティカルヒット"

 "日本のラノベのタイトルかな?"

 "スキルの命中補正無しなのが意味分からない"

 "鍛えればあそこまで出来るようになるのか……"


 なるけれど、ここの魔物は数が多いだけで素直な敵が多いから当てやすくて効果的なだけなんだよ。

 それに指弾の威力はパラメータに大きく依存するから、硬い敵が相手なら弱点を狙っても普通は倒せない。

 限界突破スキルのおかげで楽させてもらっているだけなのを後でちゃんと説明しておかないと、指弾が強すぎるって勘違いさせちゃうかも。


『まさかここまで早く深層に到着するとは思わなかったよ』

『どうしてこの子にケンカ売ろうとしたのかしら……』


 この先はキョーシャさん達もどうなっているのか分からないから慎重に進まないと。


「壁も床も天井も白いなんて変な感じ」

「白すぎて不安になるな」


 つなぎ目の部分も全部が白いから、どこまでが壁なのかがとても分かりにくい。自分がどっちに向かっているのかの方向感覚も狂いそうだ。


「自動マッピングの出番だね」


 "自動マッピング?"

 "そんなスキルあるの?"

 "あると良いけど見つかってないスキルの代表例のはずなんだが"

 "そのスキルがあれば探索がかなり楽になるんだけど"

 "マッピングしながら進むのはかなり時間がかかるもん……"

 "これはまさか例の救様が歴史的発見を隠していたパターンか!?"


 残念ながらそのパターンじゃ無いんだよ。

 今回の配信直前に知ったことで京香さんも知っているから絶対に怒られないネタなんだ。


「かのん、お願いできる?」


 ここのダンジョン攻略を打ち合わせしている時に、深層のマッピングについてどうしようかって話をしていたら、かのんが任せて欲しいって言って来たんだ。

 びっくりしちゃったけれど、かのんにはうってつけの仕事だと思う。特にここは全方位が真っ白で方向感覚が狂いそうだけれど、機械のかのんなら感覚に頼らないから正確な地図を描いてくれるはずだ。


 "[かのん] まかせてなの"

 "かのんちゃん!?"

 "そんな機能まであるなんて"

 "有能すぎない?"

 "『記録』は得意分野だもんな"

 "えらいえらい"

 "[かのん] えへんなの"


 かのんはボクの役に立ちたがるから、こうしてお願いすると喜んでくれる。

 かのんがお話し出来るようになった最初の頃は戸惑いしかなかったけれど、今では立派なボクの仲間だ。


「敵襲!」


 かのんにマッピングを任せていざ進もうと思ったら、いきなり魔物が四体もやってきた。


「天使?」

「ヴァルキリーってやつか」


 真っ白な羽を生やした女性型の魔物が宙に浮きながらやってきた。

 目元まで隠れる兜を被っていてスカート型の鎧を着ているのだけれど、手足の露出がとても多い。

 魔物の見た目はコピーしているのかってくらいに似ているけれど、装備している武器だけは違っていて剣や槍や弓や鉾など多彩だ。


 キョーシャさんたちに一瞬だけ目配せするとそれだけで意思疎通が出来た。


 一人一体。


 ボクは槍使いが相手だ。

 

『~~~~!』


 言葉にならない叫びと共に突っ込んで来たけれど、精神異常の効果があるのかな。残念ながらボクたちには効かないけれどね。

 そして聖属性っぽいオーラを纏った高速の突きを連続で放って来るけれど、この程度のスピードなら軽く避けられる。フェイントも甘いしこれなら今の京香さんの方が遥かに強いや。


 ボク的には大して問題無い相手だって分かったのでもう終わらせよう。

 フラウス・シュレインを取り出してお腹の辺りで真横に真っ二つ。


 あ、しまった。

 装備の耐性とかも調べておけば良かった。


 フラウス・シュレインだと何でも斬れるから確認にならないんだよね。


 "救様が舐めプしてて笑える"

 "ヴァルキリーが必死で突いてるのに掠る気配すら無い"

 "というか私はヴァルキリーの突きが見えないんだけど"

 "それが普通。見えるのは極一部の強者だけ"

 "しかもあっさりと両断撃破ですかそうですか"

 "最難関ダンジョンの深層ですら余裕なのは本当だったんだねぇ"


 さて、他の皆はどうなったかな。


『攻撃を受けて分析する余裕まであるなんて……』

『こっちは必死だったのに!』

「救、あの槌女大したこと無かったぜ」


 キョーシャさんとカマセさんはシリアスな感じだけれどチラ見してた感じ余裕そうだったけどな。

 京香さんが余裕なのは知ってた。だってあのパラメータが異常な奥多摩ダンジョン深層の魔物相手でも力負けしないくらいに成長してるんだもん。


「キョーシャさんは実力的に問題なさそうだからもう少し肩の力を抜いて良いと思うよ。カマセさんは相性次第だから気をつけよう」


 なんて話をしていたらまたやってきた。今度は一気に増えて十体だ。


「京香さん!」

「おう!」


 ボクらが突撃して数を減らし、残りをキョーシャさん達に倒してもらってここでの戦いに慣れて貰おう。


『『『『~~~~!』』』』


 どれだけ叫びを重ねようともボクらには効かないんだって。


 油断していると怒られるから一気に片付けることにした。


 弓と聖属性魔法が降り注いできたけれど当たる前に駆け抜ける。

 するとそれを予想していたのか真正面からも光魔法のレーザービームが飛んで来た。


「甘いよ」


 フラウス・シュレインでビームを斬り、ついでに斬撃を飛ばしてビームを放ったヴァルキリーを撃破する。

 そのまま近くの斧持ちと盾持ちを真っ二つにして、後方で構えていたもう一人の魔法使いを撃破すればボクの仕事は終わりだ。

 京香さんも次元斬で無事に四体撃破したみたい。


『私も負けてられないな。フレイムランス!』

『弓使いが相手なら負けないわ。アンチアロー!』


 キョーシャさんは鉾使いのヴァルキリーを相手にしていて、炎属性の魔法と剣技を混ぜて連撃を仕掛けている。得意の聖属性の攻撃を使わないのは相手が聖属性に耐性がありそうだから。でもボクがバフをかけていることもあり、速さは圧倒的にキョーシャさんの方が上で通常の魔法と剣技だけで相手を翻弄しているから問題なく倒せるだろう。

 一方でカマセさんは弓攻撃を倍の威力にして跳ね返す特殊なスキルを使えるから、そのカウンターで相性の良い相手を危なげなく倒していた。


 カマセさんはボクと特訓した後に戦い方を変えて支援タイプになったから、本来なら一人でここの魔物は倒せないんだけれど、偶然相性が良い敵が居たって感じだ。

 支援ならボクが出来るけれど、それでもカマセさんに来てもらったのはキョーシャさんの強い希望によるもの。愛の力、じゃなくてとあるコンビ技が必要かもしれないからなんだってさ。


『勇者の力を使わずともどうにか戦えそうだな。いや、全ては救様のバフのおかげか』

「キョーシャさんの実力ですよ」


 だってボクのバフが無くても普通に倒せそうだもん。


「それじゃあここからは全力モードで良いですか?」

『ああ』


 全力モードとはボクの限界突破スキルを皆に付与して、バフで超パワーアップした状態で魔物達と戦うことだ。その状態でスムーズに動いて深層の魔物を倒せるかの確認をする。


 どうしてそんな確認が必要なのか。


 それはこのダンジョンアタックが、深層ボスの撃破まで予定されているから。

 そして当然その先にアレが起きる可能性も考えて準備したきたよ。

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