第31話 誕生日会 ③
突如、始まった男女交えての恋愛話。必ずしもそうであるとは言い切れないが、俺のイメージではこういう話は男子は男子、女子は女子だけで集まった時にするような話ではなかろうか。同じクラスや同じ学校に好きな人がいる場合、やはり同じ学校出身の人には聞かれたくないものである。いくつになっても人の色恋の話は話題の恰好の的になりやすい。大袈裟に言って秒で広まると言っても過言ではない。社会人の時、同じ職場の好きだった人に告白し振られた次の日に、職場の全員がそのことを知っていた時は恐怖すら覚えたものだ。
この場にいるみんながそういった話を簡単に言いふらすような人達ではないとは思うけれども、異性が居ては本音とは違うことを発言してしまう可能性もあるわけで。仮にもしこの場に自分の想い人がいる場合は尚更だ。
それに全員が全員、今好きな人はいないと答えたらこの話題は一瞬で終わるだろう。
「なっきー、その話題を持ってきたってことは、なっきー自身は好きな人がいるのか? さすがに話題を提供だけして俺には好きな人はいませんなんて面白くない答えはしないよな?」
「ふっ……古賀っち、見くびってもらっては困るな。言いだしっぺなんだ……もちろん好きな人はいるさ」
太一の言葉に決然とした態度で答える菜月くん。へぇ~菜月くん好きな人がいるのか……朝倉さんじゃないよね?
「ふーん、えらくハッキリ言うわね。もしかしてウチの学校じゃないってこと?」
「だれだれ? 気になるぅ~」
「大塚君も隅に置けないね」
女の子三人も意外と食いついてきた。やはりこの手の話は好きなのか。
「学生じゃないんだな~これが。俺は年上のお姉さんが好きなんだが、この前すっげぇ美人な女性を見かけてさ。一目惚れってやつだ」
「菜月、それってこの前僕と話してる時に話題に出してきたやつの人? あれマジだったん?」
「当たり前だろ、俺は真剣だよ。宮っちだって写真を見た時に美人だって思っただろ?」
「あー……まぁね」
「菜月くん、写真あるのか? ちょっと見てみたいな」
「ほらこの人だよ。ピンポイントで狙って盗撮って思われたらいけないから風景を撮る感じに写したんだけど、ちょうど真ん中にいるだろ?」
菜月くんの携帯に写ってる写真は街中を撮影した写真だったが、確かに真ん中に女性が写っている。あれ? この人……。
「うわっ、すげー美人じゃねぇか。なっきーよく見つけたな」
「だろ? ほら女子も見てくれ」
女の子三人にも写真を見せる菜月くん。
「ちょっと! これ、あたしのお姉ちゃんじゃない!」
「ホントだ、和美のお姉さんだ」
「かずみんのお姉さん美人だねぇ~」
「えっ!? この人中村の姉ちゃんだったの!? まさか宮っち気づいてたんじゃないだろうな?」
「ごめんごめん。知らないふりしてたらその内どうなるのかなぁって思ってさ」
「マジかよ! 教えてくれよ宮っち~」
「大塚、あたしのお姉ちゃん好きになるとかいい度胸してるわね」
中村さんの言葉に驚きを隠せない菜月くん。中村さんは指の骨をポキポキと鳴らしていた。
「まぁでも好きになったもんは仕方ない。中村、今の内に俺をお父さんと呼んどけ」
「はぁ? 呼ぶわけないでしょ? 蹴り飛ばすわよ」
「なっきー頑張れ。俺は応援してるぞ」
「まぁまぁ和ちゃん、菜月は良い奴だからさ。きっとお姉さんを大事にするよ」
「ん~俺はどっちの味方をしようか……」
中村さんは男は嫌いって言ってたし、家族のことになるとシビアっぽいしな。お姉さんもシングルマザーって言ってたから何か色々事情がありそうだし。菜月くんには悪いけど分が悪いだろうなぁ。
「あんたら四人、もいで捨ててやるわ」
えー!? 俺何も言ってないのにカウントされてる!?
