第二部
プレゼントしたいだけなのに
1. お金が欲しい
『ブモオオオオ!』
「
おおすごい、ワイルドディア三体の同時角攻撃を受けても大盾がビクともしないや。
「滅するまで爆ぜ続けちゃえ!
魔物が固まったところで爆破魔法で倒すのは効率的で良いね。でも敵が倒れるまで魔法を連発するのは攻撃的すぎてちょっと怖い。
大盾さんと爆破さんはこれで良いとして、残りの二体のワイルドディアはどう処理するつもりなのかな。
「これでどうかしら。動けるものなら動いてみなさい」
へぇ、あの鞭凄いや。それとも拘束系のスキルレベルが高いのかな。
そういえばいかさまドラゴンもアレで縛ろうとしてたし、最難関ダンジョンの魔物を二体同時に縛りあげるくらいなら可能なんだろう。
「
鞭さんが硬直させている間に双剣さんがひたすら斬り刻んでワイルドディアを倒した。
「よし!」
「やったね!」
魔物が全部倒されたのを確認した双剣さんと爆破さんがハイタッチして喜んでいた。
「わ~ぱちぱち」
思わずボクも祝福しちゃったけれど、まだまだ余裕がありそうだからこの程度で褒めちゃダメだよね。
「それじゃあ次は十匹ね」
「「「「え?」」」」
今度はワイルドディアを彼らの元に十匹誘導してみた。
「
「手が足りないわ。残りは二人で何とかして頂戴」
「避けながら攻撃はきつい……!」
「ちょっ、私は当たったらアウトなんだから守ってよー!」
良い感じで苦労してる。
やっぱり強くなるにはこうでなくっちゃ。
「が~んばれ。が~んばれ」
君達なら出来るよ!
"が~んばれ"
"が~んばれ"
"が~んばれ"
"かわゆす"
"絵面は地獄なのになぁ"
"救様に直接指導してもらえるならこのくらいは残当"
"救くんちゃんの無邪気な笑顔がたまらん"
"救くんちゃんの無自覚ドSがマジで草"
"誰一人として心配してないw"
"救様がいるし"
"世界で一番安全な場所"
"安全(手足ぽろっ)"
"知ってるか? これでもブートキャンプに入らないんだぜ?"
"ブートキャンプは死ぬこと前提だから……"
"こいつら本当はブートキャンプ希望してたけど京香様に止められたんだろ"
"急いで強くなる必要なくなったからな"
"最難関ダンジョンの上層狩れるだけで十分だろ"
"これから救様と自由にお話出来るんだろ、裏山"
"俺達も強くなれば……"
"やっぱりブートキャンプは必要だ!"
コメントで何を言われてもボクはもう無茶な特訓はしないし、他の人にも勧めないからね。だって会議になっちゃうから……
「皆お疲れ様」
ワイルドディア十体をどうにか倒した四人にぶっ続けで他の魔物とも戦ってもらったことで、奥多摩ダンジョンでどれだけ戦えるかが把握できたよ。これならボクが見てないところで戦っても安全に探索出来そうだ。
今日はいつもではあり得ない程の大軍と戦ってもらったから疲労でへたり込んじゃってるけれど、普段は多くても数匹相手だからここまで疲れることは無いと思う。
「はい、疲労回復のエリクサー」
「そんな貴重な物を軽く渡さないでください!」
「ぷぎゃ」
爆破さんに怒られちゃった。
いくらでも手に入るから気にしなくて良いのに。
「疲労回復ポーションだけで十分ですよ。あ、葉月はコレも必要か」
「サンキュ、く~効くぅ」
「おっさんくさい飲み方すんなよな」
「誰がおっさんだ」
「いでぇ! 杖で殴るな!」
双剣さんと爆破さんは仲が良いみたいで、掛け合いを見てるだけでほのぼのするや。
"爆破しろ"
"爆破しろ"
"爆破しろ"
"爆破しろ"
"爆破しろ"
"爆破しろ"
でも何故かコメント欄はいつも物騒なのが並ぶんだよね。変なの。
「槍杉様、本日のご指導大変感謝する」
「そうね。ありがと」
「ぷぎゃ、気にしないで」
