6. 初配信2

 "うっそだろwww"

 "何で覚えてないんだよwww"

 "シルバーマスクで一番有名な事件だろwww"

 "本人が全く覚えてなくて草"

 "[二心京香]渋谷ダンジョンがあふれたことあったでしょ?"


 五年前に渋谷ダンジョンが溢れた……あ、そうか!


「思い出した! 美味しそうな香りが漂ってた時のことだね!」


 "は?"

 "美味しそう?"

 "血生臭いじゃなくて?"


「だってあの時って食べられる魔物ばかりだったんだよ。しかも探索者の魔法で沢山燃えてたから香ばしくてお腹減って来ちゃった覚えがあるなぁ」


 "何で食べられる魔物ばかりって知ってるんですか"

 "当時、未知の魔物ばかり出て来たって話題だったような"

 "そっか、アレ美味しいんだ……"

 "やめとけ、上級ダンジョンの中層以下じゃないと出てこないのが大半だ"

 "だから何で食べられるって知ってたんですかねぇ"

 "それより他に覚えてること無いの!"

 "もっとインパクトある出来事!"


「インパクト……? 何かありましたっけ?」


 敢えて挙げるならダンジョンあふれ自体が珍しいからインパクトはあったけど。


 "ほら、右腕とか"

 "ぱくぱく~って"

 "大変だったじゃん!"


「右腕? ぱくぱく? もしかしてビッグファングタイガーに右腕食べられちゃったこと言ってます?」


 "そうそれ!"

 "がっつり食われてたでしょ!"

 "トラウマモノなのに何で覚えてないのよ"

 "めちゃくちゃ痛そうにしてたじゃん"

 "あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛"

 "思い出すから止めろ"

 "だい……じょ……我が……絶対……守っ……"

 "(´;ω;`)ウッ"

 "思い出すから止めろ"

 "血まみれで必死に女の子を守る英雄ムーブ"

 "あの動画が拡散されたおかげで無茶なダンジョン探索する人が減ったんだよなぁ"

 "スプラッター動画は普通はすぐ消されるけれど、これだけは日本の危機とも言える大事件だったから拡散されすぎてネットに残ってるんだよな"

 "最近だと中学生向けの注意喚起講習会で見せられるんでしょ"

 "こうなりたくなければ無茶するなってな"

 "あれモザイクかかってるけどそれでもグロいから効果はばつぐんだ"

 "ちな本人は忘れてたw"

 "なんでや!"

 "忘れたくなるくらい辛かったとか?"

 "(´;ω;`)ウッ"


「そんなこと言われても、あのくらい当時は良くあることだったから……」


 痛かったけど普通だよ普通。


 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "[シルバー姉]家族会議"


「ぷぎゃああああああああ!」


 お姉ちゃん見てるの!?

 本物!?


 "m9(^Д^)プギャー"

 "m9(^Д^)プギャー"

 "m9(^Д^)プギャー"

 "姉本物?"

 "分からんけど家族会議m9(^Д^)プギャー"

 "家族知らなかったのか"

 "だとすると家族会議も納得"

 "怒られて来なさい(´;ω;`)"

 "どれだけ修羅場潜ってるのよ(´;ω;`)"


 え、これどうしたら良いの?

 本当にお姉ちゃんなの?


 "三万人の前で説教クルー?"

 "↑それ言うなって言われてるだろ"

 "むしろ少なくね?"

 "いくら話題性があるといっても最初でこれならヤバすぎだろ"


 三万人?

 何の話?

 さっきのお姉ちゃんは本物か確認した方が良いの?


 あわわ、気になることが一杯で何からすれば良いのか分からない!


 がおー


 あれ、LIONEが来た。

 お姉ちゃんからだ。


 『本物です』


 家族会議は嫌ああああああああ!


「うう……本当にお姉ちゃんらしいです……LIONEが来ました……」


 "ガチで凹んでて草"

 "いたずらが見つかって怒られている犬みたい"

 "おねえちゃんってもう一回呼んでください"

 "おにいちゃんでも良いんだよ"

 "なんか湧いて来た"


 まだ挨拶とライセンスの話しかしてないのに、どうしてこんなことに……

 気が重いけど、今は配信中だから先に続けないと。


「あ、あの、ごめんなさい。話が逸れちゃったけど、皆ルールを守って探索しようね」


 "はーい(おまいう)"

 "はーい(おまいう)"

 "はーい(おまいう)"

 "おねえちゃんって呼んでくれたら守ります!"


「ぷぎゃあ!? お、おねえちゃん?」


 "ぶわっ(鼻血)"

 "生きてて……良かった……"

 "救きゅううううん!"

 "あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛"

 "腕食われたやついて草"

 "おにいちゃんも! おにいちゃんも!"


「ぷぎゃあ!? お、おにいちゃん?」


 "ぐはっ(吐血)"

 "生きてて……良かった……"

 "救たあああああん!"

 "あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜あ゜"

 "腕舐められたやついて草"

 "パパも! パパも!"

 "ママも! ママも!"

 "ねーたんって言って!"

 "にぃにおねがいします"

 "ヤバすぎて草 (おにいたんでヨロ)"


「ぷぎゃああああああああ! 何これぇ!」


 え、え、どうすれば良いの!?


