4. [配信回] 奥多摩ダンジョンツアー 上層ボス

「逃げちゃってごめんなさい……」


 "ええんやで"

 "ちゃんと謝れて偉い"

 "戻って来るの早かったな"

 "狂化様が不服そうw"

 "中止になるかと思ったのかもw"

 "あれだけ皆のためにと頑張る京香様もこの無茶ぶりはダメか"

 "元々京香様は徹底して準備するタイプだから……"

 "今日もレア装備でがっちがちに固めてるもんなw"

 "最難関ダンジョンに挑むなら当然でしょ"

 "しかしいきなり上層ボスからの中層ムーブとは思わず白目ですか"

 "未だに不安なんだが"

 "救くんちゃんがソロ討伐した姿を見てないからな"

 "緊急退避用の手段も用意しているだろうし、最悪の事態にはならないだろ"


 良かったぁ、誰も怒ってないみたい。

 それよりもボスと戦う不安の方が大きいっぽい。


 それなら倒すところを早く見せた方が良いのかな。


「さぁ、京香さん。行きましょう」

「マジで行くのか……そうだ!」

「ぷぎゃあ! 目を合わそうとするの止めて!」

「チッ、逃げられたか」


 "今気づいたんだけど狂化様ヤバくね?"

 "狂化様は常にヤバい定期"

 "そうじゃなく定期、素に戻ったらぶっ壊れそう"

 "あ"

 "あ"

 "あ"

 "あ"

 "至近距離で目を合わせちゃったwww"

 "救くんちゃんガチ推しの血が沸騰するぞwww"

 "発狂するのが目に見えてるwww"

 "こりゃもうダンジョンの中じゃ狂化様モード解除できないな"

 "したら京香様の方が逃げちゃうw"

 "でもこんな魔境で一人逃げたら死ねる"

 "羞恥からは逃げられない"


「お、おお、お前ら、変なこと言うな! マジ止めろ!」

「京香さんどうしたの? 変なコメントでも……」

「見るなああああ! そ、それよりボスはもう復活したのか!?」

「え、あ、うん。復活してるね」


 ボス部屋の中を見たら奴がいた。

 十分どころかもっと時間が経ってるから当然か。

 無駄な時間使っちゃって皆を飽きさせちゃってるかも。


 急がないと!


「じゃあ今度こそ、こんにちはー」


 "こんにちはー"

 "おじゃましまーす"

 "よろー^^"

 "ボス部屋に入るテンションじゃないんだよなぁ"


 ボス部屋の中央には四つ足の一体の魔物が足を折りたたんで座っていた。


 "やっばすげぇ強そう"

 "カメラ越しからなのに威圧感が伝わって来るわ"

 "強者のオーラがあるよな"

 "キメラにしてもあの組み合わせは卑怯じゃね?"


 そう、奥多摩ダンジョンの上層ボスは合成獣キメラだ。

 キメラは多くのダンジョンでボスとして登場するけれど、元となる魔物によって強さが大きく異なる。


「はは、リアルで見るとダメージ通る気がしねーわ。あの鎧、絶対硬すぎんだろ」


 うん、硬いよ。

 だって元がデュラハンだからね。


「しかもあの脚のぶっとい筋肉、スピードもヤバそうだ」


 うん、速いよ。

 だって元がケンタウロスだからね。


 つまりここのボスはデュラハンとケンタウロスのキメラ。

 下半身が馬で上半身が強固な鎧で覆われている人間で頭部が取れている。

 左手で頭部を抱えて右腕で大剣を肩に担いで構えている姿が超格好良いと思う。


 上層の魔物の性質を体現するかのようにステータスで圧倒して来るタイプのボスだ。


 キメラはボク達を視認するとゆっくりと立ち上がった。

 そういえば最初に戦った頃は敵意が凄くて速攻で攻撃仕掛けて来たのに、最近は少しマイルドになって様子見してくるんだけど何でだろう。


 "ちょっ、あのキメラ、救くんちゃんを見て怯えてない?"

 "マ?"

 "確かに拡大して良く見ると少し震えているようにも見えるけど"

 "流石に気のせいだろ"

 "腕で抱えている頭見ろよ。救ちゃんに目線合わせようとしないぞ"

 "コミュ障かな?"


