4. [配信回] シルバークッキング 食料調達

「…………ふふ」

「…………あはは」


 あ、あれ。

 険悪な雰囲気だった筈なのに何故か笑い合っている。


「さぁ、救ちゃん行こう。おっと今日はシルバーマスク様だったね」

「う、うむ。もう良いのか?」

「うん」


 友2さんはこれで良いのかな。


「いってらっしゃーい」


 ええ、まったく気にしてないよ。

 一体どういうことなの?


 "どうなってるのこれ"

 "遊んでるだけだろw"

 "仲悪いって雰囲気じゃなかったもんな"

 "でも京香様の方は本気に見えたんだけどなぁ"

 "冷静になっておふざけだって気付いただけでは"

 "そういえば京香様の顔が少し赤くなっているような?"


「さ、さあ行くよ!」


 良く分からないけれど、二人がそれで良いならOKなのかな?


 京香さんに強引にダンジョン内に引っ張られて今度こそ出発だ。


「そういえばかなり早く来たのだな」

「うん、シルバーマスク様に一秒でも早く会いたくて」

「……東京からわざわざここまで走って来たのか」

「そうだよ。このくらいじゃ動揺しないかぁ」


 そういうの良くないと思います。

 シルバーマスクのイメージを壊さないように必死なんだから止めてよね。


 このマスクには精神安定系の付与を沢山してあるのに、どうしてそれを突破するくらいのいたずらしてくるの。


 それはそれとして、走ってここまで来たのか。

 ボクも転移の指輪を手に入れるまでは走ったり飛んだりして移動していたから懐かしいな。


「転移が使えれば楽なんだけどなぁ。そういえばシルバーマスク様は転移使えるの?」

「使えるぞ」

「え? でも使ったこと無いよね」

「魔力の使用量が膨大過ぎて割に合わないからな」

「へぇ、そうなんだ」

「短距離転移で半分以上持ってかれる」


 だから転移するくらいだったら高速で移動した方がマシなんだ。

 ハーピアも短距離転移で逃げていたけれど乱発はしてなかった。魔物側も魔力使い過ぎ問題は同じなんだと思う。


 "シルバーマスク様ですら魔力残量気になる程なのか"

 "便利だけどめっちゃコスパ悪いのね"

 "むしろ便利すぎるから制限かかってるんだろ"


「そっかぁ……せめて相手を近くに引き寄せるスキルがあれば良かったな」

「何に使うかは聞かないでおこう」


 どうせボクを引き寄せたいとか言うつもりなんでしょ。

 そのくらい分かるようになったんだからね。


 "そのスキルあるなら探索者やります"

 "救様をお取り寄せできるってマ?"

 "奪い合い不可避"

 "常に京香様とかシルバー姉あたりが発動してそうw"


 ちょっとした話をしていたら中層に辿り着いた。

 ちなみに今日は戦闘を回避するルートで移動しているから、京香さんはまだ大人しいモードのまま。

 上層ボスはボクが一瞬でサヨナラしたよ。


「いるね、マウンテンタートル」


 山のように大きな亀というのは比喩じゃない。

 本当に山と見間違えるくらいのサイズなんだ。

 富士山程じゃないけれど、標高数百メートルはあるんじゃないかな。


 "でっっっっっっっか!"

 "マジで山じゃん"

 "あれ本当に魔物なの?景色の一部にしか見えないんだけど"

 "甲羅に森生えてるから尚更山にしか見えないな"

 "ほぇ~あんなのが外に出てきたらクッソ邪魔だわw"


「どうやって倒すの」

「まずは近くに行く」

「りょーかい」


 マウンテンタートルの倒し方はいくつかある。


 その一つは露出している頭や手足に最大火力の攻撃を叩き込むことだ。

 でも露出部分も守備力高いし、危険を察知すると直ぐに甲羅に隠れてしまうから倒しきるのは難しい。


 "分かった。聖剣使って倒すんでしょ"

 "そういえば無敵の魔物も倒せるって前に言ってたな"

 "無敵とは"

 "神?がくれたチート装備だからしゃーない"


 そしてもう一つの倒し方がコメントで話が出ているようにフラウス・シュレインを使う方法だ。

 確かにこれならマウンテンタートルの甲羅をあっさりと斬ることが出来る。


「残念ながら今回はフラウス・シュレインを使わないぞ」


 でもそれだと見た目的につまらないかなって思って、第三の手段を使って倒そうと思っている。

 間違いなく配信映えするし、皆から怒られるような危険も無い方法だよ。


 マウンテンタートルの近くまで来たので準備を始めよう。


「これから我はしばらくの間無防備になるが、マウンテンタートルの近くには他の魔物は寄って来ないから安心だ。だが念のため彼女に守ってもらうつもりだ」

「シルバーマスク様が安全を考慮して私に守ってもらおうとするなんて……成長しちゃってお姉ちゃんはちょっと寂しいな」


 だから同い年だって何度も言ってるのに!


