第6話

「あんたって実は良いとこの子?あっいや、いろんなこと知ってるからさぁ。そういうのってさぁ、良い家とかに生まれないとなかなか学べないんじゃないかなぁっておもっちゃって……。ごめんっ、変なこと聞いちゃって……。あたし無知だからさぁ。あんたって同じくらいの歳なのにいろんなこと知ってるからさぁ……。変なこと聞いてごめんなさい」


「たまたまそういう事を知る機会があっただけだ。たまたまだ……。大した事じゃない……」



 その日の夜。そんなやりとりがあったからか、昔の夢をみた……。

  

 吹雪の中を進む2つの人影。

 一人はシグ、もう一人はシグの父親シド。

 二人は祖国から逃げ出した逃亡者。追手をなんとか振り切ったものの二人とも深手を負いその命の灯火は消えかけていた。

 おそらく二人とも長くはないそう感じるとシドは息子を巻き込んでしまったことを後悔した。

 

 力尽きたと、そう思っていた。

 意識が戻り傷の痛みも疲労もない。

 自分の身体が自分の身体ではないような感覚。

 

 息子は!シグは?!

 そう言いながら周辺を探すと一人の男の存在に気づく。

 シドはギョッとする。

 男は黒衣を身にまとい、ジッとこちらを観察している。

 シドはその黒衣を見てある噂話を思い出す。

 黒衣の医師

 それはシドの生まれ育った北辺と呼ばれる地域に伝わる話。その黒衣の医師に倫理観や道徳というものは無く、ただひたすら自身の医術の向上のために施術をおこなうという。

 

 黒衣の男は言う


「おまえさんはどっちだ?それとも両方か?」


 言葉の意味を理解できずに固まっているシドに鞘に納まった剣を放ると


「自分の姿を見てみろ」


 と言う。


 放うられた剣、息子の剣を拾うと鞘から抜き剣身に映った自分の姿を見る。

 そこには自分の姿はなく、息子のシグの姿が映っていた。

 混乱する間もなく男は続ける。

「残ったのは父親の方か。二人とも重傷で助かる見込みが無かった。それで二つの命を一つの命にしてみた。蘇生はうまくいったようだな。」


 男は無表情で、特に嬉しくもない様子だ。


「若い方が素体に向いているんでなぁ。おまえさんの元の肉体は素体の補修に使いきった」


「息子は!シグはどうなったんた?!」


 という問いに


「そこにいないのなら、もうこの世にはいないということだ」


 そんな……と、つぶやくシグに


「俺達には命の足し引きはできるが、魂までは自由にできん」


 そう言ってこの場から立ち去ろうとする男は最後にこう言う。


「おまえさんが残ったという事はこの世にやり残した事、強い未練があるということだ」


 未練、やり残した事。それを聞いて固まるシド。

 祖国から逃げ出した理由。

 

 右手にまだ先ほどの剣を持っていることに気づくと……。目をつぶりその刃を首にあて……意を決する。


 そのとき、鞘を持っていたはずの左手が右手をつかみ、自決を止める。


 それまで感じなかった息子の気配を微かに感じる。


 「シグ?!」


 思わず息子の名を呼ぶ。

 だが、息子の気配を感じたのは後にも先にもこのときだけだった。

 

 息子に自決を止められたシド。

 

 その後

 シグとなったシドは絶望と後悔を背負って50年……。半世紀近く大陸をさまよい、ヴァネッサ達と出会う。

 歳をとらなくなったシグの体で……。

 

 


 


 


 


 


 

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