3. [配信回] シルバークッキング 開始前挨拶

「シルバーマスクと」

「シルバー友2の」

「「ダンジョンクッキング!」」


 てれれって~れれ、てれれって~れれ、てれれれれてれれれれってって。


 小気味よい音楽と共に始まったのは、いつもと違ったダンジョン配信。

 タイミングに合わせて音楽を流してくれているのは友3さんだ。


 ボクと友2さんは、とあるダンジョンの入り口付近で配信を開始した。


「やった、シルバーマスク様と一緒にタイトルコール出来た!」

「喜びすぎではないか?」

「あはは、誰だってこうなっちゃうよ~」


 "まさかのシルバー友2降臨"

 "普通に可愛いんだけど"

 "デート中毒の子だよね"

 "こんな子にデートしよって言われたら断れない"

 "笑顔がめっちゃ良い"

 "救くんちゃんとは別の意味でピュアみがある"


 どうして友2さんがボクの配信に出ているのか。

 それは今回の料理企画を友2さんが考えたからだ。


「皆は今日の配信内容を理解しているか?」


 "かなしい"

 "俺も行きたかったよー!"

 "抽選倍率高すぎんよ"

 "せめて都内なら行けたかもしれないのに……"

 "救様の配信で見るのを躊躇してるの初めてw"

 "現地組裏山"


 ぷぎゃ!?

 ボクの配信でこんなネガティブな反応なんて初めて見たよ。

 やらない方が良かったのかなぁ。


「こらこら、シルバー様が気に病むからそういうのは無しだよ」


 "は~い"

 "シルバー様が楽しそうにしてるだけで満足です!"

 "今日の配信も楽しみだなぁ"

 "シルバー様かわいい"

 "仮面の下を透視するのやめろw"

 "いやまて、ガチで仮面好きなのかもしれんぞ"

 "上級者やな……"


 わぁ凄いや。

 友2さんの一言でいつもの変な流れに戻っちゃった。


「感謝する」

「えへへ、シルバーマスク様にお礼言われちゃった」


 "はい可愛い"

 "友2のポテンシャルやばない?"

 "配信者になったら一気に人気出そう"

 "どこぞのコミュ障よりも会話出来そうだしな"

 "コミュ強と比較するのはやめたげて"

 "というか京香様が嫉妬しないか心配"

 "救様のパートナー枠をかっさらわれる危機w"


 どうして京香さんが嫉妬するんだろう。


「彼女は今回もいつも通り協力してくれるぞ」


 少し遅れるけれど、参加してくれることになっている。


 "はぁ……(クソデカため息)"

 "これは分かってない反応ですな"

 "仮面越しでも分かる"

 "女の独占欲を舐めたらアカン"

 "今ごろ猛ダッシュで向かってそうw"


 またまた、そうやってボクを揶揄うんだから。

 だって京香さんは友2さんと面識あるけれど、いつも普通にお話してるよ。


「それじゃあ今日から私が救ちゃんねるの正パートナーってことで」

「ぷぎ……くっつかないでもらおうか」


 それに正パートナーって何さ。

 ボクはそんなの決めるつもり無いよ。


 "友2の先制攻撃!"

 "京香様は大ダメージを受けた"

 "真正面から右ストレートぶっぱなしてて草"

 "女の戦い勃発か!?"

 "[二心京香]後でお話があります"

 "ひえっ"

 "がくがくぶるぶる"

 "こわぁ"


「ふっふ~んだ。早く来ないと本当に奪っちゃいますよ~」

「だからひっつくなって言っているだろうが」


 "更に煽ってるwww"

 "でも嫌味無いのがすげぇ好き"

 "マジで心底楽しそうにしてんな"

 "一方で京香様はガチギレしてそうな雰囲気"

 "救様は怒りっぽい女性は苦手っぽいよな"

 "これは勝負あったか?"

