7.1 No.3 ダンジョンを攻略せよ 隠しボス 前編
『君に質問をすると答えてくれるのかな?』
『死に行く者には不要でしょう』
ゲームマスターさんの説明通りだとこれからは隠しボスが質問に答えてくれるらしいのでキョーシャさんが聞いてみたけれど、どうやらバッサリと断られた雰囲気だ。
でも別にボクたちはがっかりしていない。
だって倒さなきゃ何も話してくれないだろうなとは思ってたもん。
それにしてもせっかちじゃないかな。
さっきまで堂々とした姿で立っていた隠しボスが剣を手にして戦闘モードになっちゃった。
ボクの時はもう少し戦闘前の会話が続いたんだけどなぁ。ほとんどが意味なかったけれどね。
『私はソーディアス。そなたたちの絶望』
隠しボスも英語ということは、出現した地域の言語を話すということなのかな。
ボクが日本で出会った隠しボスは日本語だったから海外の人は頑張って訳したらしいし。
『私はキョーシャ。グレートブリテンの勇者だ』
名乗りに対して名乗り返すのは礼儀かも知れないけれど、ボクらの存在忘れてません?
視線バッチバチで楽しそうに睨み合っているけれど、さっきまで隠しボスのオーラに震えていたカマセさんが嫉妬で冷静になってジト目になってるのキョーシャさんは気付いてないみたい。
ソーディアスは美人さんだけれど、キョーシャさんは単に隠しボスと戦うシチュエーションに燃えているだけだと思うよ。そんなことはボクが言わなくても気付いているか。
『参る!』
『参る!』
ボクの場違いな心配をよそに、二人は同時に駆け出してお互いに剣を振るい打ち合い出した。
「あいつの武器大丈夫か?」
「ボクが鍛えたから多分耐えられると思う」
ソーディアスの剣は間違いなくダンジョン深層にすら存在しない業物だろう。
一方でキョーシャさんの剣はここの中層で見つけた物なので格が明らかに下だ。でもボクが徹底的に強化しまくったから隠しボスの武器にだって負けないと思う。
だからと言って何も問題ないわけがない。
相手は隠しボス。しかもどう見ても剣技に自信があるっぽい佇まいだ。
「武器以前にあいつがダメそうだな」
「うん、準備しようか」
お互いに技と技をぶつけ合い高速で撃ち合っているのだけれど、キョーシャさんの方が押され気味。隠しボスの方が剣技が間違いなく上。このままだと防御を崩されて負けてしまうだろう。ボクが限界突破させているとはいえ、むしろよく食いついていると思うよ。
『キョーシャ!』
ソーディアスの横薙ぎを受けきれずに大きく後ろに跳んだけれど体勢が崩れてしまった。このままだと致命的な一撃を喰らってしまう。
もちろんそんなことはさせないけどね!
「ていっ!」
ソーディアスがキョーシャさんに攻撃する前に入れ替わりでボクが彼女の相手をする。
完璧に虚を突けたと思ったのにフラウス・シュレインの一撃をガードされちゃった。
武器破壊も出来なかったからやっぱりソーディアスの剣も特別製で間違いないね。
それなら真っ向から剣技で叩き潰してあげる!