 ボスのお披露目はこのくらいで十分かな。

 もう倒して良いよね。


「それじゃあ京香さん、頑張って」

「え?」

「準備運動だよ」

「いやいやいや、待て待て待て」

「エリクサー大量に持ってるし、死んでも十秒以内なら生き返れるから余裕余裕」

「ひいっ!」


 "wwwwwwww"

 "狂化様のガチ悲鳴www"

 "笑って良い場面じゃないのにwww"

 "ツッコミたい! エリクサー大量って何!? 十秒以内なら生き返れるって何!?"

 "だが無情にも戦闘が始まってしまうのであった"

 "き、切り抜き……"

 "来るぞ!"


 煩いなぁ、ちょっと黙っててよ。


「まだお話してる途中だよ」

『…………』


 "引き下がったwww"

 "あ、すいません"

 "先にお話どうぞ"

 "終わるまで待ってますんで"

 "空気読めなくてサーセンwww"

 "やっぱり完全にビビってるじゃねーかw"

 "完全に手懐けられてるw"

 "おかしいな、さっきまで凄い不安だったのに妙な安心感があるぞ"


 あれ、ノリで言っただけなのに退いてくれた。

 知性ある魔物が相手だと時々こういうことがあるんだよね。


「なんでボスは仕掛けてこないんだ……ってそうじゃなくて、私が勝てるわけ無いだろう!?」

「うん」

「即答かよ!」

「人は傷つきながら強くなるんだよ?」


 ボロボロになればなるほどパラメータは上がりやすいからね。


 "ここで名言は草"

 "確かにそうだけどwww"

 "それよりキメラ君困ってるぞ"

 "あの、お話はまだ終わりませんか?"

 "そろそろ攻撃しても良いでしょうか"

 "救くんちゃんにお伺い立ててるw"

 "ちょっと待ってて"

 "あっハイ"


「せめて倒し方を教えてくれって。そういう配信だろ!?」

「そうなんだけど、せっかく京香さんが強くなるチャンスだからさ。ほら、雑魚はすぐに復活するからレクチャーしながら練習できるけれど、ボスは一度倒すとしばらくの間復活しないでしょ。それなら倒す前にまずはボコボコにされた方がより強くなれるかなって」

「ひいっ!?」


 "【悲報?】救くんちゃん、まさかの脳筋体育会系だった"

 "死ねば強くなる理論はNG"

 "どっかの野菜人じゃあるまいし……"

 "半身喰われるのが普通の探索してたから感覚マヒしちゃってるんだろうなぁ"


 あれ、おかしいな。

 だって京香さん、訓練の時に罰ゲームで両腕切り落とすとかって言ってたから、これが探索者の普通の訓練方法だと思ったのに。


「配信ではグロテスクなシーンを見せるべきでは無いんだ!」

「そうなの?」


 探索シーンなんてグロの連続だよね。

 それ分かってて皆見てるのかと思った。


「救も傷だらけだったり腕切られて血が噴き出されてるシーンとか見たくないだろ?」

「別に?」

「…………」


 "別に?(迫真)"

 "別に?(当然)"

 "狂化様が困ってるwww"

 "こんなに話が通じないとは思わなかったんだろうなwww"

 "救くんちゃんも狂ってたか……"


 探索者やってたら普通のことだと思うんだけどなぁ。


「は、配信は探索者以外の人も見てるんだ。それに救も今は慣れてるけれど最初の頃は嫌だったんじゃないか!?」


 "必死www"

 "狂化モードなのに無様に命乞いしてるように見えるwww"

 "でもスプラッターは辛いから止めてくれると助かる"

 "それな、エリクサーで治ると言っても見てられないわ"

 "狂化様が可哀想だからやめたげて!"


 そっか、確かに昔はボクも痛いの嫌だったな。

 皆にあんな思いをさせちゃダメだよね。


「分かった。じゃあこいつはボクが倒すね。このボスはまた今度練習しよう」

「ああ!」


 "良い返事www"

 "キレッキレwww"

 "狂化様モードなのにさっきから全然怖くないなw"


 お待たせしました。

 そしてさようなら。


「それじゃあまたね」


 このキメラの情報はもう知られているみたいだから、詳しい説明はしなくても良いよね。

 ボクなりのオススメの倒し方だけ紹介しようっと。


「はい、どーん。もう一発どーん」


 鎧破壊スキルを付与させた衝撃波を拳に乗せて放てばおしまい。


 "!?!?!?!?"

