強さの秘密と奥多摩ダンジョン配信
1. 模擬戦を観戦しよう ( こっそり手助けしよう )
がおー
『もし時間があれば、お台場のSTFに来て欲しいの』
ボクが家族に二度怒られてから数日後、京香さんからLIONEのメッセージが来た。
まだ謹慎中でダンジョンに潜れず、外でも罰的な仕事をさせられて自由な時間がほとんど無いみたい。
休日はお台場のSTFってところで仕事をしているんだって。
STFってなんぞや、と思って調べてみたら探索者訓練施設のことらしい。
硬いカカシ相手に攻撃を試したり、パーティーの連携を確かめたり、強い探索者に指導して貰えたりする場所ってネットの公式ページに書いてあった。
そんなこんなで今日は京香さんにお願いされたからSTFってところに行こうと思う。
そこでコミュ障を治す訓練をしつつ、『掃除』についての詳しい話をするんだ。
「
家を出たら空を飛んでひとっとび。
東京の葛飾区にある自宅からお台場までなら十分もかからない。
「他に空飛んでいる人を見かけないな」
もしかしたらこれも法律か何かで禁止されているのかな。
だとしたらまた謝らなくっちゃ。
京香さんに聞いてみよう。
「はぇ~おっきい」
目的地に着いたらあまりの施設の広さにびっくりしちゃった。
東京ドームみたいな建物が沢山並んでるんだもん。
「これじゃあ京香さんを探すの大変そうだなぁ」
探知系のスキルは魔物を探すのには使えるけれど、人を探すのには向いていないんだ。
受付で聞けば良いじゃないかって?
あはは、ボクが受付の人とお話なんて出来るわけないじゃないか。
着いたらLIONEで連絡してって言われているけれど、自分で探すつもりだった。
戦闘訓練の教官をやらされているとかって言ってたから、早めに着いてこっそり見に行こうと思ってね。
「いた」
ドームの中はシンプルで平坦な土の広場になっていて、京香さんは若い五人パーティーの探索者達と模擬戦をしていた。
「オラオラオラどうした! 五人もいてその程度かぁ! 真面目にやってんのか!」
「ヒイイイイ!」
「ぎゃああああ!」
「だずげでー!」
訂正するね。
一方的に虐殺してた。
タンクっぽい盾持ちの人は眠っているし、前衛の戦士っぽい人はマヒで身動き取れない状態になっている。
そして残りの中衛と後衛っぽい人達を
「くそっ、あたれ、あたれ、あたれよぉ!」
小柄な女性が短剣を必死に振っているのに全部無視されて涙目だ。
しかも京香さんは後衛に敢えて追いつかないように追い回して脅かしている。
「逃げろ逃げろ、このままだと罰ゲームだぞ!」
「いやああああ!」
「両腕切り落とされるなんて嫌だああああ!」
何か怖いこと言ってるんだけど!?
外の世界の人って、罰ゲームでそんなことするの!?
……エリクサー沢山仕入れておこ。
「お、逃げるスピード上がったか。なんだやれば出来るじゃねーか。でもざ~んねん」
「ぶべらっ」
「はい、後一人」
「鬼ぃ!」
これは酷い。
白いローブを着た人が蹴りをまともに喰らってノックダウン。
ちょっと可哀想になってきたからこっそり助太刀してあげよう。
『
「!?」
「!?」
京香さんに短剣で攻撃をしていた女性に移動速度が上昇する補助魔法をかけてあげた。
「ちょっ、おまっ、急に!?」
「良く分からないけどいける! これならいける!」
「うお、やば、ちょっ、待て」
「あたれあたれあたれあたれ~!」
が~んばれ、が~んばれ。
そこだそこだ~!
京香さんは避けるのをやめて大剣を使ってガードしているぞ。
もう少しで一撃入れられるよ。
う~んでもまだこれだと足りないかな。
まだ京香さんには余裕がありそう。
よし、京香さんの足元の土を盛り上げてみよう。
えいっ
「ぬおっ!あっぶ、うわ」
すごいすご~い。
バランスを崩しかけたけど、すぐに持ち直した。
しかもちゃんと女の人の攻撃も防いでる。
「なめっ、るな!」
「あっ!」
あ~惜しかった。
あと一歩で当たりそうだったんだけれど、京香さんの反応の方がまだ少し早くて持っていた短剣を弾き飛ばされちゃった。
「シルバーマスク! いるんだろ!」
しかもボクがいるってバレちゃった。
仕方ないから姿を現そう。
「呼んだか?」
「やっぱり居たか。勘弁してくれよ」
「「「「「シルバーマスク様!?」」」」」
パーティーの人達が驚いているのは良いんだけれど、何で様付け?
