第5話

 先生が冷静で良かった。

「歩けるようならバスから降りましょう。五分くらい歩いたら私鉄の駅があるのよ。タクシーを呼んで、おうちに送るわね」

 ゆっくりと立ち上がり、少ししびれたような足を引きずりながら、バスから降りた。

 運転手さんに心配されたので、なんとか笑顔で挨拶をしてから降りた。

 

 バスを降りると、ちゃんと現実だった。さっき見た風景が嘘みたいに思える。

 駐車場から遊園地に向かう道路は、パトカーが何台か停まったまま、警察官たちが交通整理をしている。そのずっと向こうには救急車も……


 どんな事故があったんだろう。大丈夫だったらいいな。

 クラスメイトたちは、大丈夫かな?


「クラスの子たち……大丈夫ですか?」

「うん……ちょっと待ってね。先生の、既読がつかないから……」

 二宮先生は、担任の篠原先生に電話しているようだった。


「繋がらない……」と言いながら、二宮先生は首を傾げている。

「ひとまず、タクシーで送るわね。遊園地に着いて、点呼したりいろいろで電話に出られないのかもしれない。駅に着くまでに折り返しの連絡があるかもしれないから」

 私は二宮先生の言葉に頷きながら、ゆっくり歩く。


 この道を行くと、さっきの落ち武者さんのいたところを通るよね。まだ、いるのかな。

「もしも、また幽霊を視たときは、意識しすぎないようにしたらいいわよ。そうやって友達はやり過ごすって言ってたから」

 二宮先生が、私の話を信じてくれているのが嬉しかった。だから、私も先生の話を信じてみよう。


 もし、また視えても大丈夫――


 気持ちが明るくなってきたのが嬉しくて、先生がいる隣を見る。


「え、先生」


 先生は私の少し後ろで蹲っている。

 近づこうとしたとき、私の右手は誰かに掴まれて動けなくなった。



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