5. [配信回] 奥多摩ダンジョンツアー 中層~深層探索

「ここが中層だよ」

「凄いな。話に聞いていた通り辺り一面草原だ」


 奥多摩ダンジョンの中層はフィールド型のダンジョンでテーマは草原。

 くるぶしから膝丈くらいまでの高さの草原が見渡す限り広がっている。


 "へぇ、マジで草原しか無いんだな"

 "青空だけど太陽が無いのが不思議な感じ"

 "それどころか雲一つないぞ"

 "雨とか降るのかな"

 "見たところ平穏そうだけど誰もここ突破出来てないんだよな"

 "救くんちゃん除く"

 "まだ記録には残されてないから(震え声"


 天気は多分ずっと晴れじゃないかな。

 他のダンジョンなら天気変わるところあるけれど、ここで雨が降った覚えは無いや。


「あっちの方に四つの石柱があるの分かる?」

「ああ、見えるぜ」

「あの真下に下層行きの階段があるの」

「ボス部屋じゃないのか?」

「ここのボスはあの石柱に近づくと出て来て倒さないと階段降りられない仕組みになってるんだ」

「ボスもフィールド型ってことか」


 フィールド型と言えばそうなんだけど……まぁ後で分かるから今は楽しみにしてもらおう。


「中層の注意事項を説明します」

「おう!」

「その一、真っすぐ石柱まで進むと途中に下層行きの落とし穴があるから迂回すること」

「マジで!?」

「しかも落とし穴の位置って数秒単位でランダムに変わるから、運が悪いと足元に突然穴が開くなんてことも」

「ひっでぇ」


 ボクもそう思うよ。

 慎重に罠を確認して進んでも罠の位置が頻繁に変わったら意味無いからね。


「その二、足元には状態異常にかかる罠だらけなので対策が必須です」

「だから状態異常対策してこいって事前に言ってたのか……」

「うん。そこそこの耐性があれば大丈夫なんだけど、ほぼ全ての種類の異常にかかるから面倒なんだよね」


 足元見えないし罠の数多いから避けるのも現実的じゃないしね。


「ちなみに救は耐性どうしてるんだ?」

「ボクは全部の耐性カンストしてるよ」

「…………言うと思った」


 "俺も言うと思った"

 "それっぽい装備持ってないもんな"

 "あの指輪とか怪しいとは思ったけど違うのか"

 "状態異常って何個あったっけ……"

 "三十近くあったような……全部カンストとか意味分からない"

 "全部どころか一個カンストしてる人すらほとんど居ないんですけどw"

 "耐性の上げ方教えて!"

 "状態異常にかかったまま奥多摩ダンジョンに潜って死んでくること"

 "本気で言いそうwww"


 皆分かってるね。

 強くなる基本は強敵にボコボコにされながら勝つことだよね~


「それじゃあここからはレクチャーしながら進むね」

「よろしく頼む……って何か来るぞ!?」

「おお、丁度良いのが来た」

「きゃあっ!」


 京香さんを抱きかかえてその場からジャンプして離れた。

 するとボク達が居たところの足元からドリルのように回転して魔物が飛び出して来る。


 両手の先に鋭く長い爪を装備し、土色のゴワゴワとした体毛は生半可な攻撃を跳ね返す。

 身長二メートル程の土竜もぐらの魔物がボクらを睨みつけていた。


「あれって土竜もぐらなんだけど土の竜って感じじゃないんだよね」

「お、おい、救」

「土属性の竜なら他のダンジョンにいるからそっちの方が土竜もぐらなんだけど、名前的にはこっちの方が土竜もぐらなのが変だよね」

「救ってば!」

「京香さんどうしたの?」

「降ろして……」

「あ」


 まだ抱きかかえたままだった。


 "狂化様ガチ照れたすかる"

 "降ろして……がすんげぇ可愛いんだけど"

 "お姫様抱っこで狂化度が激減してて草"

 "推しにやられたらしゃーない"

 "うらやましい(血涙"

 "救くんちゃんに抱っこされたーい!"

 "じゃあ一緒に奥多摩の中層に行こうね"

 "上層ボスは任せるから"

 "いやああああああああ!"