部屋中を縦横無尽に動き回り幾度となく剣を交える。
ボクらの足音と剣の音色が激しく鳴り響くけれど、それを楽しんでいる余裕なんてもちろん無い。
フェイントを入れ、スキルで予想外の動きを仕掛け、体術も交える。
お互いの動きを読み合い、速さと力を比べ合う。
なるほど、確かにソーディアスの剣技はとんでもない。
日本で一人で戦っていた頃のボクだったら、勝つのは困難だったかもしれない。
でも今のボクなら勝てる。
何故ならボクはここ最近特訓していたから。
レベルが低くて人気のないダンジョンに入って『特訓スキル』を使って自分自身と戦ったんだ。そのおかげで更に強くなれたよ。
だから今のボクなら例え剣聖だろうが剣王だろうが剣神だろうが勝って見せるさ。
幾度も打ち合ったことで相手の力量が大体分かったのでここらへんで攻勢を強めてみよう。
『!?』
一瞬だけスピードアップして斬りつけたけれどギリギリでガードされちゃった。
でもそのまま強引に剣ごとソーディアスを強く押してバランスを崩そう。
ソーディアスは自ら後ろに大きく跳んでバランスをどうにか保とうとしている。
それがボク
「うおりゃああああああああ!」
ソーディアスの着地のタイミングを狙って京香さんが次元斬で斬りつけた。
流石京香さんだ、普通なら絶対に躱せない完璧なタイミングで仕掛けてくれた。
「ちっ!」
でもソーディアスは着地を待たずに空気を蹴って逃げちゃった。
そりゃあ空中機動くらい使えるよね、残念。
「逃げるな!」
そのまま京香さんはソーディアスを追って次元斬による連撃を仕掛けている。剣で受けずに避けているということは効果があるのかな、って思ったら普通に受け止めた。少しだけ観察して見破ったのだろう。
「救といいこいつといい、簡単に受け止めやがって!」
とはいっても京香さんは次元斬が無くとも強い。
大剣を自在に操ってソーディアスの高速攻撃を的確に受け止めながらも反撃出来ている。スピードはソーディアスが上、力は京香さんが上、技量は互角って感じかな。
「オルァアアアア!」
チャンスだ。
京香さんがソーディアスの動きを捉えてガードごと吹き飛ばした。
さっきのボクの攻撃の時よりもはっきりと体勢が崩れている。あれなら空中機動で逃げるのも難しそう。その隙を逃さずボクが追撃すると、ソーディアスは崩れた体勢のまま強引に突きを放って来た。
もちろんそんな苦し紛れの攻撃が当たる訳もなく、その攻撃はボクの左側を通過する。
懐に入ったぞ。
完璧に捉えた!
フラウス・シュレインをソーディアスの腹部に向けて一閃。
大ダメージ間違いなしだ。
そう思っていたのに。
「え?」
戦いの最中に思わず声を漏らしてしまうほどに不可解なことが起きたんだ。
ボクに突きを放って伸び切っていたはずの腕が何故か折りたたまれてボクの攻撃を剣でガードしたんだ。もし力任せに折りたたもうとするならば、ボクの体に絶対に当たるはず。まるで腕と剣が瞬間移動したかのような奇妙な動き。
嫌な予感がするので一旦距離を取ろう。
「救、今のは」
「分からない。でも見て、雰囲気が変わったよ」
ボクらの攻撃を防ぎ切ったというのに、ソーディアスの表情が苦々しい感じに変わっていたんだ。
『まさかこの私が剣技で押されるとは』
まだダメージを与えていないけれど、ソーディアスとの戦いのステップが進んだような気がする。
先程までとは違ってカウンターを狙っているかのような構えで攻めてこない。
「試してみるわ」
「気を付けて」
相手が近づいて来ないなら遠距離攻撃の出番のように思えるけれど、なんとなくそれは最悪な展開になりそうな予感がするので誘いに乗ってあくまでも接近戦で勝負を挑む。
「オルァアアアア!」
京香さんったら、カウンターを受ける前に両断するぞって感じの勢いだ。
「!?」
でも後一歩で攻撃が届きそうな程に近づいたら、途端にバックステップして逃げて来た。
「どうしたの?」
「……斬られて無いよな」
「え?」
斬られるも何も、ソーディアスは微動だにしてないよ。
京香さんは何を感じたのだろうか。
「ボクも試してみるね」
「気をつけろよ、マジで」
「うん」
忠告通り、ちょっとした保険をかけて攻めてみる。
慎重にゆっくりとソーディアスに近づき、相手の様子を伺いながら攻め手を考える。
でもソーディアスはボクの方すら見ずに構えたままだ。
一歩、また一歩。
そして京香さんと同じく後一歩で攻撃が届くといった距離まで近づくと……
斬られる!
右肩あたりからばっさりと斬られる姿が突然脳裏に浮かび、ボクは安全策として用意してあったソーディアスの背後の分身と位置を入れ替えた。そしてそのままソーディアスに背後から攻撃をしかけようとする。
ダメだ、やっぱり斬られる!
