エリクサーの秘密

1. シルバ〇アファ〇リー

「シルバーマスク様!」

「シルバー様!」

「シルバー様に忠誠を!」


 ぷぎゃっ!?

 見つかっちゃった!


 ギルド創設の挨拶について京香さんから『配信なら出来るんじゃない? やってみる?』なんて言われたからやってみたら、皆の反応がとても怖いことになっちゃった。

 ギルド名にシルバーの名前をつけることになったからシルバーマスクの姿で話したのがマズかったのかなぁ。ギルドメンバーの目が血走ってて凄い怖い。


 いつも通りなのは京香さんと双剣さん達くらいだよ。


 シルバーマスクの姿でダンジョン探索中に、ギルドメンバーおそろいの白銀装備を着ている人が居たからこっそり近づいたんだけれど、ボクの隠れ方が甘かったのと看破系スキルが得意な人がいたらしくて見つかっちゃった。


「励んでいるようだな」

「うおおおおおおお! シルバー様にお声かけ頂けるなんて!」

「私もう一生耳洗わない」

「人生で最良の日だ……」


 逃げるのは失礼かと思って話しかけたけれど、やっぱり怖いよぅ。


「装備の調子はどうだ?」

「最高です!」

「体に馴染むっていうか、強さの変化が自然で違和感ないです」

「何度か魔物の攻撃受けたけれど、全く傷つかなくて凄いです」


 傷つかないんじゃなくて自動修復が働いているだけなんだけどね。


 せっかくギルドを作るなら一目でギルド員だと分かるようなお揃いの装備が欲しい、とのアイデアを出してくれたのは双剣さんの相棒の獏さんだ。ボクにとってもギルドメンバー全員を覚えている訳では無いので、見分けがつくのはとても助かるからそのアイデアを採用した。


 せっかくなら皆が喜んでくれる装備にしたいと考えたけれど、ボクのギルドには様々なスタイルの探索者が所属していて装備に求める条件も様々だから悩んじゃった。

 特に、良い装備をつけて強い敵と戦えるようになりたい人もいれば、訓練のために敢えて装備の質を落としてギリギリの戦いをしたい人もいるのが問題で、単に強い装備を作れば良いって訳じゃなかった。


 そこでボクが考えたのは、強さを自由に変化できる装備だ。

 装備そのものの機能としてバフをかけて強くなることも出来れば、デバフをかけて弱くなることもできる。しかもその段階を微調整できるようにして、その人が望む強さで探索出来るようになる。

 もちろん耐久力にもこだわって最難関ダンジョンの深層に行ったとしても壊れることがないよ。


 京香さんにはやりすぎだって苦笑されちゃったけれど、ギルドメンバーがこれで安全かつ便利に探索出来るのならば作ったかいがある。


 ちなみに色は白銀にして欲しいと強い要望があった。シルバーマスクとお揃いにしたかったのだろうけれど、ちょっとだけ恥ずかしい。


「何か気になる点はあるか?」

「特にありません!」

「大満足です!」

「私も……あ、でも一つだけ」


 あれ、何か問題があったのかな。

 サイズも着用者の体に合わせて自動調整されるし、汚れもつかないし、何だろう。


「この装備も欲しいなぁ……なんて」

「ぷぎ……んっんん。悪いがそれは受け付けてない」

「そうですか……」


 どうして皆して仮面装備を希望するのさ。

 ギルドメンバー全員が仮面つけてたら怖いよ!


 シルバーマスクモードなのに慌てちゃうところだったじゃないか。


「では我はもう行く。無理するなよ」

「はい!」

「はい!」

「はい!」


 胃が痛くなってきたから撤収する。

 エリクサー飲も。


 そうだ、エリクサーで思い出した。

 エリクサーの在庫が減って来てるんだよね。


 かなり配ったからなぁ。

 まだアイテムボックスの中には百個以上あるけれど、いざという時のことを考えると心許ない。


 でもエリクサーを集めるには最難関ダンジョンに入らなければならず、未だに禁止されているから集めに行けない。

 京香さんに相談しよう。


――――――――


 てなわけでおばあちゃんが用意してくれたギルドハウスに向かったんだけれど。


「ぷぎゃっ!? 何これ!?」


 ギルドマスターの部屋として用意された場所に京香さんが居たのだけれど、その部屋の中がとてもファンシーに飾り付けされていた。好きにして良いって言ったけれど、棚の上にも机の上にも至る所に人形を置くだなんてやりすぎだよ。


「あ、救ちゃん。見てみて、これ可愛いでしょ」

「ぷぎゃっ!? これボク!?」


 京香さんが手に取っている人形はどう見ても小さくなったボクだ。


「これどうしたの? まさか京香さんの手作り?」

「違うよ。エ〇ック社の人が作ってくれたの」

「ぷぎゃっ!? どういうこと!?」

「ギルド名が問題無いか聞きに行ったら、凄い喜んでくれて沢山プレゼントしてくれて、しかも作ってくれたの。後で私の人形も作ってくれるんだって!」


 ということはあの名前でOKになったんだ。

 語感は好きだけれど、何をするギルドなのかがイメージ湧かないから他の名前にした方が良いと思うんだけどなぁ。皆が強く押して来るから権利的に大丈夫なら良いって決めたけれど。というか、他の案が酷い名前ばかりだから選びようが無かったってのもある。