 さて、まずはあの土竜を倒してから説明だね。


「ちょっと行ってくる」


 今回は京香さんの安全を確保しながらの探索だから、念には念を入れてアレを使おうかな。

 ボクはアイテムボックスの中から淡く白銀に輝く一振りの剣を取り出した。


「ステップ」

『ぐるぅ!?』


 うんうん、やっぱりこの剣の切れ味は最高だね。

 ほとんど力を入れてないのにバターを切るかのように土竜を両断出来た。


 "は!?"

 "何それ!?"

 "一撃で倒して草"

 "確かここに辿り着いた探索者ってこいつに勝てなくて進めなかったんだろ"

 "タンクが紙切れのように切り裂かれ、攻撃が全然通じないらしい"

 "全然通じない(通じないとは言ってない)"

 "救くんちゃんに常識を当てはめてはいけない(戒め"


「中層の魔物をステップだけで一撃……救、その剣は?」

「とあるところで手に入れたレアな剣とだけ」

「ふ、ふ~ん」

「そんなに欲しそうにしてもあげないよ?」


 強敵と戦う時には必須の武器だから手放せないもん。


 "お姫様抱っこのこと忘れてガン見してて草"

 "やっぱり狂化様は狂化様だったか"

 "強そうな武器大好きだもんな"

 "確か大剣選んだのも強そうだからって理由だろ"

 "基本脳筋なのほんとすこ"

 "でもあの剣が気になるのは分かるわ"

 "画面越しなのに神聖な感じがするんよな"

 "強い天使とかが持ってそう"

 "入手方法聞いたらまた世界が震撼しそうな気がするんだが"


 この剣のことはさておき、今は土竜の討伐練習の時間だよ。


「京香さんってチャージ系のスキルって使えます?」

「おう、得意だぜ」

「じゃあチャージ後も動けるタイプのスキルで最大威力の使って下さい」

「ってーと、フレキシブルチャージかな。カンスト近くには育ってるぜ」


 う~ん、それだと少し足りないけどまぁ良いかな。


「さっき京香さんは土竜が来るのに気付きましたよね」

「気配感知にひっかかったからな」

「それじゃあ今度はあいつが地面から飛び出すタイミングを見計らって胴体に攻撃してください」

「また難しいことを……だがそのくらいなら出来そうだ」


 さっそくまたあいつが来たっぽい。

 しかも京香さんの方に向かっている。


 京香さんはタイミング良くステップでその場を離れると、飛び出して来た土竜の胴体に見事に一撃をブチ当てた。


「オラァ!」


 土竜はそのまま着地出来ずに地面に倒れ込む。

 やっぱり少しダメージが足りてないね。


「京香さん! トドメです!」

「オラオラオラオラァ! くたばれやゴルァ!」

「が~んばれ、が~んばれ」


 "狂化様本領発揮!"

 "これが見たかった"

 "実家のような安心感"

 "親の顔より見た狂化"

 "もっと親の狂化見て"

 "救くんちゃんがホント可愛いのどうしよう"

 "が~んばれ"

 "が~んばれ"

 "ほのぼの(最難関ダンジョン中層の魔物と戦闘中)"

 "え、あれ、倒した?"

 "狂化様がソロで奥多摩中層の魔物を倒した!?"


 うんうん、このくらいは京香さんなら当然だね。


「おめでとう京香さん」

「私が中層の魔物をソロで倒した? 強い人達が手も足も出なかった相手に……?」


 普通に戦ったら苦労するかもね。

 理屈は分からないけれど、何故かあの土竜って土中からの飛び出し攻撃の際だけ防御力が極端に下がるんだ。ドリル攻撃だからむしろ逆に高くなりそうなのに不思議。

 京香さんは敵を倒した感慨に耽っているから、先にリスナーさんに教えてあげた。


 "そんなの分かるわけ無いだろうが!"

 "当たったら即死間違いなしの攻撃なんだから普通は大きく避けるよなぁ"

 "その間に攻撃してみようとか普通は思わんわ!"

 "どうして気付いたの?"


 気付いた理由かぁ。


「暇だったから遊んでたら偶然……」


 "最難関ダンジョンの魔物で遊ぶなwww"

 "救くんちゃんにとってここは遊び場だった?"

 "救くんちゃんに指導してもらえればトップギルドの連中もっと先まで進めるんじゃね?"

