第2話 出会い
私は、それを夏休みに海岸で見つけた。中央に黒い球が浮かんだガラス玉のようなそれは、好奇心の強い子供だった私には魅力的に見えた。私のお守りと夏の暑さにぐったりした両親の元へ駆け寄るなり、私は手に入れたそれを自慢した。まるで世紀の大発見のように。
「ママ見て!!」
「な、なぁにそれ」
「わかんない!」
動くなり光るなりしていれば両親は警戒して捨てさせたのだろうが、ただ黙っていたそれを疑う余地はなく、ガラスの小さなインテリアだとしか思わなかったろう。変な物を拾ってきた事に呆れるのみで特になにもしなかった。
家に着くなり、いままでのコレクションの中に加わった。海がほど近かったとはいえ、子供だから許される量のコレクションで棚が埋め尽くされていた。数が増えた傍から古い物を捨てれば良いのだろうが、私はそれが、いままでの自分自身の歴史を消去していくようで受け入れる事が出来なかった。より小さい頃には自分の意図を伝える事がうまくいかずに親に物を捨てられたことがあった。自分が親になったら、子供の物を捨てる時にとても慎重になる事だろう。
沢山の貝殻、何かの石、ガラスの破片などの中に並ぶそれは、なんとなく異様な雰囲気を漂わせていた。しかし、決して恐怖する事はなく、ただただ気になって仕方がなかった。とはいえ何かが起きるわけでもなく、ただそこにあるだけであった。何かが起きればと、来る日も来る日も期待していたが叶う事はない。
「これ?」
「そうだよ」
「へんなの」
「かっこいいでしょ」
友達に見せびらかしもしたし
「先生これなんだか分かる?」
「なん、だろうねぇ」
先生に聞きに行ったりもした。しかし、誰も何物なのか知らないし興味を持たない。まるで自分が認められていないかのようなイラつきを覚えた。ここで、これがなんなのかを知るために時間を使う事を心に決める私なのだが、それが今に繋がる事を考える由もなかった。様々な事を試し、何も起きずに夏休みが終わり、中学受験が始まり何も出来ずに時が過ぎ、忘るべからずと壁に掲げた紙の文字を3月に見てやっと再び“研究”に戻る事が出来た。
「やっと戻れる」
そうして私は、中学が始まってしばらくは図書館とインターネットにしがみつく事になる。様々なインテリアの歴史、この類の商品を作る加工技術などなどを中学生なりの理解で調べていった。一時期は、とあるマイナーな作家の作品とにているのではないかと考え直接連絡を取った。
「残念だけど、僕はそういう特徴に当てはまるような作品は作ってないな。」
「そうですか・・・」
「良かったらさ、フォームからのメールで写真送ってみてくれない?」
そのようにした翌日、彼女から返信が来た。彼女の大学時代の恩師の先生たちにまで回して聞いたけど、何もわからないとの事だった。似たような物はたくさん見つかるが写真の通りではないと一概に述べたという。奇跡的にも専門家と関わる事になりかつてないほど高揚したわけだが、ことごとくそんな気持ちを打ち砕く事実に嫌気がさした。そんな感情に支配された結果、ふてくされて寝てしまったので最も重要な文章を読み逃してしまっていた。二日後に、事実に向き合おうとメールを見直してやっと気づく。
『そんな事よりも、というのは変なんだけど、これほんとにガラス?ガラス玉を通して見た景色の歪み方に違和感があります。おんなじくらいのサイズのガラス球体の彫刻はこんな風にはなってないよ。歪み過ぎてる気がする。写真の見え方の問題だったらすみません。僕の無題34Tを画像検索してみてください。』
完全に新しい視点からの助言だった。ただ一人で探っていたが故に視野が狭くなり考えていなかった。そもそもちょっと軽いかもしれない。この関わりと、そんな疑いから科学的な調査が始まる。
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