 "[二心京香]別に怒って無いもん"

 "あざといけどわざとらしいwww"

 "普段そんな口調じゃないですよねwww"


 やっぱり皆でふざけているだけだよね。

 ボクの配信はこういうのに反応してたら一向に話が進まないからスルーすべきだって知っている。


「そろそろ本題に入るぞ」

「は~い」


 今日の配信はダンジョン飯。

 人気コンテンツで他にもやっている人はいるけれど、上級ダンジョン以上の食材を使って料理する人はまだいないみたい。今回はボクがそれらを使って料理するっていうコンセプトだ。

 ボクとしては深層ダンジョンの素材を使いたかったけれど、まだ入っちゃダメって言われちゃった。


「シルバーマスク様、皆のために頑張ろうね」

「そうだな」

「シルバーマスク様の料理、千人以上の人が待ってるから」

「そ、そうだな」


 どうしてこうなった。

 ボクが作った料理を皆に振舞うのは良いよ。


 でもなんで千人以上も集まったのさ!


 しかも友2さんも京香さんもボクに挨拶させようと画策している気配がある。どうにかして裏方で料理するだけで終わらせるように誘導しないと。


「それで今日作る料理は何?」

「芋煮だ」

「戦争が起きるやつじゃん」

「ぷ……物騒なことを言うな」


 "ちょくちょくぷぎゃりそうなの草"

 "友2さんも狙ってる節あるよなw"

 "芋煮か~ワイは醤油と豚肉派"

 "は? 牛肉に決まってるだろ"

 "味噌以外は芋煮だなんて認められないわ"

 "味噌とかありえねえしwww豚汁でも食ってろwww"

 "こんにゃく入ってればどっちでも良いかな"

 "いやいや、芋煮の主役は里芋だろ"

 "さwwwとwwwいwwwもwww"

 "ぶっちゃけジャガイモで十分だよな"

 "なんでや里芋美味しいやんけ"

 "舌触りがねっちょりしてちょっと……"

 "本当に美味しい里芋を食べたことが無いんですね"

 "味噌味なのに芋煮だなんて言ってる奴は誰だ!"

 "てめぇさらっと蒸し返しやがって、これだから醤油派は汚い"


 ぷぎゃああああああああ!

 本当に争いが起こっちゃった!


「友2よ、これはどうしたら良いのだ」

「シルバーマスク様が好きな味を堂々と宣言すれば良いんだよ」

「それは火に油を注ぐような気が……」

「平気平気。それにどうせ救様が調理したら好みバレちゃうし」

「ぬぅ」


 やっぱりケンカになるなら違うメニューにしようかな。

 なんて悩み始めたら友2さんがこっそり『皆ふざけてるだけだよ』って教えてくれたから芋煮のままで進めることにした。皆のコメントの意図が大体分かって来たかなって思ってたけれど、まだまだだなぁ。


「はいは~い、今日の芋煮の具は?」

「メインは芋と肉、そして野菜とキノコを予定している」

「お肉は何の肉なの?」

「亀肉だ」

「かめ?」


 コメントでもあったように芋煮に使うお肉と言えば牛肉か豚肉が一般的だ。ダンジョンの中にもそれらを模したらしき魔物が出て来てお肉もドロップするけれど、今回はちょっと変わった趣向を考えている。


「このダンジョンに出現するマウンテンタートルがとても美味しくてな。肉の量も多いから、大人数に振舞うには丁度良いかと思ったのだ」

「なるほど、だから鳥取砂丘ダンジョンに連れてこられたんだ」


 "はぁ!?"

 "何言ってるの!?"

 "マウンテンタートルを倒す????"

