第58話 真実の激白 ②
「あんな方法、守ったって言えるほど誇れるようなものではないけどな。ただ朝倉さんから夏休みに友達と遊びに行って、友達がトイレに行っている間にナンパされたって聞いてたから、もしかしたらあの映画の日かもしれないと思って同行させてもらったけど当たりだったよ」
「もしあの日に莉奈がナンパされてたら苛めが起きてたってこと?」
「うん。まぁ簡単に言うと振られた腹いせだよ。清風高校の生徒を利用した朝倉さんへの苛めを仕掛けて孤立を狙ってね。それで朝倉さんは転校することになったんだけど、転校した学校にナンパしてきた男達が居たらしいんだ。そこからまた苛めの日々が続いてたらしい」
「…………」
「んで、精神的に追い込まれた朝倉さんが死のうとしてた日に俺と朝倉さんは出会ったんだ。俺の地元の河川敷で。その時の俺も精神的に病んでて女嫌いになってたんだけど、朝倉さんに出会って救われた」
再び俺の脳にあの頃の記憶が蘇ってくる。
「色々と関わっていく内に気付いたら俺は朝倉さんのことが好きになっててさ。でもある時二人でいる所をその男達に見つかって、俺に危険が及ばないようにって朝倉さんからもう会わないようにしようって言われてな」
当時の事を思い出してしまったせいか、悔しさと悲しみが襲ってきた。涙が込み上げてくるのを必死に我慢する。
「ただ、一日だけ会って欲しい日があるって言われて、クリスマスイブに朝倉さんと会ったんだ。それで、朝倉さんからクリスマスプレゼントとバレンタインのチョコを貰って……」
あ、駄目だ。泣いちゃう。涙を押さえようとしても決壊したダムの如く、俺の意思に反してボロボロと涙が溢れてくる。でも仕方ないのだ、この思い出だけは決して色褪せることはない俺の大切な思い出なのだから。
先程から中村さんは無言のまま俺の話を聞いてくれているが一体どんな心境なのだろう。普通の人の反応ならこんな話を聞かされても、なんか痛い奴が痛い妄想の話をして涙を流していると精神面を心配される状況である。
「それで俺も我慢できなくなって……朝倉さんに太一と三人で遠くに逃げようって伝えてから朝倉さんに告白……したんだ。俺と朝倉さんは晴れて恋人同士になったんだけど……次の日のニュースで朝倉さんが……殺されたのを知った。だから今回は必ず朝倉さんを守ると決めた」
「…………」
俺は涙を拭うと中村さんの方を見た。
「これが今の俺の状況説明なんだけど――」
「…………ぐすっ」
すると中村さんは鼻に手を当てて、鼻を啜りながら泣いていた。先程までの俺と同じようにボロボロと涙を流していた。
「えっ! 中村さん! ちょっと、え」
「楠川も莉奈も辛い目に遭ってたのね……それで楠川は莉奈を守る為に……あんた良い奴じゃない」
「……俺の話信じてくれるのか?」
「普通なら信じろっていう方が無理な内容の話だったわ。でも自分で作った話じゃなくて、実際に経験したからあんたもさっき泣いてたんでしょ? それに今の話を聞いて色々と合点がいった部分もあるわ。楠川があたしたちの学校に急に来たことも、莉奈の事を最初から好きだったことも、映画の日の行動も……何よりサメに噛まれたはずの楠川が無傷だってことも。その話を聞いたら納得せざるを得ないじゃない」
中村さんが俺の方を向いてきて視線が合う。
「そういえばさっき助けてくれたお礼、ちゃんと言ってなかったわね。ありがと、助けてくれて。それと映画の日のこと、楠川はあたしたちに申し訳ないことをしたって言ったけど、謝らないといけないのはあたしの方だわ。あんたのこと叩いちゃったものね」
「別に中村さんが謝る必要はないよ。俺にそんな事情があるなんて分かるはずないんだから」
「それはそうだけど、あたし勘違いしてたの。コンビニから莉奈と一緒に戻ってみればあんた居なくなってたじゃない? それで次の日、あんた顔に絆創膏つけてたでしょ? それをあたしは先に帰った挙句に、絆創膏は叩いたあたしへの当てつけだと思って一人で腹を立ててた。バイトではあんたを避けてたし……ほんとごめん。今の話を聞いて分かったんだけど、顔の傷は男達にやられたんでしょ?」