 "え、今何が起きたの!?"

 "救くんちゃんの手から何かが飛んでどかーんってなった"

 "キメラの上半身がバラバラになってるんですけど……"

 "その後こっそり逃げようとしてた顔も確実に粉砕"

 "二発でボス撃破とかありえねえ"

 "フェイクだよな。絶対フェイクだよな"

 "そう思いたいけど、狂化様のあの唖然とした表情はガチにしか見えん"

 "ほっぺたつねり始めた、可愛いw"

 "そりゃあ夢だと思うわw"

 "マジで何が起きたの?"

 "有識者!"

 "十年以上探索者やってるがマジ分からん"

 "探索者向けWikiの編集やってるけど知らんぞ"

 "トップギルドの連中が凄まじい犠牲を出して倒したのに……"


 皆驚いているみたいだけど、このくらいすぐに誰でも出来るようになるよ。


「キメラの上半身ってデュラハンでしょ。デュラハンは鎧だから鎧破壊効果のある攻撃が弱点なんだよ」


 誰でも気付くと思ってたんだけど、どうして驚かれてるんだろう。


 "ソウデスネー"

 "子供でも分かることだよな"

 "探索者じゃなくても想像出来るよな"

 "普通は無効化されるけどね!!!!"

 "何で効いてるんだよwww"

 "デュラハンとか硬い、速い、強いの遭遇したら絶望する魔物の筆頭なんですけど"

 "誰もがダメ元で鎧破壊を試すけど成功した人が居ないって有名なんですけど"

 "しかもあの衝撃波みたいなの何!?"

 "拳波 (ナックルウェーブ) だと思う"

 "それって威力が全然ないネタスキルじゃん!"

 "拳型のゆるい衝撃波が飛ぶだけのやつでそ"

 "あんなよわよわスキルでボスを瞬殺とか意味が分からないよ!"


 皆が何を勘違いしているのか分かったかも!


「もしかして皆って普通に鎧破壊しようとしてる?」

「ど、どういうことだ?」

「デュラハン系の魔物は鎧の表面を強力な耐性でコーティングさせてるから、裏から攻撃しないと意味無いんだよ」

「裏から?」

「うん、拳波ナックルウェーブに鎧破壊のスキルを纏わせて、デュラハンの鎧の隙間から中に入って内側から破壊するの。スキルレベルが低くても効果があるからお勧めだよ」

「…………」


 もちろん鎧の中身がスカスカなデュラハン系が相手だからこそ使える技だけどね。


 "拳波にスキルを纏わせる?"

 "そんなこと可能なのか?"

 "可能だぞ"

 "マジで!?"

 "拳波に限らず、衝撃波を生み出すスキルには一部のスキルを纏わせることが出来る"

 "でも効果的な組み合わせは見つかって無かったはず"

 "これとんでもない発見じゃないか?"

 "もし救くんちゃんの言う通りにスキルレベルが低くてもデュラハン倒せるなら、いくつかのダンジョンの攻略が大幅に進むぞ"

 "デュラハン強すぎて半端な実力だと出会って即壊滅だからな"


 へぇ、デュラハンにみんな困ってたんだ。

 かなり倒しやすい魔物だからボーナス扱いされてるかと思ってた。


「な、なあ救。本当に鎧破壊スキルのレベルが低くても倒せるのか?」

「多分ね。スキルの威力を最小限に絞って攻撃して倒したことあるし」

「マジか……」

「京香さんは鎧破壊スキル使えるの?」

「ああ、大剣波も使えるからそれと組み合わせれば……」

「ここの上層ボスは安定して倒せそうだね!」

「マジかぁ」


 あはは、京香さん嬉しそう。


 それにボクも嬉しいや。

 だってデュラハンで傷つく人が減るってことだよね。


 こういう方法で誰かの役に立てることがあるなら、沢山伝えたいな。

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