2. どうしてあのことがバレてるの!?
何をすれば良いのかな。
これまでずっとダンジョンに籠りっきりで、魔物を狩るのが日課だった。
でも最難関ダンジョンには入ってはダメだと言われ、初級~上級ダンジョンは頑張って狩っている人がいるから邪魔できない。
それならパトロールでもしようかなと思ったけれど、それもシルバ〇アファ〇リーの皆がやってくれている。
京香さんやおばあちゃんはこれを機に外での生活を満喫したらどうだって勧めるけれど、どうしたら満喫出来るのかな。
試しに誰からも見えないようにして街を歩いているけれど、何をして遊べば良いのか分からない。またハンバーガーを食べてみたい気もするけれど、買う時に店員さんに姿を見られて騒ぎになっちゃいそうだしなぁ。
「はぁ……」
溜息しか出ないや。
「すっくいっさま」
「ぷぎゃ!?」
「溜息ついてどうしたの?」
友2さんが突然声を掛けて来て驚いちゃった。
どうしてボクの姿が見えるのさ。
「もしかしてどうして見つかったのかって思ってる?」
「う、うん」
「それはね……じゃじゃーん、これの効果だよ」
「それって!」
彼女がボクに見せつけて来たのは三日月型のイヤリング。
色は
「もしかして探索者を始めたの?」
「うん、私もファミリーの一員だよ!」
「そうだったんだ……」
あのイヤリングには見覚えがある。
ボクがギルドメンバーのために色々と付与したものだ。
「でもそれにボクを見つける効果なんて付与してなかったと思うよ」
「先輩に看破系スキルを追加で付与してもらったの!」
「え?」
「救様を見つけるためって言ったら喜んで付与してくれたよ」
「ぷぎゃ!?」
「(その後ギルメン全員の装備に同じ付与をすることになったけどそれはひ・み・つ)」
より安全に探索出来るようになるから良いけれど、付与したスキルをボクを見つけるために使うだなんて予想外だよ。
「それでさっきのお話だけど、どうして溜息をついてたの?」
「何をやったら良いか分からなくて……」
「じゃあデートしよ!」
「ぷぎゃ!」
そうだった、友2さんは何かにつけてデートしようってアプローチして来る人だった。
「友2……じゃなくて
「だってデートってドキドキして楽しいじゃん!」
「楽しい?」
「うん、私は全力で楽しんで生きるって決めてるんだ」
それは素敵な生き方だと思う。
全力で楽しんで生きる、か。
ボクはどうだったんだろう。
小さい頃はただただ必死だったけれど、今は楽しいって思う時が結構ある気がする。
「そうそう、私のことは友2で良いよ」
「え?」
「だって愛称みたいなもんじゃん」
「そうかなぁ……」
単なる記号みたいで失礼かなって思ってたけれど、本人がそういうのなら良いのかな。
「さ、デートしよ!」
「ぷぎゃ!?」
ボクまだするって返事してないのに、腕を引っ張らないで。
「何処に連れて行くつもりなの?」
友2さんには悪いけれど、ボクが一緒だと入れない店が多いから楽しめないよ。
「う~ん、何処でも」
「?」
「目についた楽しそうな事。片っ端からやろうよ」
「で、でも見つかったら騒ぎになっちゃうよ」
「なっちゃえば良いじゃん」
「ぷぎゃ!?」
「だってそれはそれで楽しそうじゃん」
「楽しくないよ!」
ボクのところに皆が集まって来て、お礼を言われて困るだけでしょ。
「大丈夫大丈夫、あ、救様の好きなハンバーガーショップだよ。食べよ食べよ」
「待って、お願い待って」
「ほらほら、救様、姿を現さないと買えないよ?」
「無理だよ、前だってあんなに騒ぎになったのに……」
「本当に大丈夫だって。私を信じて」
信じられる要素が今の所まったくないんだけど。
「救様と一緒に遊びたいだけなのに……ダメ?」
「泣き落としは卑怯だよ!」
その目のウルウル、絶対演技だよね。
「何かあったらボクすぐ逃げるからね」
「は~い」
ハンバーガーをもう一回食べたい欲が我慢出来ず、友2さんの誘惑に負けることにした。
お願いだから皆ボクを気にしないで……
「救様!」
「救様だ!」
「救様がいらっしゃるぞ!」
「毎日張ってて良かった……」
「かわいい~」
「まさか救様にお礼を言うチャンス!?」
「どうしよう、現金あまり用意してないよ」
「急いで預金全部降ろしてこないと!」
「ぷぎゃああああああああ!」
「生ぷぎゃあきたあああああああ!」
「生ぷぎゃあきたあああああああ!」
「生ぷぎゃあきたあああああああ!」
「生ぷぎゃあきたあああああああ!」
「生ぷぎゃあきたあああああああ!」
やっぱりこうなっちゃうじゃん!