「そういえば大塚君、私のお母さんのことも美人って言ってなかったっけ?」
「あ、えーっと……それは……」
「うーわ……あんた最低。美人な年上の女性なら誰でもいいってことね」
「大塚くんは見境ない女の敵だぁ~。そしてLOVEじゃなくてlikeの方の好きだったねぇ~」
「くそぉー! 中村と朝倉の身内が美人過ぎるんだよぉー! あの色気が俺を惑わすんだ……」
菜月くんの恋愛話、終了。なるほど、朝倉さんのお母さんが居ないのを残念がってたのはそういうことだったのか。つか、その美人二人の遺伝子を受け継いでいる朝倉さんと中村さんには見向きもしていなさそうなのがある意味凄い。
「先に言っておくけど、あたしは好きな人なんていないからね」
「あ、私も今はいないかな」
「友華もいないよぉ~」
女の子の恋愛話、瞬殺。まぁ朝倉さんと中村さんに関しては予想通りではある。河内さんも素材は良いので彼氏が普通にできそうではあるけど、今はいないようだ。
「じゃあ次は俺か? 俺も今はいないが好意を向けられたら簡単に好きになっちまうな。常に彼女は募集中だ」
太一、それだと俺はチョロイ奴ですって公言してるようなものだぞ。
「古賀君は身長あるしモテそうだけどね」
「今まで彼女が居たことはないのぉ~?」
「ねぇな」
「じゃあもし今、あたしたちが古賀に好意を向けたらどうするの?」
「えっ! ついに俺にモテ期が来たのか!」
「いや、仮の話だから」
「そりゃあ三人とも大事にするぜ!」
「にゃははは、失格」
太一の恋愛話、失格。中村さんは太一にジト目を向け、朝倉さんはクスクスと笑っていた。菜月くんの話の流れで学習しろよ……軽い男と思われるぞ。
そして残ったのは俺と浩一くんだ。俺としては浩一くんが何と答えるのかが非常に気になるところだ。いないと答えるのか、それともいると答えるのか。まぁどちらの返答がきても本心なのかどうかはわからないが。真意はどうであれ、正直なところ浩一くんに勝てる要素が見当たらないのだ。二人がリビングに入ってきた瞬間、普通にお似合いのカップルだと思ってしまった。気持ちで負けてしまっている。
だが、だからといってここで、好きな人はいないと自分の気持ちに嘘をつくようなことはしたくなかった。
「俺はいるよ、好きな人」
俺の言葉に中村さんが視線を送ってきた。何を言うつもり? そんな目をしていた。
「修くんもいるんだぁ。実は僕もいるんだよ」
俺の後に続いて浩一くんも返答してきた。
「こーくんも楠川君も好きな人がいるんだね。恋愛かぁ~してる人はしてるんだなぁ」
「莉奈もやろうと思えばできるじゃない。莉奈がOKさえすれば」
「ん~なんかまだそういう気持ちが分からないんだよね」
「ははっ、僕の好きな人もりーちゃんみたいに鈍感なんだ。全く困ったもんだよ。全然気づいてくれないんだから」
朝倉さんみたいに? ということは朝倉さんではないのか。いやあえて変化球できている可能性も考えられる。一体どっちなんだ?
「修くんの好きな人はどんな子なんだい?」
浩一くんが問いかけてきた。
「俺の好きな人は…………凄い優しかった」
朝倉さんとの思い出は今でも鮮明に思い出せる。出会いから楽しかった日々の数々。俺はその出来事を振り返りながら語り始めた。
「最初は嫌いだったんだけど、それでもその人は俺に優しくしてくれて、俺の冷めた心を溶かしてくれたんだ。気づいたらいつの間にか好きになっててさ。何気に積極的な女の子で、それで――」
「ん? 修くん、それは彼女の話なの?」
「……えっ?」
しまった! どんな子かと問われて、つい前の朝倉さんの話を出してしまった!
「あーいや、あ! そ、そういう夢をみたんだ」
「夢? じゃあ好きな人って夢の中の人ってこと?」
「おいおいくっすー、夢オチかよ」
「さっきの、楠っちの「俺はいるよ、好きな人(キリッ)」は何だったんだよ?」
「えっと、そうじゃなくて……えーつまり……正夢? じゃなくて……えーっと」
「楠川、夢と現実が混合してるとか……」
中村さんが憐れむような目を向けていた。
「楠川君、元気出して。その夢が現実になったらいいね」
朝倉さんが優しい笑顔で俺に微笑んでくれる。
違うんだ朝倉さん! これはあなたとの思い出なんだ! 俺の好きな人はあなたなんだよ! その笑顔嬉しいけど、今は逆にその笑顔が辛い。
「楠川くん、ドンマイだよぉ~。次は本当の恋愛の話に期待するぜ」
グッと親指を立てる河内さん。
俺の恋愛話、失敗。
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