 "でもあいつらはもう日本に戻って来れないw"

 "悔しがってるのが目に見えて分かるわw"


 さて、そろそろ次だ。

 一体でこんなに時間かけてられないもん。


「京香さん、そろそろ良いですか?」

「あ、ああ」

「このくらいで喜んでちゃダメですよ。それにボクがアドバイスしなくても倒せる相手いますよ。ほら、あの遠くに見えるトンボとか」

「あれも魔物なのか?」


 遠くからだと普通のトンボにしか見えないから勘違いするのも分かる。


「頭の付け根にカマキリの鎌みたいなのが二本ついていて、それがどんなものでも切り裂く凶悪な性能なの」

「マジかよ」

「でも動きは遅いし紙装甲だから簡単に倒せるよ」

「攻撃力特化型か、確かにそれなら私でも倒せそうだな」


 相手が単独ならね。


「ただ集団で襲ってくることもあるし、それに……」

「それに?」

「あ、丁度良かった。良い魔物が出たからそれで説明するよ」


 視界の先に一匹の魔物が出現したのを捉えた。


「あれはゴーレム?」

「うん、アンノウンゴーレム」

「アンノウン?」

「体が何で出来ているか分からないって意味だと思う」


 人型の金属製のゴーレム。

 ゴーレムは普通、ウッドゴーレムやアイアンゴーレムのように体を構成する素材によって名前が付けられている。

 でもこのゴーレムは何で作られているのかが分からないんだ。


「特徴はひたすら硬い」

「それだけか?」

「うん、攻撃力はそこそこあるけれど動きも遅いし、硬いといっても全くダメージが通らない訳じゃないから時間をかければ倒せるよ」


 ボクもあの剣が無いと時間かかっちゃうもん。


「ということでこれから京香さんにはあのアンノウンゴーレムと戦ってもらうんだけど」

「お、おう」

「何があっても動揺しないで目の前の敵に集中してね」

「ん?」

「絶対に慌てて変に移動しないこと。分かった?」

「わ、分かった」


 "すっごい不穏なんだけど"

 "救くんちゃんニッコニコ"

 "絶対に何か企んでて草"

 "押すなよ押すなよ?"

 "いやぁ、これはガチな方だろ"


 さて、それじゃあ中層の本当の恐ろしさを知ってもらおうかな。

 ボクも守りながらってのは初めてだから集中しよう。


「よーい、すたーと」

「行くぞゴルァ!」


 威勢の良い掛け声と共に京香さんがアンノウンゴーレムに駆けて行く。

 案の定、京香さんが振るった大剣は硬い金属音と共に弾かれる。

 ライトニングボルトも使ったけれど効いた感触が無く、試行錯誤しながら攻撃を繋げていく。


「来た」

「お、おい!」

「ボクが引き受けるからそっちに集中!」


 闘いを嗅ぎつけた土竜がこっちにやってきたのだ。

 スキルを使ってターゲットをボクに切り替えさせ、出てきたところを一刀両断で倒す。


「次はトンボか。百匹くらいかな」

「ひいっ!」

「そっちに集中! サイクロン!」


 範囲魔法で一掃、と。

 さぁここからだ。


「ぎゃああああ!」

「集中!」

「オラオラオラオラァ!」


 次から次へと魔物が群れをなして襲ってくる。

 実はこの階層は戦いが長引くとどんどん他の敵が襲ってくる仕組みになっている。


 その全てをボクが引き受けて殲滅した。


 "地獄絵図"

 "救くんちゃん強ええええ!"

 "魔物の大軍を瞬殺してるんですけど"

 "ここって初心者ダンジョンだっけ(錯乱"

 "全部俺達でも目で追える動きで倒してるのがすげぇ"

 "最低限の動きだけで的確に潰してるよな"

 "こんなん救くんちゃん以外に突破出来ないだろ!"

 "狂化様が涙目"

 "途中から考えるの止めて狂化モードに没頭してて草"

 "やけくそ狂化という新モードを生み出してしまったか"


「私も救の戦いを見たああああい!」


 "草"

 "草"

 "草"

 "wwwwww"

 "草"

 "わかる"

 "一番近くにいるのに見れない悲しみ"

 "ゴーレム「お前の相手は私だ!」"

 "うぜええええ!"