ほのぼのしてたら大盾さんと鞭さんに感謝されちゃった。
京香さん以外の人の顔を見て話が出来るようになってきたけれど、感謝されるのにはまだ慣れてないからどう反応して良いか分からないんだよ。
「それにボクも相談に乗ってもらえて感謝してるからおあいこだよ!」
京香さんを通じて彼らパーティーが最難関ダンジョンに挑むと知ったのが数日前の事。心配だからフォローしてあげてと京香さんにお願いされたんだけれど、せっかくなのでコミュ障克服も兼ねてこうして指導してあげることにしたんだ。
でも彼らがとんでもなく貴重なお礼を渡してくれそうな雰囲気だったから、それなら相談に乗ってくれることでチャラにしようって話で押し通した。この程度で高価なものなんてもらっても精神的に困るもん……
「全く対価に見合ってないのだが……」
「うふふ、賀田さんこれ以上は困らせるからダメよ」
「ぷぎゃっ!」
鞭さんは露出が多すぎて違う意味で直視出来ず反応に困っちゃう。
"ぴゅあちゃんに踏まれたい"
"ぴゅあちゃんに叩かれたい"
"ぴゅあちゃんに詰られたい"
"ぴゅあちゃんに蔑まれたい"
"ぴゅあちゃんに唾吐かれたい"
しかもコメントを読んで気を紛らわせようとしても、おかしくなっちゃうし。
「それで救ちゃんは私達に何を相談したいの?」
「ちゃんをつけないで……」
「あらごめんなさい救様」
「様もダメ!」
皆いじわるだから普通に呼んでくれないんだよ。
しくしく。
「はいはーい! じゃああたしは救くんちゃんって呼びます!」
「それが一番意味分からないの!」
いつの間にかコメントで普通に使われてるし、どうしてこうなっちゃったの。
「すいません、槍杉さん。まったく、話が進まないだろ」
「またそうやって
後で鞭さんに教えてもらったんだけれど、双剣さんと爆破さんは少し前は名前呼びじゃなかったんだってさ。それを知ってボクにどうしろと。
「相談したいのは、お金の稼ぎ方なんです」
「「「「「お金?」」」」
「どうしてそんなに意外そうな顔をするの?」
"救様がお金を欲しがってる!?"
"俗っぽいのがなんか以外"
"でもちょっと安心した"
"俺らと同じ感覚もあったんだなぁ"
"というかお金もってないの?"
"激レアアイテム大量に持ってるでしょ"
"富豪なのかと思ってた"
"ダンジョン産アイテムの買取しょっぱかったから……"
"そもそも救様は売ってないっぽいし収入ゼロだったのでわ"
"今なら買取価格が跳ね上がってるんでしょ、売ろう売ろう"
う~ん、ダンジョン産アイテムを売るのも考えたけれど、気が進まないんだよね。
「ダンジョンで取れたのはタダで配って役立てて欲しいの」
新しい探索者が一気に増えて大変だって京香さんとおばあちゃんから聞いたんだ。だからしばらくは色々と提供して皆が安全に探索出来るような環境が作られれば、将来的にお掃除が捗るかなって思ったの。
ということを説明してみた。
"救様 is 神"
"神というか聖人というか、良い子すぎでしょ"
"皆が安全に探索出来るようにって自分の利益を考えずに本気で思ってる人が日本に何人いるか"
"これが本当の尊いって感情なのかな"
"最近めっちゃ強そうな装備した初心者が多いと思ったらそういうことか"
"でも救様がそれやっちゃったら他の人が売りにくくないか?"
"ダンジョンで手に入れたアイテムは探索者の収入源だもんな"
"救様はタダなのにお前らは金とるのかって思われそう"
ぷぎゃ!?
どうしてそういう流れになっちゃうの?
「もちろんボクだけで良いからね。他の皆はちゃんと売ってね。おばあちゃんが頑張って高く買い取ってくれるようにしてくれたんだから無駄にしちゃダメだよ」
"はい!"
"はい!"
"はい!"
"たくさん稼ぎます!"
