第41話 中村和美被害者の会
事の発端は一つのメッセージから始まった。
『楠っち! 聞いてくれよ! 今日、中村の奴がまた俺の尻を蹴ってきたんだぜ。もう何度目かわからねぇよ。このままじゃ俺の尻の膨らみが無くなるんじゃないかと心配なんだよ』
尻の緊急事態を危惧してきたのは、大塚菜月くんだ。
あの誕生日会の日に集まったみんなで連絡先の交換を行っていたのだが、その記念すべき最初のやり取りが尻の話からスタートとは……。
「なっきーの尻が大変なんだとさ」
「みたいだな。なんて反応したらいいんだよこれ」
昼食を一緒に食べていた太一の携帯にも同じ内容のメッセージが届いたみたいで、携帯を見ながら黙々とお弁当を食べる。
文章だけだと菜月くんが被害者のように思えるが、きっと菜月くんが何かを言った後に蹴られているのだろうから、内容次第では自業自得だと思う。
『とりあえず何があったか教えてくれるか?』
『朝倉が今度、中村んとこの子供に会いに行くっていう話を聞いて、俺も中村の家に行きたいって言ったら蹴られた』
それは蹴られても仕方ない。菜月くんは誕生日会の時の一件があるから、中村さんからしたらお姉さんに寄ってくる虫を排除するぐらいの感じなのだろう。というかその話が本当なら俺も行きたいんだけど。
『中村はすぐ蹴ってくるから、もう少し女の子らしくした方がいいと俺は思うんだよな。正直、可愛げがあるのか疑わしいレベルだ』
『確かに中村さんは女の子らしいというよりは男勝りって感じだよな』
朝倉さんと比較したら余計にそう思う。朝倉さんは見た目も性格も完全な女の子であるが、中村さんは見た目は女の子だが、性格はまるで男兄弟の中で育ったみたいな性格だ。
『つうわけで、中村に女の子らしい部分があるか検証してやろうぜ。今日の放課後、部活が終わったら宮っちとそっち方向に行くからさ。どっかファミレスにでも集合して作戦会議でもしようぜ』
『面白そうだな。わかった、太一にも伝えとくよ』
『よろしくな』
菜月くんとのメッセージのやり取りを終え、事情を太一に説明した。
放課後、俺と太一は一足先に待ち合わせ場所のファミレスに到着した。俺たちが到着してから四十分後に菜月くんたちも合流してきた。
「お疲れ楠っち、古賀っち。待たせたな」
「二人とも久しぶりだね。誕生日会以来かな」
「菜月くんと浩一くんも部活お疲れ」
「俺はもう腹減ったぜ。ドリンクバーと何か適当に頼もうぜ」
菜月くんと浩一くんが席の方にやってきて挨拶を交わす。
ドリンクバーと大盛りポテト二人前とピザを二人前注文し、各自で飲み物を取ってきてから席に座った。
「さて、早速本題に入るとしようか。中村の女の子らしさ検証作戦を立てていこう」
「なぁ菜月くん、その前に聞いておきたいんだけど、ここにいる全員は中村さんに蹴られたことあるのか?」
「俺は誕生日会で一回蹴られたな。風船を和美ちゃんの顔に飛ばしちまって」
「俺なんかもう何回蹴られたかわかんねぇよ。数える方が大変だ」
「俺は多分二回だと思う。蹴るというよりは踵落としだけど」
二回の内一回は俺から仕掛けたのでまぁ仕方ないけど。さて問題は浩一くんである。さすがに浩一くんは蹴られたことないんじゃないかと思う。というか中村さんが浩一くんを蹴るイメージが湧かないし、逆に浩一くんが中村さんから蹴られるイメージが湧かない。
「僕は一回だけかな」
「えっ! 浩一くんも中村さんに蹴られたことあるの? 意外なんだけど」
「あれはまぁ僕が悪いんだけどね。中学の時に風邪で学校を休んで、りーちゃんと和ちゃんが家に来てくれたんだけど」
なんだよその羨まけしからんシチュエーションは。なんか一人だけステージが違うんだけど。
「丁度僕が汗を流そうとお風呂に入っててね。パンイチで浴室から出た時に二人とバッタリ遭っちゃって、その時に和ちゃんに一発貰ったんだよ。なんて格好してんのよってね」
もう幼馴染だから自由に家の出入りする関係ってわけですかい。そんなイベントが発生するなら、いくらでも蹴られていいわ。