「だから大丈夫だって言ったでしょ。救ちゃんも後で挨拶に行く?」

「ここまでしてくれたら行くしかないでしょ」


 実はボクの人形を作ってくれたことがちょっと、ううん、結構嬉しかったりする。

 まさかファミリーの一員に入れてくれるなんて。


「シルバーマスクのもあるんだ。凄いや、あの無骨な仮面をつけてるのにちゃんと可愛い」

「でしょでしょ。ほんと可愛いよね~」


 可愛すぎて思わず頬がにやけてしまう。


 パシャ。


「ぷぎゃっ!? 何撮ってるの!?」

「ギルドのサイトに載せるための写真だよ」

「ぷぎゃあ……恥ずかしいよ……」

「可愛いお人形さんを見てにやける可愛い救ちゃんとか、撮らない方が失礼だよね。ふんす」

「勝手に撮る方が失礼だよ!」


 まったくもう。

 ギルドの活動の様子を記録しておくために写真や動画を残したいって言われて何も考えずにOK出したボクのミスだ。だってことあるごとにボクの写真を撮ろうとして来るんだもん。大半の写真がボクのものってのはどうなのさ。


『怒らないで』

『我は怒ってなど居ないぞ』

『君は誰? ボクは救だよ』

『お初にお目にかかる。我はシルバーマスクだ』

『よろしくね』


 しまった、京香さんがボクの人形を使って話しかけてくるからつい相手しちゃった。


「こんなことしてる場合じゃなかった。京香さんに相談があって来たんだよ」

「どうしたの?」


 エリクサーを集めたい話について京香さんに説明した。


「エリクサーか……確かにあればあるほど良いけれど、集めるために命懸けたら元も子も無いんだよね」

「それはそうだけれど、命賭ける程に価値があるアイテムだからしょうがないんじゃない?」

「スポーツドリンクみたいに飲んでる救ちゃんがそれ言う?」

「ぷぎゃっ……知~らない」


 だって在庫が多すぎて無くなりそうになるだなんて思わなかったんだもん。

 それに微炭酸で刺激があって癖になる美味しさなんだよ。


「エリクサーって上級ダンジョンだと最奥ボス倒すと稀に落とすけれど、最難関ダンジョンでもやっぱりそうなの?」

「うん、ボス倒すとそこそこの確率で落とすよ。他にも深層のちょっと強い魔物とか倒すと落としたりするかな」

「ボスは論外として、深層かぁ」

「下層でも落とすことはあるけれど、滅多にないかな」


 雑に狩ってるからドロップアイテム見落としているだけかもしれないけれどね。


「う~ん、やっぱり無しで」

「ぷぎゃあ……」

「だって救ちゃんってここで許可したら絶対何かやらかすもん」

「ボクは悪くないのに」


 探索者として普通に探索していただけなのに、勝手に酷い事が起きるんだもん。


「仕方ない。それなら作るしかないか」

「え?」


 エリクサーを作るために必要な素材なら沢山持ってるからね。少し足りないのもあるけれど、それはどうにかなるし。


「待って救ちゃん。エリクサー作れるの?」

「うん」

「……ほらぁ、またやらかす」

「ぷぎゃっ!?」


 どうしてそうなるのさ。

 薬品調合スキルとか、探索者なら持ってる人多いでしょ。


「エリクサーの作り方は絶対に誰にも言っちゃダメだからね」

「どうして?」

「どうしても」

「ぷぎゃあ、でも最難関ダンジョンの深層素材が必要だから知ってもどうしようもないと思うけれど」

「何が必要か分かったら無茶して取りに行こうとする人が出てくるかもしれないでしょ」

「そういうものなんだ……」


 ボクが情報をばらまいたせいで誰かが傷つくなんて嫌だから絶対に言わないように気をつけよう。


「でも最難関ダンジョンの深層素材が必要なら、救ちゃんでも作れないんじゃない?」

「大丈夫だよ。絶対に必要な素材はもう沢山持っているから」


 精霊の涙ってアイテムなんだけれど、エリクサーを作る以外の用途が無いからアイテムボックスに沢山溜まってるんだ。念のため集めておいて良かったぁ。


「他の素材は手持ち少なめだけれど、上級ダンジョンで拾える素材をグレードアップすればなんとかなるからね」

「グレードアップ?」

「あれ、知らないの? 素材ってグレードアップできるものがあるんだよ。魔力かなり使うからダンジョンの中で実行するのはお勧めしないけれどね」

「本当にこの子は……どれだけ爆弾持ってるのよ……」


 爆弾だなんて失礼だな。

 言う機会が無かったから言わなかっただけなのに。


「じゃあこれから上級ダンジョンに行って素材集めて来るね」

「待って」

「え?」


 思い立ったが吉日、ということで早速行こうとしたら止められちゃった。


「それ、せっかくだからギルドでやってみない?」

「え? でもさっきは誰にも言わない方が良いって言ったよね?」

「レシピについてはね。グレードアップの方は役立つから広めた方が良いかなって。それに上級ダンジョン攻略組も、ただ攻略するよりも救ちゃんが欲しがるアイテムを集めるって目的があればもっとやる気が出るから」

「ボクがやりたいことを押し付けることにならない?」


 本当はやりたいことがあるのに、ボクがお願いしたからそれを優先するなんてことになったら嫌だよ。


「忘れたの? このギルドは救ちゃんと同じ気持ちの人が集まってるんだよ。エリクサーを作ることで多くの人の助けになると思ったら、皆喜んでやりたがるよ。むしろ選抜するのが大変なくらい立候補者が出るから」

「……そっか、そうだよね」


 京香さん達はしっかりと時間をかけてギルドメンバーを選んでくれた。ボクはそのメンバーの皆を信じるって決めたんだ。


「分かった。任せてみるね」

「よし」

「え?」

「ううん、なんでもない。それじゃあグレードアップとか素材とかについてもっと詳しく教えて」

「うん」


 京香さんがしてやったりの顔をしているけれど、どうしてだろう。

 嫌な予感がしないからお礼を言われるとかじゃないとは思うけれど……


 それはそれとして、一つ問題に気が付いた。

 ボクやることなくなっちゃった。

 どうしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る