2. おばあちゃんとQ&A
「まずはそうね、槍杉さんはこれまで最難関ダンジョンをいくつ攻略したのかしら」
「え?そっちなの?」
てっきり隠しボスとか世界の危機について聞かれるのかと思ってた。
「それだって世界の危機よ。槍杉さんもだから掃除してたのでしょう」
「あ……うん!」
確かに最難関ダンジョンがあふれたらそれでも世界は終わってしまっていたかもしれない。
「日本の最難関ダンジョンなら全部攻略したよ!」
「…………全部?」
「うん、全部」
「それは最奥部のボスを倒したってことかしら」
「そうだよ!」
何週もしているからどこのダンジョンも安定して倒せるよ。
「日本の北から南まで移動しているのかしら。大変でしょう」
「以前はそうだったけれど、今は大丈夫」
「どうして?」
「他のダンジョンに転移する道具を入手したの。ほら、この指輪」
「…………」
だから例えば北海道ダンジョンに行くのに北海道まで移動する必要は無いんだ。
移動するにしても空を飛べばそこまで時間はかからないけど、大変なのに変わりは無いからありがたく使わせてもらっている。
「そ、その指輪はどのダンジョンにでも転移できるのかしら」
「うん、行ったことないダンジョンにも最難関以外のダンジョンにも行けたよ。ただ、転移先は最下層のセーフティゾーン限定らしいけど」
それとこれは想像なんだけど、セーフティゾーンに人がいると転移出来ないっぽい。
初級ダンジョンや中級ダンジョンに転移しようとした時に何回か出来ない時があって、時間を置いて転移したら出来たことがあったんだよね。
その時に近くに人の姿が見えたから多分そうじゃないかなって思ってる。
「槍杉さん」
「は、はい」
どうしてだろう。
温水さんがとても真剣に僕を見ている気がする。
目を合わせられないから表情分からないけど、雰囲気的になんとなく。
「その行先ってどうやって選ぶのかしら」
「転移したいって思うと頭の中にリストが思い浮かぶから、そこから選ぶ感じ。国別とか地域別とか色々と絞れて便利なんだ」
「そのリストって『奥多摩ダンジョン』みたいな文字なのかしら」
「うん、そうだよ」
「ダンジョンの名前は私達が便宜上つけただけなのにどうしてダンジョン産アイテムがそれを認識しているのかしらね……」
「…………」
そういうものかって何も気にしてなかったけれど、そう言われてみれば確かに不思議な気がする。
でも鑑定スキルで魔物のステータスを見るときも、誰かが名付けしないと合成獣とかモグラとか適当に表示されるからそれと同じじゃないかな。
「もしかして、槍杉さんが知らないダンジョンにも行けるのかしら」
「うん、行けるよ」
ボクは全部のダンジョンを把握している訳じゃないよ。
この指輪を使ったことで『へぇ、こんなダンジョンもあるんだ』って勉強になったもん。
「海外のダンジョンも?」
「うん」
試しに行ってみたこともあるよ。
「槍杉さん、試してもらいたいことがあるのだけれど」
「なに?」
「その転移先に名前がついていないところって無いかしら」
「名前が?」
「どのように表示されているかは分からないのだけれど?とか空白になっているようなダンジョンのことよ」
「ちょっと待ってて」
転移リストオープン、全ダンジョンで並び替えして……あれ、この不自然な空白ってダンジョンかな。
ポチっと。
転移出来た!