「それ、みやっしーの裸を見て和美ちゃんが照れたんじゃねぇのか?」
「どうだろう? そんな感じには見えなかったけどね。いきなり攻撃されたから表情がよく見えなかったし」
「とにかくこれで分かったと思うが、中村には女の子らしさが足らないんだよ。宮っちの裸を見た時に顔を赤らめて、顔を隠しながらツンデレ風に言うならまだ可愛げがあるが、先に足が出るんだからな」
「浩一くん、ちなみに朝倉さんはどんな反応してたんだ?」
「りーちゃんは両手で顔を覆ってたかな」
うん、完璧だ。さすが朝倉さんだ。というか浩一くんめ、ハンカチを咥えてきぃぃいいいーってしたくなるほど妬ましい。そのポジション代わってくれないかな。
「じゃあ中村に照れがあるのか検証だな」
「でも中村さんって男が嫌いらしいから、そう簡単に照れを見せないんじゃない?」
「くっすーは今和美ちゃんとラブホで清掃のバイトしてるんだろ? 丁度いいじゃねぇか」
「何で場所まで知ってるんだ太一」
「あれから莉奈ちゃんに聞いたんだよ。くっすーのバイト先に遊びに行きたいから場所を教えてくれって言ってな。っつうわけだ、やるよなくっすー? クラスの男連中に広められたくないだろ?」
太一がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。バイトの事教えなかったのを根に持ってやがるな。
「楠っち、検証にうってつけの場所じゃねぇか。俺たちを代表して頼むわ」
「いやいやいや、俺に何をさせる気だよ。変な事したら蹴りじゃ済まないだろ」
「大丈夫だ。もう場所がラブホってだけで条件は半分クリアされたようなもんだからな。あとは楠っちがちょっとしたハプニングを起こせばいい」
「例えば?」
「修くんがシーツかローションに足を滑らせて和ちゃんを押し倒しちゃうとか?」
絶対蹴られるな。
「くっすーがふざけて大人の玩具で遊ぶとかはどうだ?」
間違いなく蹴り飛ばされるな。
「楠っちが掃除中に誤ってテレビのリモコンに当たって、エロい映像を流してしまうとかは?」
もう確実に蹴り殺されるな。死なないけど蹴りのフルコースを頂く羽目になるかもしれない。というか三人とも詳し過ぎじゃない!? 興味を持ってもおかしくはない年頃だろうけど。
そもそもそんな役回り嫌なんだけど。俺には朝倉さんという大切な人がいるんだ。遊び半分でも別の女の子にそういうことをするのは嫌だ。
「俺が直接仕掛ける作戦は辞めようよ。もっと安全な策はないのか?」
「安全ねぇ~ちなみに楠っち、掃除ってのは中村と二人で回るのか?」
「いや、三人で回るよ。だから他の人もいるからあまり変なことはしたくないな」
「じゃあ掃除中にやるのは無しで、楠っちが掃除前に先に仕掛けておくってことはできねぇのか? 例えば全掃除部屋に入った時、既にテレビが付いているとか。んで楠っちが後から入って中村の反応を見るとか」
「まぁできなくはないけど」
剥ぎの時に予め全掃除部屋のテレビを点けておけば可能ではある。掃除が終わって次の掃除部屋に行く時も、大抵中村さんが先に入るから中村さんが第一発見者になるのは必然。
「途中で修くんが上着を脱いでみたりしてもいいんじゃないかな? 汗かいたとか言って。そしたら僕と条件は近くなるよね」
「おぉそれいいな。よし、くっすーそれでいこうぜ」
「言いたいこと言ってくれるな。みんな他人事だと思って楽しんでるだろ」
「失敗しても蹴られるのはくっすーだからな」
「俺にリスクしかないじゃないか。せめてやる代わりに俺に何か報酬でもくれよ。じゃないと割に合わない」
タダ働きなんてまっぴらゴメンである。
「このお店の料金は俺たち三人で持つから楠っちは好きな物を頼んでくれていい」
「交渉成立だ」
明日のバイト、もとい中村さん照れさせ作戦に備え十分な栄養を補給した。
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