ソーディアスは後ろを振り返ってすらいないのに、確実に斬られる予感がする。
そして最初の予感通り、ボクの分身は斬られて消滅してしまった。
「京香さん見えた?」
「いや、見えない」
「やっぱり……」
ボクの分身は斬られたけれど、ソーディアスは相変わらず一歩も動いていないんだ。
あまりにも攻撃が速すぎて見えなかった可能性もあるけれど、今のボクが全く捉えられないのはおかしいと思う。
『救様、京香さん、アレはアブソリュートキラーっていうスキルだよ』
答えに気付いたのはキョーシャさんだった。
『相手を斬ったという確定した未来を生み出し確実に死に至らしめるカウンタ―技。近距離攻撃へのカウンターは範囲が狭いけれど、遠距離攻撃の場合はどれだけ離れていてもカウンターを発動してくるらしい』
なにそれ。
迂闊に遠距離攻撃したら逃げられなくて詰んでたかもしれないじゃん。
危ない危ない。
ソーディアスからは自分から攻撃を仕掛けてくる気配を感じられないので、警戒しつつここは京香さんに訳してもらいながらしっかりと話をしよう。
「『スキル鑑定』で見えたの?」
『イエス』
キョーシャさんが持つ特殊なスキルで、魔物がスキルを使った時にその情報が見えるらしい。
ボクの分身をソーディアスが斬ったことでスキル発動扱いになって鑑定出来るようになったのかな。
「そうと分かればやりようはあるね」
「どうやるんだ?」
一番簡単なのは
だからもっと安全なやり方を選ぶ。
「未来を強制的に固定するなら、その
「????」
『救様は何を言っているんだ?』
『良かった。分からなかったの私だけじゃなかった』
有名な話で矛盾という言葉がある。
何でも貫く矛と何でも防ぐ盾。
それならその矛で盾を貫こうとしたらどうなるのか。
ボクの答えは『後から宣言した方が勝つ』だと思う。
つまり先に『この矛は何でも貫く』と宣言するとその時点ではその矛は宣言通りに何でも貫けて、後から盾が出て来て『この盾は何からも貫かれない』と宣言すると、その『何からも』には何でも貫けるはずだった矛も含まれるようになるんだ。
アブソリュートキラーも同じで、ボク達が斬られる未来が確定させられたのなら、その後により上位の別の未来で上書きしてしまえば良いんだ。
「まぁ見ててよ」
上書きする方法はいくつかあるけれど、今回のケースにうってつけのスキルがあるからそれを使おう。
念のために遅延蘇生をかけてからフラウス・シュレインを手にソーディアスに突撃する。
攻撃特化の最速の一撃。
ソーディアスがカウンターを繰り出す前に攻撃してしまえば良い、というわけではない。
どれだけ攻撃が速くても範囲内に入った瞬間にアブソリュートキラーは必ず発動するはずだ。
ほらね、カウンター効果範囲内に入ったらまたボクが斬られる姿が脳裏に浮かんだよ。
「カウンターカウンター」
カウンタースキルに対するカウンタースキル。
ボクの攻撃に対して放たれたカウンタースキルのアブソリュートキラーに対して、効果を増大させて全く同じカウンターを放つ。
炎のカウンターに対しては、威力を増した炎を返す。
斬撃のカウンターに対しては、威力を増した斬撃を返す。
弓攻撃のカウンターに対しては、威力を増した弓攻撃を返す。
それなら未来を確定させるカウンター攻撃に対してはどうなるかと言うと……
「もらったよ!」
ボクが斬られるはずだった未来が、ソーディアスを斬る未来で上書きされることになるんだ。
カウンタースキルに対する最強のカウンタースキル。
それが見事に成功してソーディアスの体は一瞬後には斬られるだろう。
「え?」
でもその未来が確定する瞬間、ボクは謎の力により後方に弾き飛ばされてソーディアスも無事だった。ボクが離れようがあの未来は必ず発動するはずなのにどうして。
『アアアアアアアア!』
ずっと静かに剣を構えているだけだったソーディアスが耳をつんざくような叫び声をあげてまた雰囲気が変わった。
「もしかして一気に倒せないパターンの敵なのかな」
「条件タイプか。面倒だな」
ボスの中には順番や条件を守らないと倒せないタイプがいるんだ。普通のボス相手ならフラウス・シュレインでその条件を無視して倒すことが出来なくはないけれど、流石に隠しボス相手だとそれは出来ないんだね。
序盤は剣技で上回ること。
次はカウンター技を打ち破ること。
そしてその次は何を攻略すれば良いのかな。
戦いはまだまだ続きそうだ。
--------
あとがき
隠しボス戦が終わらないので初の8話構成です
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