第21話 開戦
青の国の城から飛び立った青いラブリオン群と、キングジョーから出撃した赤いラブリオン群。それらが空中で戦闘を開始する。
地上からその様子を見上げていれば、青い雲と赤い雲とが両側から凄い勢いで沸き立ってきて、真ん中でぶつかり合ったように映っただろう。
両軍の戦いが始まって四半時ほど経過。
現時点ではどちらが有利ともいえない。
エレノアの離反により致命的な危機を迎えはしたが、ミリアの統率力と巨大戦艦クィーンミリアにより息を吹き返した青の国。
クィーンミリアの出現に驚きはしたが、丈とエレノアのラブパワーにより戦意を取り戻した赤の国。
どちらも共に士気は十分。夏の夜の花火のように派手に美しくラブ光を散らして戦いを繰り広げる。
そしてその中心には、ほかよりも一段と激しく火花を散らして戦う二機のラブリオンの姿があった。
ブラオヴィントとドナー。両軍を代表する二人の戦士の戦い。
この二人の戦闘の行方は、均衡状態にあるこの戦いの大勢に大きな影響を与えるほどに重要であった。
「ジョー! 青の国を裏切るだけでなく、エレノア女王をもたぶらかすとは、許さんぞ!」
「何を言う! エレノアは自らの意志でオレの国に来たのだ。それはつまり、オレの正当性を示している!」
裂帛の気合いを込めた椎名の一撃を、丈のドナーは軽く受け流す。
「女王が見捨てた国に固執するお前の方が正義にもとると気づかないのか! お前もオレの国に来い! 女王のいない国では戦う意味はあるまい!」
「黙れ! 青の国にはミリアがいる! あいつは人を導く力を持っている! 俺はミリアを助けて国を正しい方向に持っていくだけだ!」
「……やはりミリアだったか。一つ障害を排除したと思ったら、また別の邪魔が現れる!」
丈は牽制のラブショットを放ってブラオヴィントを遠ざけると、間合いをとり、周囲の戦いの状況を見やる。
「青の国の兵達のラブパワーのまとまりよう……予想以上だな。エレノアが抜けたというのに、ここまで兵達の心を掴むとは……。ミリアの力がまさかここまでとはな」
丈は自分の読みの甘さを痛感する。
「戦いの最中に考えごとか!」
椎名と戦いながらも周囲を見る余裕のある丈に、ラブショットを放ちながらブラオヴィントが突っ込んで行く。
ドナーはラブ光の残像を残しながらその攻撃をよけて難なくやりすごした。
「なんて動きだ!」
ドナーのスピードに一瞬戸惑いが走るが、椎名の気持ちの切り替えは早かった。すぐに目の前の敵に集中し、飛翔の勢いを乗せた剣の一撃を仕掛ける。
だが、丈にはその動きははっきりと見えていた。
ドナーのラブブレードでその攻撃をなんなく受け止める──が、ブラオヴィントの一撃は丈の想定以上の重さがあった。
剣を受け止めた鍔迫り合いの状態のままドナーはブラオヴィントの勢いに押されて後ろに後退していく。
「シーナの力が上がっている! ブラオヴィントのパワーは俺のドナー以上か!?」
丈は椎名が以前よりも力をつけていることを実感する。
「これもミリアの影響なのか……だが!」
丈はまともに力を受け止めるのをやめ、力を受け流す手に出る。
ブラオヴィントの力の方向性を上方向に変えてやり、自らはドナーをブラオヴィントの下に潜り込ませた。
ブラオヴィントは力が有り余ってドナーの上を通過していくような格好になる。その瞬間、すかさずブラオヴィントのコックピットのある胸部をドナーが蹴り上げた。
自動車の衝突の衝撃体験マシンの数倍する震動がコックピットを襲う。気を失いそうになるほどの衝撃だが、椎名は意識を保った。それどころか、かっと見開かれた目は瞬きさえせずに、揺れるコックピットの中、ドナーの姿を凝視し続ける。
ドナーにより、上に蹴り上げられたブラオヴィント。椎名はその勢いに逆らうことなくマシンを上に流し、距離をとった。
そして十分な高さを得たところで急降下に移る。位置エネルギーを力に変え、先程よりも力のある攻撃をドナーに加えるつもりだった。
「行くぜ!」
空を突き刺す青い稲妻のごときブラオヴィントの一撃。
しかし、椎名の力を実感している丈はそれをまともに受ける気などさらさらなかった。
先と同じように剣でその鋭い攻撃の力の方向を変えて受け流す。
勢い余った椎名はそのままの勢いで下に落ちていく。速度を減速できずに。――いや、減速できないのではない。あえてしていないのだ。
降下の速度のまま地面まで行き、そこで足をつく。そして、反動をつけて上空へ再び飛び上がる。まるで打ち上げ花火のようにラブ光で軌跡を残しつつ。
受け流したと思って安心したところに、今度は下から猛スピードで沸き上がってくる青い火の玉。
さすがの丈もその気迫に一瞬気圧される。
それがスキとなり、受け流すことができずに椎名の力ある攻撃をまともに剣で受けることとなった。
ブラオヴィントの剣を受けたままの格好で、上空へと突き上げられて行くドナー。
「シーナ、それだけの力があるのに、何故人に付き従うことしかしない! オレとお前が力を合わせれば、この世界をオレ達のものにすることだってできるんだぞ!」
「そんな手前勝手なことが許せるか!」