「あったよ温水さん」
「そ、そう。確認してくれてありがとう……」
あれ、温水さんが動揺しているような気がする。
どうしてだろう。
もしかして急に転移しちゃったからびっくりしちゃったのかな。
「その指輪って槍杉さんにしか使えないのかしら」
「そんなこと無いと思うよ。はい」
「え?」
「使ってみて」
「良いの?」
「うん」
「槍杉さん、貴重なものをこんな簡単に渡しちゃダメよ」
「大丈夫だよ。温水さんだもん」
「信用してくれて嬉しいわ。でも私が誰かに盗まれたりするかもしれないじゃない」
「それでも大丈夫だよ。ボクが管理者になってるから自由に手元に引き寄せられるんだ。ほら」
温水さんの手のひらの上の指輪がボクの指に転移した。
失くす心配が無いから便利なんだよね~
フラウス・シュレインも同じだから京香さんに貸してあげたら大喜びで試し切りしてたっけ。
「はい、使ってみて」
「…………」
「温水さん?」
「分かったわ」
温水さんは指輪を嵌めるとそれを使って何処かに転移して戻って来た。
「本当に使えちゃったわね」
「うん」
「…………」
「…………?」
何か考え込んでいるけど、一体何だろう。
「ねぇ槍杉さん」
「は、はい」
またとても真剣な声色になってたから思わず背筋が伸びちゃった。
「この指輪、また後で借りても良いかしら」
「良いよ」
「ありがとう。報酬振込先の口座は……多分ないわよね。後で一緒に作りに行きましょう」
「ぷぎゃっ!? 報酬?口座?お金なんていらないよ?」
遠慮なく借りて良いんだよ。
「それはダメよ。これはとても貴重な物だから無報酬で貸すなんて絶対にダメ」
「そんなに貴重なの?」
「ええ。槍杉さんは今も世界中で新しいダンジョンが時折生まれることを知っているかしら」
「うん、知ってるよ」
中学の頃に授業で習ったことがある。
「でもその新しいダンジョンが山奥とかにあって見つからなくてダンジョンから魔物があふれてしまうなんて事件が時々あるのよ」
「うん」
「でもこの指輪があれば世界中のダンジョンの一覧が見える。名前が付けられていないダンジョンでさえも」
「…………」
「どれだけ凄い指輪なのか分かったかしら?」
まさかこの指輪にそんな使い方があったなんて。
これがあればもっと多くの人を救うことが出来る。
「それじゃあボク今から行ってきます」
「待って!」
「え?」
だって一刻も早くダンジョンの場所を明らかにしないと。
今すぐにでもあふれる場所があるかもしれないし。
「この躊躇の無さが槍杉さんの強さの源なのかしらね……」
「?」
「とにかく、未発見ダンジョンについては私達に任せて頂戴。指輪を借りておいて何だけど、全部槍杉さんに任せるわけにはいかないもの」
「別にボクはかまわないよ」
「槍杉さんも最難関ダンジョンを掃除出来る人を探していたじゃない。それと同じことよ」
確かにそうだ。
全部ボクだけでやろうと思っていたから手が回らなくなっていた。
出来る人がいるなら任せるってのも大事な事なんだな。
「分かりました。それじゃあお任せします!」
「はい任されました」
「ぷぎゃっ」
だからなんでそこで撫でるのぉ!?
「それでは次の話題にうつるわね」
「うん、でも温水さん声が疲れてるよ。これ飲む?」
「…………これは?」
「エリクサーだよ。これ飲むと疲れが取れるんだ」
「そ、そう……大丈夫だから気にしないで」
「そう? ここに置いておくから喉乾いたらいつでも飲んでね」
「ありがとう」
声の疲れがより酷くなった気がするけれど、どうしてだろう。
「それじゃあ質問よ。あのガムイという存在について知っていることを教えてくれないかしら」
ガムイか、とんでもないパラメータだったなぁ。
あまりにも行動が速くて遅延蘇生のタイミング取るのが滅茶苦茶難しかったもん。
「ガムイは隠しボスだよ」
「隠しボス?」
「うん、ダンジョンには特殊な条件を満たした時に出てくる隠しボスがいるの」
「それは知っているけれど、あれは魔物というよりも知性ある別の存在に見えたわ」
ボクも最初はそう思ったんだよね。
だって会話出来て人間みたいで魔物っぽくないもん。
「でもあれも魔物みたいだよ。相対した時の探索者としての感覚的にもそうだけど、本人がそう言ってたから」
「本人が?」
「うん、最初に倒したペリエルって天使みたいな姿をした隠しボスが『自分達はこのゲームの創造主により作られ配置された魔物にすぎない』って苛立たし気に言ってたから」
そういえばコピーがどうとか言ってたような気もする。
「はぁ……」
「温水さん?」
「いやね、何から聞けば良いかなと思って」
何でも聞いて良いよ!
