第5話
日の暮れた教会
テーブルの上に置かれた紅い果実。昼間シグが回収した物だ。
紅い果実の乗った皿の横に種の置かれた別の皿が。紅い果実の種だ。
紅い果実の甘い香りは小鬼を引きよせる。小鬼のような弱い魔物はより強力な魔物の餌となり他の魔物を引きよせる。
多くの農家はこれらを経験から学んでいるのか、甘く栄養もあるこの果実をつくる者はいないという。
紅い果実の木を見つけたらすぐに処分する。
果実は食しても良いが、その種はきちんと処分する必要がある。
この教会ではシグが集めて焼却するようにしている。
ヴァネッサ達は教会の裏に畑をつくっており、まだ完全な自給自足とまではいかないが、子供達の生活をささえている。
シグが教会に来た当時、紅い果実のなる木が植わっており、説得して処分するさせたという経緯があった。
「シグがここに来てそろそろ一年ね」
ヴァネッサの言葉にああ、と短く応える。
決して楽しい話題ではないことを理解しているからだ。
一年前、シグが訪れた日。それはこの教会の神父と4人の子供が大型の魔物に襲われ命を失った日でもあるからだ。
紅い果実と魔物の関係を説明され、ヴァネッサと一部の子供は自分達が植えた紅い果実の木が原因で神父と子供達が命を落とす事になったのだと考える事になる。
現に紅い果実がなりだした頃から畑が荒らされるようになり、それが段々と酷くなっていったのだという。
そしてあの日……。
今でもあの日の出来事は、この教会の住人達に深い傷を残している。
一年前
その夜、宿をとるためこの村に訪れたシグはすぐに村の異常に気づいた。
村とその外側を仕切る柵が所々破壊され、夜にもかかわらず悲鳴や怒号があちこちから聞こえる。
そのうちの一つ、教会の裏から聞こえる子供の悲鳴の元にシグは駆けつける。
教会の裏側は畑になっており、その中心に大型の魔獣、その魔獣の向いている先に神父らしき人物が倒れており、その周りに子供達、そしてその一団と魔獣のの間に神父と子供達を守るように立ちはだかる一人の少女。
瞬時に状況を理解するとシグは無言で魔獣のの右側に走り寄りスライディング気味に魔獣の腹の下にもぐりこむ。
起き上がりながら剣を腹部に突き刺し、切り裂きながら魔獣の左側にとび出す。
魔獣がシグの方向を向こうとすると、すかさず左前足を切り裂くシグ。まるでこのタイミングを狙っていたかのようだ。
そのまま魔獣の牙をかわしながら左後ろ足、右後ろ足、右前足の順に切り裂いていき魔獣の動きを封じる。
魔獣はのた打ち回りながら傷口から血液と内臓を吐き出す。
シグの立ち回りにあ然としていた少女、ヴァネッサは状況を理解すると怒りにまかせて大型魔獣に斬りかかろうとする。が、それをシグが制止する。
魔獣の周辺に散らばる子供の亡き骸。子供達の仇を取るつもりなのだろうが、手負いの魔物のに近づくのはリスクでしかない。
見れば神父の傷も深そうだ。シグは神父を教会の中に運ぶと傷の具合を見る。
正直絶望的だ。
と、そのとき、子供の1人が悲鳴をあげる。
その子の視線の先に、窓からのぞき込んでいる中型の鬼の魔物の姿が。
シグは剣を持つとその窓に向かって走り出す。
窓ガラスを割って、入ってこようとする鬼の首をカウンター気味にはね、割られたガラス窓から外に出ると同種と思われる鬼が2匹、シグを挟むように居た。
2匹の位置関係を瞬時に把握すると一方に切りかかる。
最初に斬った1匹をふくめ、全員素手。
向かっていった鬼が爪を振り下ろす前に姿勢を低くし、鬼の射程外から両足を斬る。
倒れる鬼を後ろに跳ねるようにしてかわしながらもう1匹の鬼に目をやる。
爪を振り上げ襲いかかる鬼。
振り向きざまに振り上げた腕ごと首を落とし、両足を斬られた這いつくばる鬼の頭を縦に切り裂く。
まだ村の喧騒は止まない。
少女に戸締まりをして外に出ないようにと言い、他の悲鳴の元へ向かおうとするシグ。そのシグに自分も一緒に戦うと、ついて行こうとする少女。
だがシグはそれを制する。
神父がもうもたないこと、子供達の側にいて守ってやるべきだいうこと、それを伝えるとシグは夜の喧騒に向かって走り出す。
当時、村では教会以外でも紅い果実のなる木が植えられていた。
村長や老人達はこれを良く思わなかったが、決して豊かではない村での小さな楽しみとして目をつぶっていた。
生った果実の香りだけではなく、野生の動物達によって種が運ばれ気づかぬうちに村を中心に紅い果実の果樹園ができあがってしまい、それがさらに小鬼を引き寄せてしまうのだ。
これを騒ぎのあった翌日にシグは説明し、村から紅い果実は消えることとなる。
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