 配信も良い感じで盛り上がったかな。

 それじゃあそろそろあの剣でゴーレム倒して終わらせようっと。

 このままじゃ京香さんが倒すのに一時間以上かかっちゃうからね。


 ちなみに中層のボスだけど、明確なボスは居なくて階段周辺に押し寄せてくる中層の魔物を一定数狩ればクリアという仕組みなので、このゴーレムは多分単なる嫌がらせじゃなくて練習しろって意味なんだと思う。


――――――――


 そんなこんなでレクチャーしながら奥多摩ダンジョンの案内をサクサク進めた。


「はい、撃破。次は深層ね」


 下層からは京香さんのパラメータだと魔物を倒すのが難しいためボクが色々なバフをかけてフォローしながら倒し方を教えながら進んだ。

 下層ボスは敵の攻撃を紹介しながら出尽くしたところであの剣で瞬殺。


 そうしてついに深層ボクの家までやってきた。


「最難関ダンジョンの深層……まさか本当にここに来ることになるなんて」

「もう、信じてなかったの?」

「いや、信じてない訳じゃなかったが、いきなりここまで来るとは思わなくて……」


 深層まで行くって間違いなく伝えたと思うんだけど、今日って言い忘れたっけ?

 言ったような気がするけど……


「それで深層は森なんだな」


 下層に降りた時は震えてた京香さんも深層は平気みたい。

 変なの。


 "狂化様、ついに感覚がぶっ壊れる"

 "考えるのを辞めたって感じで草"

 "そら(世界で誰も到達したことの無い最難関ダンジョンの深層に連れて来られたら)そうよ"

 "見てるこっちも現実感無いしな"

 "魔物は救くんちゃんが瞬殺するか、とんでもバフ貰った狂化様がアドバイス通りにサクサク倒してたから強そうに見えないんだよな" 

 "深層もただの森にしか見えない"

 "森というより密度の薄い林?"

 "空が見えるな。綺麗な夜空だ"


 そうそう、ここって様々な高さの木が乱立しているけれど、空が見えるくらいにスカスカだから森って感じじゃないんだよね。

 それに草木が少ない広場もいくつかあるし。


 深層でもこれまでと同じように魔物の紹介や倒し方を紹介しながら進み、京香さんを目的の場所に連れて来た。


「ボクの家にようこそ!」


 そこは深層のセーフティゾーン。

 木々が生えていない小さな広場で、魔物が襲って来ない安全地帯だ。


「…………」

「京香さん、どうしたの?」


 突然黙っちゃった。


 "今、救くんちゃん、ボクの家って言った?"

 "聞き間違いじゃないよな"

 "おまえら良く見ろ、証拠があんだろ"

 "見えるけど脳が受け付けてくれないんだよ!"

 "アレってやっぱりアレだよな"

 "ベッドと箪笥があるうううう!"


 ベッドと箪笥しかないけどね。

 それで家だなんて言うのはおこがましかったかな。


「ここで……」

「ここで?」


 京香さんはとても渋い表情になってとても時間をかけて悩みに悩んだ末聞いて来た。


「寝ているのか?」


 そんな当たり前のことをどうして溜めて聞くのかな。


「うん」

「おうふ」

「京香さん!?」


 崩れ落ちてorzになっちゃった。

 あれ、ダンジョンに住んでるって説明したよね。

 あ、でもここで寝泊まりしてるって言ってなかったや、あはは。


「深層で寝るとか何考えてんだおるぁ!?」

「ひえっ」


 どうして怒るの!?

 今まで何を言っても怒らなかったのに!


「だ、だってここセーフティゾーンだから魔物襲って来ないし、それにほら」

「あぁ?」

「夜空が綺麗なの」

「…………」


 空を指差したら京香さんもつられて上を向いた。

 そのまましばらく夜空を眺めていたら、京香さんが無言でベッドに向かい横になった。


「…………しゃーないな」

「でしょ!」


 やっぱりちゃんと説明すれば分かってくれるよね。

 この星空があまりにも綺麗だからここを拠点にしてるんだって。


 "狂化様目が死んでるwww"

 "叱るの諦めたw"

 "さんざん実力を見せつけられたからしゃーない"

 "それより救くんちゃんのベッドに横になるなんて羨ましい!"