"ちゃんと稼がせないとまた探索者離れになっちゃうからな"
"皆を守ってくれるんだから当然"
ふぅ、フォロー出来たみたいで良かった。
「でも救くんちゃんお金欲しいんでしょ。それなら少しくらい売っても良いんじゃない?」
「それも少し考えたけれど、足りないかなぁって」
「救くんちゃんが持ってるアイテムで足りないって、いくら必要なの!?」
「……五百万くらい」
「え? そんなのすぐでしょ?」
「え?」
そんな馬鹿な。
ボクが持っているアイテム程度でそんな大金が手に入るわけないじゃないか。
「エリクサー一個売ればそのくらいすぐだよ」
「またまた、冗談ばかり」
「え?」
「え?」
冗談だよね?
だってエリクサーなんて最難関ダンジョンを攻略していればポンポン手に入るよ。
"やっぱりエリクサーの価値分かって無かったか"
"普段からエナドリ感覚で飲んでるもんな"
"あれ見てるだけで胃が痛くなるから止めて欲しい"
"つエリクサー"
"本気で渡してきそうで草"
"これは価値を分からせるチャンスか!?"
コメントの反応的にもエリクサー高いんだ。
冗談じゃないの?
「救くんちゃんはエリクサーいくらで買い取ってもらえると思ってたの?」
「二千円くらいかなって」
「ぶはっ!」
"二千円www"
"やっすwww"
"箱買いしまーす!"
"在庫全部持ってこい!"
"転売ヤー『!!』"
"帰れ"
"消えろ"
"絶許"
"確か不遇時代でもポーション買い取り千円だったよな"
"ハイポーションで一万円"
"【悲報】救様の金銭感覚、ブラックだった"
「え?え? 体力が回復するだけのハイポーションが一万円!? なぁんだ、やっぱり冗談か」
だってそれなら世の中富豪だらけになっちゃうもん。
"救様が分かってくれない(´;ω;`)"
"本当なんだよ"
"ちなみに今は一本十万円"
"それでも安いって言われてるんだよなぁ"
"重症でも完治するからな"
"欠損すら治すエリクサーなら一本百万以上でも不思議じゃない"
"欠損どころかあらゆる病気も治すから一千万以上では?"
"レアすぎて価値が付けられないかもな"
"レア(救様のアイテムボックスは見ちゃいけません)"
やっぱり冗談だったんだね。
だって一本百万とか一千万とかありえないもん。
「ダメ、救くんちゃん完全に信じてくれてない」
「納得してくれるには時間がかかりそうだな」
「価値観というものは簡単には変えられまい」
「私だったら沢山売って豪遊するのに」
ダメダメ、何を言ってもボクは騙されないよ。
「ポーションとか集めるのは他の探索者の邪魔になっちゃうし、ダンジョン産アイテム関係以外でお金を稼ぎたいんだ」
「はいはーい! 救くんちゃんはどうしてお金が欲しいんですか?」
そうだった、その説明をしてなかったね。
「コレ」
「コレってカメラ?」
「カメラだけじゃなくて配信に関係する機材一式だね。実はこれ京香さんが貸してくれたものだと思ってたんだけれど、プレゼントだよって言われちゃったの」
「ぴこーん、分かりました。それで調べたら五百万円もして、こんな高いの貰えないから買い取りたいってことですよね」
「高すぎるよね!」
こんな高価なものをタダで貰うなんてありえないもん。
「京香さんはこれはプレゼントだから絶対にお金を受け取らないって言ってるけれど、それなら同じくらい価値のある別の物をプレゼントしたいなって思ったんだ。でも五百万なんて大金どうやって稼げば良いのか分からなくて……」
「それこそ京香さんはダンジョンのアイテムを売って稼いだと思いますよ?」
「ぷぎゃあ、やっぱりそうかな」
中級ダンジョンや上級ダンジョンを攻略していた時にアイテムを沢山集めてコツコツ売って溜めて購入したのかもしれない。ああ、そう思うと尚更返さないとって思っちゃうよ。
「いや、でもあの人ならコレもあるんじゃないか?」
「そっか、確かに!」
双剣さんと爆破さんが何かを思いついたようにカメラを指差した。
カメラを使ってお金を稼ぐってどういうことなんだろう。
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