「攻略方法は実演しながら説明する。まずは『魔力武器生成』」


 その名の通り、魔力を使って武器を生成する。

 イメージする武器は両手持ちの『ハンマー』だ。


 もちろんただの『ハンマー』ではない。

 マウンテンタートルに攻撃をするのだから、それに匹敵する大きさにする必要がある。


 "でっっっっっっっっっっっっっっか!"

 "でかすぎんだろ"

 "あれってハンマーだよな?"

 "数百メートルの高さのハンマーを生成するとか意味分からんw"

 "あんなん反則だろwww"


 コメントの反応はそこそこ好反応なのかな。


「シルバーマスク様、でもそれって……」

「うむ。試しに一度攻撃してみよう」


 手に持った巨大な魔力ハンマーを思いっきり目の前のマウンテンタートルに叩きつけた。


 バリ゛リ゛リ゛リ゛リ゛リ゛リ゛リ゛ン!


 甲羅にぶつかった瞬間、ガラスが割れるような音が周囲に響き渡る。


 "うるせえwww"

 "耳がー!耳がー!"

 "知ってた (魔力武器が脆い事を知ってる探索者)"

 "先に言えよwww"

 "音量注意!"

 "お前も先に言えよwww"


 あっそうだった。

 うるさいって事前に言うべきだったね、ごめんなさい。


「この通り、魔力武器で攻撃しても効果は薄い」


 もう一度、巨大な魔力ハンマーを生成する。


「それゆえ、まずは武器に魔力を注いで耐久力を向上させる」


 魔力武器は魔力を注げば注ぐほど硬くなる。

 ただ必要な魔力がそれなりに多く、魔力武器だからといって特殊な効果があるわけでもないので、通常は普通の武器を使うべきだ。武器を紛失したとか、柔らかくても良いので手数を増やしたい時なんかに使うイメージかな。


 魔力ハンマーに魔力を注ぐと、ほんのりと光を放ち始めた。


「しばらく時間がかかる故、今のうちに次の手順を説明しておこう」

「次の手順?」

「うむ。武器を硬くしただけでは攻撃した時に壊れない程度の意味しかない。肝心なのはマウンテンタートルの守備力を超える威力の攻撃をすることだ」

「分かった。バフをかけて限界突破して攻撃するんでしょ。それなら攻撃が通りそう」

「いや、今回は限界突破はしない」


 何故ならボク以外の人でも実現可能な方法を見せて、やってみたいって思わせることが狙いだから。倒せないと思えるような相手を工夫して倒す楽しさを知ってもらいたいんだ。

 この巨大な魔力ハンマーだって初歩的なスキルであって大きくするのも簡単だから、現時点でも作れる人が結構いるはずだよ。普段は意味ないからやらないだけでね。


「それじゃあどうやって攻撃するの?」

「魔力チャージを使う」

「え?」


 魔力武器に魔力を注ぐのとは意味が違い、次の魔力攻撃の威力を増大させるスキルだ。

 例えばファイアーボールは誰が使っても威力は似たり寄ったりだけれど、魔力チャージをすることで破壊力が激増する。魔力ハンマーでの攻撃も魔力攻撃扱いになるので魔力チャージで攻撃力をアップさせることが出来る。幸いにも基礎パラメータにはカンストの概念があるけれど、攻撃の威力には上限が無い。つまり溜めれば溜めるほど威力が天井知らずで上昇するということだ。


 もちろん、デメリットも沢山ある。


 まずチャージに時間がかかる点。

 威力が二倍になるには一分程度時間がかかり、その間魔物が待っていてくれるはずがない。


 次に、一歩でも動いたらチャージが解消されてしまうということ。

 戦闘中にその場に立ち続けるなんてまずあり得ない。


 それならタンクなどに守って貰えば良いのではと思うかもしれないけれど、残念ながら魔力チャージを使うと魔物が最優先で狙ってくるし、魔物によっては全体攻撃を連発するようになる。


 これらのハードルを乗り越えて初めて高威力の攻撃を放つことが出来るんだ。


 でもマウンテンタートルは攻撃してこないし、周囲に魔物がいないからチャージし放題だ。つまり全力で攻撃を放てるってことになる。


「でもシルバーマスク様、他の人がチャージスキルを使って攻撃したけれどダメだったって聞いたことがあるよ」

「うむ。無敵と思われている要因はそれかも知れないな」


 確かに、ただ威力を上昇させるだけだとマウンテンタートルの甲羅に弾かれるから、もう一つ工夫が必要なんだ。


「マウンテンタートルはあらゆる攻撃を無効化する障壁を定期的に纏っている。それゆえ、まずは複数回攻撃をしてその障壁を解除する必要がある」

「え?」

「一人で倒す場合はディレイ攻撃を使ってチャージ終了のタイミングに合わせて発動させるなど色々と方法があるが、せっかく今日は二人なので障壁破壊は任せようと思うのだがどうだ?」