 "悲鳴たすかる"

 "m9(^Д^)プギャー"

 "困惑してるとこも可愛い"

 "そういえば救ちゃんは男の子なの? 女の子なの?"

 "あっ……"

 "聞いてしまったか"

 "知らなければ幸せだったものを"

 "シュレディンガーの救ちゃん"

 "性別が確定するまではどちらもありえるのだ"


「性別? 何言ってるの? 見れば分かるでしょ?」


 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "ソ、ソウダネ"

 "うんうん、見れば分かるよな"

 "変なこと聞くなよな"

 

「全く、皆変だよ」


 もしかしてこれがネットの悪ノリってやつなのかな。

 そういうのには気を付けるようにって京香さんが言ってた。


 がおー


 あれ、京香さんからLIONEだ。


『時間見て』


 うわ、もうこんなに時間経ってるの!?

 まだ自己紹介全然出来てないのに。


 慣れるまでは配信は短めの方が良いって京香さんに言われてるから、そろそろ終わらせないと。


「皆ごめんなさい。もうそろそろ配信終わらせなきゃダメみたい」


 "ええええええええ!"

 "ええええええええ!"

 "ええええええええ!"

 "まだ何も話してないよー!"

 "それなのにすでに世の中を震撼させている不思議"

 "少し叩いたらまだボロボロネタが出て来そう"

 "ヤバいネタしか出ないから迂闊に叩けないw"


「今日は見に来てくれてありがとうございます。今日は話したいこと全然話せなかったから、また今度お話します」


 名前しか自己紹介出来なかったもんね。

 こんなんでみんな満足してくれたのかがとても不安だ。


 そうだ、アレだけ言っておかなきゃ。


「最後に一つお話があります」


 "お"

 "何だ"

 "次回の話かな"


「あ、次回の話じゃないです。それも言っておいた方が良いのかな。いつになるか分からないけれど、ボクの探索風景をお見せ出来たらなと思います」


 "うおおおおおおお!"

 "きたああああああああ!"

 "絶対見る!"

 "それが見たかったの!"


 やっぱり皆雑談よりも探索の方が嬉しいのかな。

 次回も見てくれそうで良かったぁ。


「それで、本当に言いたかったことだけど、最難関ダンジョンについてです」


 "最難関ダンジョン?"

 "何の話だろ"

 "奥多摩ダンジョンで何か見つかったとか?"

 "クリアしました、とかだったら草"

 "流石に無いだろwww"


「最近、最難関ダンジョンを探索する人が減っているって聞きました」


 "例のアレな"

 "流石にシルバーマスクも知ってるんだな"

 "そういえば救ちゃんは恋愛ありなのかな"

 "京香様推しだろ?"

 "それは悲しい勘違いによるものだったって京香様が言ってたぞ"

 "でも京香様がコメントしたとき嬉しそうだったしなぁ"

 "京香様もシルバーマスクを見る目が怪しいしな"


 気になるコメントが多いけれど拾う時間が無いよー


「あの、ごめんなさい、時間無いから関係ないコメント拾えません。それでですね、このままじゃかなり不味いんです」


 "マズい?"

 "何が?"

 "最難関ダンジョンは放置しても大丈夫なんだろ?"


「最難関ダンジョンがあふれるかもしれないんです」


 "は?"

 "いやいや、まさか"

 "最難関ダンジョンなんてほとんど探索されてないのにこれまで一度もあふれなかったっていうのに"


「昔のことは分かりませんが、少なくとも今は最低限上層を探索しないとあふれるみたいです」


 "もしかして奥多摩ダンジョンがヤバいとか!?"

 "嘘、そんな兆候あるの!?"

 "おいおいおいおい、マジで日本の終わりじゃねーか!"


「まってまって。安心してください。まだ溢れないです。ボクが毎日掃除してるので」


 "は?"

 "掃除?"

 "奥多摩ダンジョンの上層の魔物を狩ってくれてるってこと?"


「上層だけじゃなくて深層までですね。あと、奥多摩以外の最難関ダンジョンも定期的に掃除してるから安心してください」


 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"

 "…………"


 あ、あれ?

 コメント機能バグったかな?


 まぁ良いや、ダメだったら後でまた言えば良いだけだし、最後まで言っちゃおう。


「でもボク一人だけだと大変なんです。だから他の人にも手伝ってもらいたいんです」


 相変わらずコメントが壊れてるなぁ。


「もちろんボクが掃除のノウハウを教えます。でもいきなり沢山の人に教えるなんてボク出来そうにないから、ひとまず最初は京香さんにお願いしたいなぁって思ってます」


 "[二心京香]待tt聞いてな"


 あれ、京香さんのコメントだけ見えた。

 他の人は相変わらず『……』ばっかり。

 変なバグだなぁ。


「ということで、ボクからのお願いは以上です。掃除のお話は詳しく決まったらまたお伝えしますね」


 よし、これで言いたかったことは言えたかな。

 配信終わろうっと。


「それでは皆さん、ご視聴ありがとうございました」


 配信停止、と。

 ふぅ、何も問題無く終わって良かった~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る