「では、自分達の都合でオレ達をこんな世界に呼び込んだ奴らの勝手はどうする!?」
「それは……」
「奴らの勝手に従い、被害者であるオレの行動だけ何故そうも否定する!?」
丈の言葉で、ブラオヴィントのラブパワーに乱れが生じた。
丈はそれを見逃さず、ブラオヴィントの突き上げから脱出し、再度間合いをはかる。
椎名の攻撃は鬼気迫るものがあった。だが、それに対する丈の方は何故か積極的に攻撃を仕掛けようとはせず、守りに専念している。防戦一方──というわけではない。ヒヤリとする場面が全くないわけではないが、椎名の執拗な攻撃の大部分は軽く受け流している。攻撃を仕掛けている椎名には、丈に軽くあしらわれているように感じられるほどだ。
だが、当の本人達はそうでも、周りにいる者の目にもそのように映るとは限らない。丈が椎名の猛攻に押されているように見えてしまっても不思議ではなかった。特に、丈に対して普通でない感情を抱いている者には。
「ジョー様!」
二人の戦いを見かねた一機のラブリオンがドナーとブラオヴィントの間に飛び込んできた。
間に割って入って、ブラオヴィントのピンクに光り輝くラブブレードを受け止めるのは、それに劣らぬ輝きを放つラブブレード──それは今まで以上のラブパワーの顕現を見せるルフィーニのものだった。
「ここは私にお任せを!」
パワーでは丈の舌をも巻かせるブラオヴィントを相手にして、ルフィーニは剣と剣がぶつかり合った状態を維持するだけでなく、そのまま押し下がらせて行く。ドナーから遠ざけようとするその一念が、信じられない力を生んでいた。
今の椎名は普通の者では抑えられない程の力を持っている。いつものルフィーニだったならば、丈も下がらせていただろう。だが、今のルフィーニからはかつてないほどのラブリオンのほとばしりが感じられた。ブラオヴィントを倒せないまでも、抑えることくらいは十分に可能だと思えるほどに。
「わかった。オレは軍の指揮を執る。シーナのことは任せるぞ」
「はい!」
任せるというその言葉が、ルフィーニにはひどく嬉しかった。自分は信頼されているのだと確認できる。必要とされているのだと実感できる。それだけのことが、ルフィーニをほかの何よりも幸せな気持ちにしてくれる。
そしてその気持ちの動きは、ルフィーニに良き影響を与えた。感情の高まりは、ラブパワーの増大につながり、ラブパワーの増大はラブリオンをパワーアップさせる。
「シーナ! ジョー様のために落とさせてもらう!」
「ルフィーニさん、まだそんなことを言うのか!」
椎名はラブ光を噴射させ、ブラオヴィントの後退を止める。ルフィーニの力ある押しを真っ向から受け止めたのだ。力と力のぶつかり合い。ピンクに輝くラブブレード同士が中央で異様に明るい光を発光させつつ
「ジョー、ジョーって、そんなにジョーの奴がいいのかよ!!」
「貴様にはジョー様のよさはわからんのだ!」
「俺とジョーとの間にそんなに差があるのか! 俺はジョーに比べてそんなにも劣るのかよ!!」
椎名の心の底から湧き出る想い。それが言葉となって出た。
男らしくあれと思っている椎名自身、こういう女々しい言葉を吐くことをひどく嫌っている。普段なら間違っても、口にすることのない言葉。だが、丈を想う心を並々ならぬパワーに変えて向かってくるルフィーニのそのラブパワーに触発され、口ではなく、椎名の心そのものが叫びを上げてしまった。
まさか自分の口から出るとは思わなかった言葉。それに椎名は戸惑う。
だが、戸惑いはルフィーニも同じだった。椎名の叫びにルフィーニは応えられなかった。椎名に気を遣ったからではない。彼女自身、椎名と丈への自分の想いを自覚していなかったからだ。
ルフィーニは、丈に対して、何故だかわからないが無性に惹かれる感覚を持っていた。側にいるだけで心が満たされた気持ちになる。その感じを求めて、ルフィーニはここまで丈に付いてきた。つまり、自分が丈に対して恋愛感情を持っていることを自覚して、ここまできたのではない。彼女は自分の気持ちが恋愛感情であるということを認識しないままにここまで来たのだ。そんなルフィーニが、椎名に比べて丈のどこがどのように優れていて、どうして丈のそんなところに惚れたのかなどということがわかろうはずがない。
「わ、私は別にお前がジョー様に劣っているなどと言った覚えはない!」
それは苦し紛れの言葉に聞こえた。
「ではなぜ今俺とあんたはこうして戦っている!? 何故ジョーが様づけで呼ばれて、俺がお前よばわりされる!?」
「それは……。それは、今は関係のないことだ!」
迷いの迷宮に立ち入りそうになった。だが、ルフィーニは開き直ってそれらをすべて頭から消し去った。
「今はお前を倒させてもらう! ジョー様のために!」
ルフィーニの心に残ったのは丈のために戦うという想いだけ。
ここまで開き直られては、もはや椎名がどのような言葉をかけても、ルフィーニは聞く耳を持ち合わせてはいない。
二人の、無言だが、打ち合う剣の火花の一つ一つから叫びが聞こえてきそうな程の熱く激しい戦いが繰り広げられる。
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