「もちろん良いけれど、どんな攻撃したら良いの?」

「中級の魔物を倒せる程度の威力の攻撃を十発くらい当てれば確実だな」

「分かった、やってみるね!」


 ちなみに無敵障壁を解除した後に攻撃が通るなら、そんな巨大ハンマーを使って高威力攻撃をしなくても良いのではって思われるかもしれないけれど、残念ながら障壁無しの素の耐久力も凄まじく高いので高威力攻撃は必須なんだ。


 よし、魔力ハンマーの硬化が終わったからチャージに入ろう。


「これからチャージに入る。我の守護と、無敵障壁の解除を頼む」

「おうよ、任されたぜ」


 京香さんも戦闘モードに切り替わったね。

 元々安全だったけれど、さらに安全になったから安心してチャージしよう。


「すぅ……」


 少しだけ深呼吸して気持ちを整える。


「ぬぅうううううううう!」


 全身の魔力を高めてチャージを始める。

 体がポカポカして気持ち良い。


 "シルバーマスク様の気合シーン!"

 "救様が唸るのって激レアじゃね?"

 "超巨大なハンマー構えて気合溜めとか滅茶苦茶格好良いじゃねーか"

 "待って、救様の体が薄く金色のオーラに包まれてね?"

 "どこぞのバトル漫画で見たことがあるんだけどw"

 "魔力じゃなくて気を溜めてるのかな?"

 "いやいや、魔力チャージってこんな風にならねーから"

 "やっぱり救様ならではの何かがあるのか~"

 "[カメラ(AI)] 演出です"

 "は?"

 "え?"

 "へ?"

 "AI?"

 "荒らしとか?"

 "でも友3が変なの来ないようにチェックしてるんだろ?"

 "ミスったとか?"

 "[シルバー友3] AI搭載カメラにバフかけ続けてたら変な進化した"

 "ちょwww"

 "どういうこと!?"

 "まさか人格が……?"

 "いやいやいやんなことあるわけないだろ…………ないよな?"

 "本当ならあのオーラ、配信映えのためにカメラが勝手に付与したのかwww"

 "演出魔法は大草原"


 なんか体の周りに何かがまとわりついているような気がする。でも害は無さそうだし、京香さんも苦笑しているだけで止めてこないから今は気にしなくて良いのかな。


 よし、このくらいチャージすれば大丈夫だ。

 京香さんに目線で合図した。


「おっしゃあ、待ってたぜ! オラオラオラオラオラァ!」


 十発で良いって説明したはずなんだけどなぁ。


「別に私が倒してしまっても良いのだろう?」


 いやいやダメだって。

 せっかく用意したのに無駄になっちゃうじゃん。


 京香さん程強いと倒せそうだから本当に止めて!


「な~んてな。シルバーマスクの見せ場を奪う真似なんてしねーよ」


 ふぅ、良かった。


 京香さんがどいてくれたし、それじゃあやりますか。


「アビスインパクト!」


 巨大な魔力ハンマーがマウンテンタートルの甲羅に直撃すると今度は壊れることなく円形の衝撃波が広がり……え、待って、そんな衝撃波なんて発生しないはずなんだけど。それに純粋に破壊するだけなのに、どうして壊れたところが光に還るかのようなキラキラしたエフェクトが発生してるの!?


 "すっご"

 "めきめきめき~って山が崩壊してら"

 "ぶつかった直後の衝撃波とか超格好良いんだけど"

 "アビスインパクトってあんなエフェクト無かったはず……"

 "まさか"

 "亀の全身がキラキラして昇天しそうなのもまさかw"

 "めっちゃ格好良いけどさ! 良いけどさぁ!"

 "カメラさんが有能すぎて草生えちゃう"

 "救様渾身の演出がカメラさんの力でパワーアップしてるのに、カメラさん登場のインパクトで全て台無しというw"


 ハンマーを振り下ろし終わると、そこには崩れ落ちたマウンテンタートルの体だけが残った。


 皆格好良いって思ってくれたかな。

 自分もやってみたいって思ってくれたかな。


 敢えて説明しなかったけれど、魔力が足りない場合は魔力自動回復を付与した装備を用意するとか、物理系のチャージスキルでも可能だとか、あんなに大きな武器を使わなくてもコツコツダメージを与えて倒す方法もあるとか、ボクと違うやり方での倒し方も色々とあるんだ。

 いっぱい考えてチャレンジして楽しんでくれたら嬉しいな。


「さぁ、素材剥ぎで食材を集めるよ」


 今日のメインは料理だから、お肉を沢山確保しないとね。

 ボクが素材剥ぎを使えば高確率で成功するはずだから……よし、ゲットだぜ。


「シルバーマスク様、お疲れ様」

「うむ」

「シルバーマスク様はカメラのこと知ってるの?」

「何のことだ?」

「あ~そっか。知らないんだ」

「?」

「後で話すよ。今は食材集めをしないとね」


 カメラって何の事だろう。

 気になるけれど、京香さんの言い方はボクに問題がある的な雰囲気じゃなかったし、後で教えてくれるそうだからそれで良いか。さっきの変な現象についてもその時に聞こう。


 さぁ~て、次は下層の畑フロアに爆裂芋とかバレットキャロットとかを確保しにいくぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る