吹き抜けを泳ぐ魚(未完)

立談百景

吹き抜けを泳ぐ魚

「お母さん、おさかな!」

 小さい頃、ショッピングモールの吹き抜けに魚を見た。

 赤白黒、金色、金色、赤白黒。それは個性豊かな錦鯉で、何匹も空を泳いでいた。

 不思議なことに、錦鯉は私が池を覗くのと同じように、背をこちらに向けて泳いでいる。

「あれは鏡池よ」とお母さんは言った。

 曰く、池や水辺というのは別の世界に通じており、別の世界の水辺が、あのように鏡のようにして見えるのだという。

「あれは誰かの瞳に映った、水辺の風景なのよ。だからあまり長く見ては駄目よ」

「どうして?」

と、あまりよくないことが起こるから」

「よくないことって?」

「目は、鏡なのよ鏡と鏡が合わさると、世界が悪いように繋がることがある。あるいは世界そのものが、おかしなことになってしまうかも知れないから」

「……分かった、気をつける」

「いい子ね」

 そう言うと母は私の頭を撫で、私はそれ以来、吹き抜けの魚を見ることはなかった。

 ——母が失踪したのは、それから数年後。私が中学二年生になった頃だった。


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(23.08.21 22:33記入)つづきます。

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吹き抜けを泳ぐ魚(未完) 立談百景 @Tachibanashi_100

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