「はいは~い、お店の迷惑になるから集まらないでね~」
「そうだ、俺達のせいで救様が迷惑客になるなんてあってはならない」
「それに救様の日常を壊すなんて絶対にダメ」
「救様はぷぎゃらせて良いけど悲しませてはいけないことを忘れるところだった」
え、うそ、暴動にでもなりそうな勢いなのに治まった?
「ね、大丈夫だったでしょ」
「友2さん、凄いね」
「私が凄いわけじゃなくて、皆に心から慕われてる救様が凄いんだよ」
「ぷぎゃあ……」
百歩譲って感謝されているっていうのは分かるけれど、どうして慕われているに繋がるのかが分からないよ。
「一緒の女の子って誰だろう」
「さっき友2って呼ばれてなかった?」
「え、それってもしかして救様の友達の?」
「そうで~す。私はシルバー友2で~す」
自己紹介しちゃった。
配信の影響で友達もかなりの人気だって聞いたけれど、正体バレが怖くないとか信じられない。
「どうぞ撮って良いですよ~」
「ちょっと友2さん」
「せっかくだから救様とのツーショットをお願いしま~す」
「ぷぎゃっ!」
肩組まないで、というか撮るとか聞いてないよ。
皆してスマホこっちに向けないで!
「そうそうせっかくだら前のあなたもどうぞ」
「え?俺も?」
「後ろの貴方もどぞどぞ」
「私も?」
「友2さん!」
注文の列に並んでる人にまで声を掛けるってどういうことなのさ。
「私も入りたい……」
「お、俺も!」
「ボクも!」
「あたしも!」
「え~じゃあみんな一緒に写っちゃお」
「ぷぎゃああああああああ!」
どうして店内で皆で記念撮影する流れになってるの!?
「こんなことしたらお店に迷惑だよ!」
「大丈夫じゃない? だってほら」
「え……ぷぎゃああああああああ!店員さんまで入ってる!」
カウンターの向こう誰も居なくなってる。そんな馬鹿な。
「あ、これセルフタイマーでセットお願い」
「はい!」
しかも店員さんが良い返事でスマホセットしてるし。
「それじゃあ撮りま~す」
「ほら早く、こっちこっち。救様の前にどうぞ~」
「え、良いんですか!?」
「急いで!」
「あっ……失礼します!」
「ぷぎゃああああああああ!」
知らない女性店員さんが体に抱き着いて来たと思ったと同時に撮影音が聞こえて来た。
「あははは、何これおっかし~」
「写真どうやって配りましょうか」
「クラウドにアップしておいて……」
一体なんだったの……?