「京香殿が少しばかりやりすぎに思えたのでな」
「これはそういう訓練なんだよ。前衛が行動不能になった時に中衛と後衛がパニックにならないように脅かして恐怖に慣れさせてたんだ」
「ぬ……それは悪いことをした。嬉々として
「…………」
京香さんがそんなことするわけないよね。
信じてあげられないなんて、ボクのバカバカバカ!
「さ、さぁ訓練はここまでだ。てめぇらこんなんじゃダンジョンで全滅するぞ。特に後衛のお前、最後のチャンスをどうして活かさなかった! あそこで魔法使っていれば私に勝てたかもしれないんだぞ。最後まであきらめずにあがけって言っただろうが。ダンジョンで死にたくなければ、ビビるな、諦めるな、生にしがみつけ。分かったか!」
「「「「「ハイ!」」」」」
へぇ、ちゃんと教官役やってるんだ。
教えてもらったパーティーもあんなに酷いことされたのに素直に話を聞いている。
実は案外人気があるのかも。
「じゃあな。シルバーマスク、行くぞ」
「うむ」
「ちょっと待ってください!」
訓練が終わりということでこの場を離れようとしたら、五人パーティーの一人、ボクがヘイストをかけてあげた女性が声を挙げた。
ボクを見てるからボクに用事があるのかな。
「なんだ。シルバーマスクは私の客人であって……ごほん、シルバーマスクさんはわ・た・し・に用事があって来ただけで教官じゃないよ」
ここで大人しい方の京香さんに戻るんだ。
『わたしに』を強調してたのが不思議だ。
「そうじゃなくて、さっきのことでシルバーマスク様に聞きたいことがあるんです」
「聞きたいこと?」
京香さんがボクの方をチラりと見た。
任せて良いかという確認なのかな。
何も問題無いよ。
何でも答えてあげる。
って目線で答えたら京香さんが頭痛をこらえてるみたいな感じになった。
解せぬ。
「ふむ、構わん。言うが良い」
「はわわ、本物のシルバーマスク様だぁ……」
「ぬ」
「あ、いえ、先程の補助魔法についてなのですが、あれってヘイストですか?」
「うむ」
不思議そうな顔をしているな。
もしかして今までヘイストをかけてもらったことが無いから奇妙な感覚だったのかも。
補助魔法あるあるだね。
「ヘイストってあんなに効果があるものでしたっけ?」
ああ、そっちの疑問だったか。
見たところかなり若くて新米パーティーのようだし、スキルレベルが低いヘイストしか体験したことが無いのだろう。
「スキルレベル次第だ。カンストしておくと便利だぞ」
でもパラメータの限界は越えられないんだよね。
だから強い人にカンストヘイストかけても限界に到達しちゃうから意味が無かったりする。
ちなみに最難関ダンジョンの魔物の中にはパラメータの限界突破をしているのがゴロゴロいるから理不尽で困る。
「カンストってマジかよ」
「補助魔法はスキルレベル上がりにくいのに」
「どれだけ使い込んでるの?」
おや、何か彼らの雰囲気が妙だぞ。
「カンストなどダンジョンで使い続けていれば直ぐだぞ。探索中は常に切らさないようにすることと、格上の魔物とも積極的に戦うことがスキルを早く上げるコツだな。だからといって無謀な挑戦はダメだ。命あってのものだからな」
補助魔法はかけ続けるだけで良いからレベル上げかなり楽だと思うんだけどなぁ。
「おい、お前出来るか?」
「無理、魔力が全然足りない。それに他の魔法を使う余裕が無くなる」
おかしいな。
スキルレベルが低ければ魔力なんてそんなに使わないと思うんだけど。
ダンジョンに挑戦するにはまだ基礎パラメータが足りてないのかも。
「それなら魔力を鍛えるべきだ。ダンジョンを探索する時はあらゆる補助を常にかけ続けるのが基本だからな」
「常にかけ続ける……」
「残り魔力を考えて計算して魔法を使うようにって習ったんだけど……」
「そもそも魔力って簡単に上がるんだっけ?」
計算するのは大事だけど、そもそも魔力自然回復スキルと組み合わせて無限に使えるようになれば計算しなくて良くなるから楽でしょ。
それに魔力もそれ以外のパラメータも簡単にあがるって。
例えば
「はいは~いここまで。さ、シルバーマスクさん行こう」
「ぬ?」
もっとアドバイスしようと思ったら、京香さんが妙に焦った様子で強引にその場を連れ出された。
何か言っちゃダメなことがあったのかも。強くなって生き延びて欲しいだけなのにな。
外の世界のルールって難しい!
「あ~サイン貰いたかったのに!」
「しまったああああ」
「お前があんなこと聞くからだぞ」
後ろで彼らが騒いでいるけど、京香さんは歩くスピードを速めて逃げるようにその場から去ることになった。
良く分からないけれど、サインの練習しておいた方が良いのかな?
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