 "くんかくんかしたい"

 "はすはすしたい"

 "ペロペロしたい"

 "気持ち悪いのが湧いてる"

 "残念ながらすでに狂化様が実施済みだ"

 "ベッドに横になった時に一瞬枕に顔埋めてたよなw"

 "皆の憧れの京香様がこんな変態になってしまうなんて"

 "救くんちゃんが可愛すぎるのが悪い"

 "狂化様堪能済枕をくんかくんかしたい"

 "更にヤバイのが湧いて来た!"

 "[シルバー姉]救ちゃん、枕洗うから持って帰って来て"

 "お姉様!?"


「ぷぎゃっ!?」


 またお姉ちゃんも見てるの!?


 "ここまでコメント無しなのに枕でコメントしたのマジで草なんだが"

 "深層探索よりも枕が大事な姉"

 "こりゃあ救くんちゃんの家族は強さを知ってるな"

 "知らなきゃ不安にさせたってことでまた家族会議だもんな"

 "[シルバー父]誠に遺憾ながら最近知りました"

 "お父様もきたああああ!"

 "本物?"

 "知ったの最近なのかよwww"

 "そりゃあ遺憾だわ"

 "最上級の怒りの表現(何かするとは言ってない)"


「ぷぎゃっ!?」


 お父さんまで見てるの!?

 自宅の分身の方を動かして聞いてみよう。


「本物でした……」


 "いぇーい、お父さん見てるぅ?"

 "救くんちゃんがまた無茶やってまーす"

 "家族会議よろしくお願いします!"


「ぷぎゃああああ! 止めてよ! 無茶なんてしてないの分かってるでしょ!」


 家族会議は怒られながら号泣されて抱き締められて胸が痛くなるから本当に嫌なんだって。

 自業自得とか言わないで。


 もうさっさと配信終わらせようっと。

 深層の特徴や魔物も粗方紹介し終わったし、もう良いよね。


 あ、でもせっかくここまで来てもらったから、あそこに連れて行った方が良いかな?


「京香さ~ん、起きてますか~」

「お、おう」

「もし良かったらボス部屋まで行きます?」

「…………」


 深層のボス部屋。

 つまり奥多摩ダンジョンのラスボスがいる部屋だ。


「ボスはしばらく出てこないから見れませんけど、部屋の雰囲気くらいは見ておきたいかなって。それに最奥からなら戻るの楽ですし」


 ダンジョンの最奥のボスを倒すと外へのワープ機能が使えるようになるんだ。

 どこからでもすぐに帰れる緊急離脱用のアイテムを持ってはいるけれど節約出来るから通常ルートで帰った方が良いよね。


「ち、ちなみにどういうボスだ?」

「レッドドラゴン」

「…………」


 まぁまぁ・・・・強いよ。


 "そっかぁ、クリア済だったかぁ(遠い目"

 "世界で誰もクリアしてないのになぁ(遠い目"

 "本当なら絶対に信じられないのに下層ボスを瞬殺したのみるとなぁ(遠い目"

 "検証班が悲鳴あげてら"

 "どうやって検証するんだよw"

 "救くんちゃんに連れてってもらえば良いんじゃね?"

 "それじゃあついでに掃除できるようになりましょう"

 "エリクサー山ほどあるし、死んでも十秒以内なら生き返りますから"

 "検証班止めます"


 失礼だなぁ。

 ボクだって実力が無い人には頼まないよ?


 お願いするならもう少し緩いダンジョンで徹底的に・・・・鍛えてからだよ。


「はぁ……もう疲れた。連れて行ってくれ、今日はそれでおしまいにする」

「ごめんなさい、そんなに疲れてたんですね。まだ余裕に見えたから」

「ああいや、体力はまだ余裕なんだけど……気にするな」

「??」


 慣れないダンジョンだから気を張って疲れたってやつなのかな。

 それなら仕方ないね。


 それからは特に寄り道せずにボス部屋に向かった。


「ここがボス部屋です」


 通常時は真っ赤な巨体が横たわっているのだけれど、今は誰も居ない。

 あれ、でも再出現したらすぐに倒しているから誰も居ない今の方が通常なのかな。


 どうでもいっか。


「外へのワープはあそこで……」


 ぞくり。


 これって!?

 ボス部屋の中央付近で、猛烈に嫌な予感が体中を駆け巡った。

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