「まぁな……ボコボコにされたよ。おかげで自分の弱さを痛感した」
「サメに噛まれても平気なのにおかしな身体ね」
「それな。死に繋がるダメージに対しては不死の力が働いて痛み無しの無敵状態なんだが、半端なダメージは普通に通るからな」
さっきも咄嗟に右腕を丸ごと噛ませたからまぁ力が働いてくれたが、中途半端に噛まれていたら傷跡が残るダメージを受け、痛みにもがき苦しんでいただろう。
「顔の傷まだ少し残ってるわね。その不死の力というのが働いたら古い傷も治るってわけじゃないのね」
中村さんが俺の右のこめかみにそっと手を添えてきた。突然のことに俺の心臓が凄い勢いで跳ねる。
下方に視線を落とせば水着の谷間に目がいってしまうほどの距離。近い近い! 勘弁してくれ! こういうのに耐えるのはけっこうしんどいんだって! 前の朝倉さんの胸が腕に当たった時はそれはそれは大変だった。高校生にもなれば男なんて立派な狼見習いなのだ。これでもし中村さんの胸をじっと見てしまおうものなら、せっかく修復した仲が台無しになってしまう。だがつい目がいってしまう。なんだろう……バイトの時もそうだったが俺は中村さんの胸にご縁があるのか?
「ごめん、ちょっと目のやり場に困るんだけど」
耐えかねて俺は視線を顔ごと逸らした。そのリアクションだけでも女の子からすれば男がどこを見ていたかなんて一目瞭然だろう。聞いた話では女の子は男子からの視線には敏感らしい。バレてないだろうと自然を装ったチラ見でも意外と気づいているそうだ。なら堂々と見てしまえば良いのだろうが、それを許されるのはイケメンだけだ。ただしイケメンに限るというのが世の常である。よって俺は目を逸らすのだ。
あーまた変態だと思われてしまうんだろうなぁ。
「あ、ごめん」
しかし俺の予想を裏切るかのように、中村さんは自分の胸を腕で隠すようにして俺との距離を開けた。あれ? 思ってた反応と違うぞ? てっきり「なに? あたしの胸見てたの? 見直したと思ったのにやっぱりあんたって変態だわ」などと言われるかと思っていたのだが。
「ねぇ、一つ確認したいことがあるんだけど良い?」
「なに?」
「莉奈が苛められて転校したって言ったわよね? その時あたしたちは何をしてたのか知らない? 莉奈から何も聞いてない?」
「前の時は朝倉さんから中村さん達の話は聞いてないな。だから会ってもいないし」
「……そう」
「ただ、名前は出さなかったけど朝倉さんは最後まで私と仲良くしてくれようとした友達がいたって言ってた。それが一人なのか複数人なのかはわからないけど、俺はその友達は中村さん達のことだと思ってる。それで朝倉さんは俺の時と同じように中村さん達にも危険が及ばないように転校っていう選択をしたんだと思うよ。詳しいことは知らないけどさ」
「でも、その時のあたしたちも莉奈を守れなかったってことよね? あたしは何をしてたのかしら……」
拳を握り悔しさを露わにする中村さん。
「楠川、あたしも莉奈を守るのに協力するわ。今回あんたが阻止してくれてとりあえずは安心なのかもしれないけど、いつ何があるかわからないもの」
「あぁ助かるよ。事情を理解してくれている人が一人でもいるのは心強い。誰にも相談できなかったのはけっこう辛かったしな」
「もし困ったことがあったらあたしを頼りなさい。あたしにできることなら何でもするわ」
「わかった。じゃあ俺と朝倉さんが付き合えるようにサポートも頼む」
「それは自分で頑張りなさいよね」
俺と中村さんはがしっと握手を交わした。ループ九回目にして初めての理解者ができた。
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