ハンバーガーショップって普通は全員で写真撮ったりなんかしないよね。
「というか、結局友2さんが煽ってるじゃん」
「でも楽しかったでしょ」
「…………ちょっとだけ」
訳が分からなかったけれど、わちゃわちゃしていて楽しかった。
素直にお礼を言われるとどう反応して良いか分からなくなるけれど、これだけ滅茶苦茶な展開だと笑えて来ちゃう。もしかして友2さんはそれを狙ったのかな。
「もっしゃもっしゃ、救様美味しいね」
「う、うん」
裏表が無さそうな笑顔でハンバーガーを食べる友2さんの様子を見る感じ、それは無いかな。
ちなみに今日はちゃんとハンバーガーの味がするよ。美味しい美味しい。
「今日は一日中デートしようね」
「ぷぎゃあ……これずっと続くの?」
「うん!」
確かに暇だけれど、ボクの心と体が持たないよ。
「友2さんは凄いね」
「なにが?」
「だって本当に全力で楽しんで生きてるって感じがするもん」
「あはは、それは救様のおかげだよ~」
「どういうこと?」
ボクって友2さんに何かしたのかな。
友2さんは最近まで探索者じゃなかったから、ボクらが出会ったのは高校に入ってからのはず。でも今日までの間に友2さんとボクの間に何か強い接点があった記憶が無い。
もしかして例のあれかな。
「ハーピアさんと戦った時の歌で何か治ったとか?」
ボクが酷く感謝される原因の中でかなり多い理由がこれだ。これなら友2さんと直接関係してなくても感謝される理由につながるかも。
「違うよ。私はシルバーマスク様が救様だって世間バレする前から、救様に感謝してたんだよ。正確にはシルバーマスク様に感謝していたんだけどね」
「でもボクは友2さんと会ったこともないよね」
もしかして探索者じゃないけれどダンジョンに入っちゃって、魔物に襲われたところをボクが助けたとか。でもボクが助けた人の中に友2さんは居なかったと思うけどな。忘れてたら失礼だよね、どうしよう。
「教えてあ・げ・る」
「ぷぎゃっ!?」
友2さんは僕の耳元へ顔を近づけて来た。息があたってくすぐったい。
「私は…………………………………………………………」
「ぷぎゃああああああああああああああああ!」
嘘だ、そんなはずはない。
どうして。
どうしてなの。
「どうしてあのことがバレてるの!?」
「やっぱり救様だったんだね」
カマをかけられた?
ううん、確信を持って言ってた感じがするから、ボクが否定しても信じてくれなかったと思う。
「私は救様に心から感謝してる。救様のためならなんだってするよ。救様が日々をつまらないって思うなら全力で楽しませようと頑張る。例え救様に嫌われたとしても、救様のためになると思ったら絶対にやり通す。それが全力で楽しんで生きることに続く、私のもう一つの生き方だよ」
「ぷぎゃあ……」
その気持ちは重すぎるよ。
でも拒否なんか出来ない。
だってこの件に関してだけは、激しく感謝される理由がボクにも分かるもん。
むしろこんな風に重く感謝されるから、絶対にバレないように気を付けてたのに。
まさか肝心の本人にバレちゃってたなんて。
「ね、ねぇ、もしかして他の人も?」
「皆気付いているよ。救様が困ると思って控えてるだけ」
「そ、そうなんだ……」
助かるけれど、知ってしまったからにはそれはそれで申し訳ない感じがして心が痛む。
「私はシルバー友2として救様をお助けするって心に決めたの。でも近くにいる人が大きな隠し事をしているなんて救様は嫌がるかと思ったから告白しちゃった」
「ぷぎゃあ……」
その気遣いは嬉しいはずなのに嬉しく無いのはどうしてだろう。
「その話って他の誰かにした?」
「してないよ」
「そ、そう……」
「あはは、大丈夫だよ。今のところ誰にも言うつもりは無いから」
「永遠に秘密にして欲しいな、なんて」
「言った方が救様のためになるなら言っちゃうよ」
「ぷぎゃっ!?」
「例えば救様がどうしても皆からの感謝の気持ちを理解してくれない場合にダメ押しとして公開するとかね」
「ぷぎゃああああああああ! 頑張るから止めて! お願い」
「それは救様次第かな」
どうしてこうなっちゃったのさ!
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