第8話

 かつてシドだった頃。

 彼の祖国では子供の頃から魔物と戦う訓練を受け、15歳になると魔物の討伐隊に入ることになっているのだが、体が弱く頭の良かったシドは兵役を免除され研究者となった。

 

 正直、同年代の仲間たちには申し訳ない気持ちだったが、親友であるレイドはそれを祝ってくれたおかげで研究者として研究に没頭することができたと思っている。

 北辺の厳しい環境にあるこの国は魔物と農作物の不作に悩まされていた。

 この国の研究者の役目とは、魔物の研究と品種改良により環境に適した農作物を生みだすこと。

 この二つがとても重要視されていた。


 親友のレイドは小柄なシドと正反対で体格に恵まれ、戦士としても優秀で15歳になる前から実習で、教官も驚くような戦果を上げていた。

 兵役には男女関係なく一定の期間つくことになっており、魔物の存在が非常に身近なこの国にとって、それと戦う経験は生きていくうえで必須のものだった。

 そしてその兵役においてもレイドは多くの戦果を上げ、兵役期間後も軍に残ることを望まれていた。


 この時代、この国では様々な作物の研究がされており、その中にあの紅い果実もあった。

 やせこけた土地でも栄養価の高い実をつけるこの果樹は国のあちこちで栽培されていた。


 当時、魔物の研究に携わっていたシドは紅い果実を栽培していた村や町が魔物の襲撃をうける割合が高いことに気づいた。

 試しに紅い果実の果樹園の周りに匂いの強い農作物を植えて香りが広まらないようにしたり、鳥によって種が運ばれて周辺にできるこの果実の生る果樹を切り倒すなどしたところ、魔物の被害が急激に減ったのである。

 シドはこの成果を称えられた。が、その裏でこの果実を利用したとある計画が進められていた。

 

 それは品種改良により香りと繁殖力を高めた紅い果実の種を隣国にバラマキ、魔物のにより国力を削るというものだった。

 

 そんなことを知らないシドは、なぜ魔物が紅い果実に引きつけられるのかを研究していた。

 紅い果実に集まる魔物を調べていたが、結果、この実に集まってくる魔物は小鬼だけだということが分かった。

 魔物どうしが食い合うのは知られていたため小鬼を捕食するために他の魔物も集まってくる。そう多くの研究者が結論づけるなか、シドは納得いかず更に研究を続けた。


 そして魔物の身体からある特殊な栄養素を発見する。

 「障気」と呼ばれる特殊な栄養素を……。


 この障気はこの世のどの食物からも摂れない特別なエネルギーなのだが、唯一、小鬼だけが体内で生成できることが判明した。

 最弱の魔物と呼ばれた小鬼だけが、障気のふくまれない食物を体内で障気に変換できるのである。


 紅い果実と小鬼と他の魔物との関係を解明したことはとても大きな成果なのだが、国の上層部は障気に注目していた。

 魔物を魔物たらしめるエネルギー。障気に……。




  

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