「まずは『ゲーム』について分かっていることあるかしら」
「それがボクにも良く分からなくて。誰に聞いてもはぐらかされるんだ」
「そうなの?」
「うん。ダンジョンのことを指しているのは間違いないと思うんだけど、具体的な内容もクリア条件も全然教えてくれないの」
知りたければ我を倒せ、なんて言いながら何も教えてくれなかった酷いボスもいたしね。
「そうなの……じゃあ創造主については?」
「それもぜ~んぜん。全く教えてくれそうな雰囲気なかったよ。あ、でも一つだけ。この星を破棄するって決めたのはその人?みたい」
直接じゃないけれどそんなことを匂わせたボスがいた。
「槍杉さんは彼らの目的についてどこまで知っているのかしら」
「創造主っていうのが地球を破棄しようとしているっていうのと、何故かすぐに破棄しないで何かのゲームをやっているってことだけだよ。破棄が何を指すのかも分からないけど、魔物が地上にあふれることを指していることっぽい雰囲気はあったかな」
「……後で彼らから聞いたことを文字に起こしてもらえるかしら」
「うん!」
ボクだと分からないことも温水さんなら分かるかもしれないから喜んで書くよ。
「彼らがどうして地球を破棄しようとしているのかは分かるかしら」
「分からない。ただ、ボク達のことを『愚か』って良く言われたからそれが関係しているのかも。ボク達って真面目に生きてるだけなのに酷いよね」
「うふふ、そうね」
そりゃあ世の中には悪い人もいるけどさ、多くの人は愚かなんかじゃないよ。
「その『愚か』って言われたことについて、他に何か思い当たること無い?」
「う~ん……あるけどあまり言いたくない」
「どうして?」
「だって納得出来ないんだもん」
あんなの絶対に嘘だもん。
皆を馬鹿にするようなことなんて言いたくない。
「槍杉さん、申し訳ないけれど教えてもらえないかしら。もしかしたらそこに彼らの考えに関する重要なヒントがあるかもしれないから」
「……ボクは絶対に間違ってるって思ってるよ。ちゃんとそれ分かってね?」
「ええ、分かったわ」
あれは最初に出会ったペリエルを倒した後の会話だった。
『本来であれば我が貴様らと対峙するのは遥か未来の予定なのだが、ここまで愚かだったとはな……』
「どういうこと?」
『心せよ。ゲームを否定してはならない、進行を遮ってはならない。その心こそが、終焉へ向けた加速と知れ』
良く分からないけれど、ゲームがダンジョン探索を意味しているのならば、まるでダンジョン探索を邪魔している人がいるから隠しボスが早く出て来てしまったかのような言い方だ。
そんなことする人がいるわけがないじゃないか。
「槍杉さんが言いたくない気持ちが分かったわ。だってそれだと国が探索者を抑制したことで被害加速しているかのようですものね」
そこまで具体的なことは想像してなかったけど、そういうケースもあるのかな?
間違っては無さそうなのでまぁいっか。
「そうなんだよ。ありえないよね」
「探索者の活動を非難するのもダメかしら」
「あはは、そんなことする人いるわけないでしょ。もちろんダメだと思うよ」
「うふふ、そうよねぇ。いるわけないわよねぇ」
ダンジョンから魔物があふれたら危ないなんて常識だから探索者に協力するのが普通でしょ。
「ありがとう。とても有意義な話だったわ」
「そう? 当たり前で誰でもわかることしか言えなかったと思うけど……」
「槍杉さんはそのままでいてね」
「ぷぎゃっ!?」
だからなんでそこで撫でるのさぁ!
「今日は後一つだけ質問をするわね。槍杉さんはガムイっていう隠しボスの他に何体の隠しボスを倒したのかしら」
「三体だよ。ガムイを入れて四体」
「あれを四体も……」
ボクも心からそう思うよ。
良く死なずに済んだなって。
「槍杉さん、ありがとう」
「え?」
「あなたが彼らを倒してくれなければ、世界は滅んでいたわ」
「ぷぎゃっ!? 頭を下げないで!」
畏まられても困っちゃうよ。
「ボクは探索者として当たり前のことをやっただけだよ」
だって探索者はダンジョンから魔物があふれるのを防ぐために探索をしているんだ。
「たまたまボクが強い敵と戦うことになっただけで、他のみんなも命を懸けて戦ってるはずだよ。だから偉いのは皆だよ」
ボクだけが特別偉いわけじゃ決してない。
「はぁ……」
「ぷぎゃっ!?」
どうしてそこで溜め息をつくの!?
「槍杉さんは感謝を受け取らないとダメよ」
「え?」
「槍杉さんが為したことは、槍杉さんにとっては普通の事でも、助けられた私達にとっては感謝してもし足りないくらいのことなのよ」
「そうなの……?」
そう言われても全然実感が湧かないなぁ。
「だから槍杉さんには私達の感謝を受け取って欲しいの」
「でもお礼を言われるために頑張ってるわけじゃないし、それに恥ずかしいよ……」
褒められたことなんてあまり無いから、どんな気持ちで受け取ったら良いか正直良く分からない。
「そうねぇ。例えば槍杉さんが財布を落としたとして、それを誰かが届けてくれたとしたらどう思う?」
「届けてくれて『ありがとう』って思う」
「その『ありがとう』を伝えたらその人が笑顔で『どういたしまして』って言ってくれたら嬉しいと思わない?」
「うん」
感謝の気持ちを受け取ってもらえると確かに嬉しい気持ちになるかも。
「当たり前のことをしただけだから気にしなくて良いですって気持ちも立派だけれど、感謝の気持ちを受け取ることで感謝する側の気持ちが楽になるのよ。だから槍杉さんも皆からの感謝を是非受け取って貰いたいの」
「……うん」
それで皆のためになるなら、お礼を言われるくらい良いかな。
「それじゃあ、槍杉さんがこれまで救って来たことを洗い出しましょう」
「え?」
「槍杉さんにお礼を言いたいって人が沢山いるのよ。頑張りましょう」
「ぷぎゃああああ!」
嫌な予感しかしないんだけどー!
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