 "アレって倒せるの……"

 "ただの動くオブジェクトだと思ってた"

 "攻撃が一切通じないんですけど"

 "ダンジョンまとめには『背景だと思えば良い』って書いてあるぞw"

 "背景を食べる探索者"


 マウンテンタートルは名前の通り、山のように大きな亀の魔物だ。攻撃を全くしてこないで、フィールド上をゆっくりと歩いているだけ。守備力が高くて特に甲羅は物理攻撃も魔法攻撃もほとんど効かない。かといって頭や手足を狙うとすぐに甲羅に隠れて守りモードに入ってしまう。


「マウンテンタートルのお肉って美味しいの? 大きい食材は大味でいまいちだってテレビで言ってたよ」

「ふむ、他の食材のことは分からないが、マウンテンタートルの肉は煮込むと……いや、今言うのは無粋か」


 実食まで楽しみにしてもらおう。


「ではそろそろ行ってくる」


 友2さんは探索初心者だから上級ダンジョンには入らず、外で芋煮を皆に振舞う準備をしてもらうことになっている。


「え~もう行っちゃうの。寂しい~」

「む」

「ちぇっ、逃げられちゃった」


 そう何度もくっつかれるわけないでしょ。


 "夫婦かな"

 "イチャイチャしやがって(もっとやれ)"

 "あざとい"

 "全力でぷぎゃらせに来ていて草"

 "救様も次は危ないと思って避けたっぽいなw"

 "救くんちゃんモードに攻める姿も見せて欲しい"

 "それぷぎゃりすぎで配信にならないやつwww"

 "あっ"

 "あっ"

 "あっ"

 "友2オワタ"


「救ちゃ~ん、お・ま・た・せ」

「ぷぎゃ……んっ、間に合ったようだな」


 今の京香さんはボクでも油断すると捕まってしまう。

 それに今回はあまりの猛スピードで突撃して来たから避けられず抱き着かれちゃった。


「救ちゃん救ちゃん救ちゃん救ちゃ~ん」

「こら、止めなないか」

「止めな~い」


 ぷぎゃああああああああ!

 頬擦りしないで。皆が見てるのに恥ずかしいよ。


 "あら~"

 "正妻登場"

 "救くんちゃんを愛でながら友2をガン見してて草"

 "めっちゃ意識してるwww"

 "京香様って清楚系だったはずなのにガチで面倒臭い女になってる……"

 "清楚系だからこそ闇を抱えているのさ"

 "どういうことよw"


「は~な~れ~て~く~だ~さ~い~」

「やだよーだ」


 ぷぎゃああああああああ!

 何がどうなってるの!?


 "これがハーレムってやつか"

 "仲悪いハーレムとか最悪だぞw"

 "仲良いハーレムとか物語の中だけなんだよなぁ"

 "つーかやっぱり友2のポテンシャルやばくね? あれ狙ってふざけてるよな"

 "俺らがこうして欲しいって思ってそうなことやってくれてるなw"

 "京香様だって演技……演技?"

 "演技と書いてガチと読みます"


「さぁ、正パートナーの私と素材集めに行こ」

「正パートナーの私が準備して待ってるからね」

「…………」

「…………」

「お、おい」

「シルバーマスク様は黙ってて」

「救ちゃんは黙ってて」


 あ、はい。


 怖くなっちゃって退いちゃったけれど、どうしてそんなに真剣な顔で見つめ合ってるのさ。まるでこれからバトルが始まるみたいな雰囲気だけれど、そんなことしたら一方的な虐殺になっちゃうよ。

 前みたいに仲良かった二人に戻って! 


 "ひえっ"

 "キャットファイトくる?"

 "シルバーマスク様を巡る女の戦い"

 "あそこに入りたいやつ沢山いるだろうなw"

 "俺には無理だ"

 "ワイもアカン"

 "女って怖い"

 "は? あんなのどうってことないっしょ"

 "救様の隣に立てるなら京香様だって倒すよ"

 "つーか京香様も友2も女として見たら弱いよね"

 "こっわ"

 "ホラーかな?"

 "女性に夢を見させてください"

 "大丈夫、俺らには救くんちゃんがいるから"

 "ASMR聞いて癒されようっと"

 "ぷぎゃあああああああ"

 "PGMRじゃねーよwww"


 コメントもカオスになってるし、これどうしたら良いのさ!



――――――――

PGMR:ぷぎゃり絶頂反応

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