第30話 誕生日会 ②



「なぁ~楠っち、こういう風船見るとさ身体に大量に付けたら空飛べるんじゃね? って思ったことないか?」


「あるある。つか飛んでみたいよな」


「そんなの気球に乗ればいいじゃない」


「はぁ~……中村は夢がないなぁ。お前はあれか、パンがなければケーキを食べればいいじゃないの人か?」


「それは意味合いが違うでしょ。てゆうかあんたのその顔腹立つわね」


 中村さんの言葉に溜息を吐きつつ小馬鹿にしたような表情をする菜月くん。


「中村にロマン検定をしてやるか。古賀っちと河内、ちょっと来てくれ」


「どうした?」


「なになに?」


 菜月くんの言葉に飾り付けをしていた太一と河内さんが集まってきた。


「古賀っちは俺を肩車してくれ。で、その後両腕を上向きに九十度曲げて、その腕に楠っちと河内はぶら下がってほしい」


 一体、何が始まるのかとポカーンとしている中村さんを余所に、菜月くんの指示通り太一が菜月くんを肩車する。そして太一が腕を曲げたところで、俺は菜月くんの意図を理解し太一の腕に左右から俺と河内さんがぶら下がった。バランスを崩さないあたり、さすが太一だ。


「中村、これは何だと思う?」


「えっ? 何って……肩車してる人にぶら下がってるだけでしょ?」


「「「「はぁ……」」」」


 ナイスなタイミングで四人が溜息をついた。


「「「これは合体だろ!!!」」」


「かっけーっす」


 俺と太一と菜月くんは目をくわっと見開き見事にハモった。河内さんは腕を掴んだまま親指をグッと立ていいねをしていた。


「ちなみに楠っちがドリルアームで河内がビームサーベル。古賀っちの身体がフルメタル装甲で俺の両足がレーザーキャノンだ」


「知らないわよ。物凄くどうでもいいわ」


 菜月くん、俺には分かるぞ。男のロマンだよな。挙げればキリがないけども、合体や変形をする武装ロボット、最強無敵のチート能力者、自分だけの秘密の基地と組織等々。


「いやぁ~古賀くんは力持ちだねぇ~友華重くない?」


「友華ちゃんぐらいの重さなら全然余裕だな。筋トレ始めたばかりだからまだ全然駄目だが、目標は腹筋六LDKだ」


「イエ~目指せゴリゴリゴリマッチョ~」


「古賀っちの身長でマッチョとかヤバそうだな」


「中村さんの蹴りでもビクともしないかもな」


「古賀、あんたマッチョになったら教えなさい。あたしと勝負よ」


 会場の飾り付けは、なんやかんやありながらも滞りなく進んだ。天井から逆アーチを描くように三角旗のカラフルなガーランドを付け、壁にも三角旗のガーランド、花や星、ハートのデザインのウォールステッカーにハッピーバースデーとアルファベット表記の金色バルーンを付けた。さらに天井や床の周囲に紐のついた風船を配置し立体感を出した。


 一部の壁だけ何やら黒い木の枝と鳥にキラキラとした魚のウォールステッカーが貼ってある。確か河内さんが遊び心に火がついた子供のように、むふぅーというご満悦な表情をしながら貼っていた気がするな。菜月くんと装飾品の買い出しをしている時に発見して、河内さんの琴線に触れたのだろうか。それにしても組み合わせの世界観よ。


「みんなのプレゼントはここにまとめて置いておくわよ」


 中村さんが壁の隅の一カ所にプレゼントを固める。


 飾り付け良し、プレゼント良し、ピザの回収も終わっているので料理も良し、これで会場の準備は完璧だ。朝倉さんが、主役を迎えに行ってからそこそこ時間が経っているので、もうそろそろ戻ってくる頃だろうか。


「もしもし莉奈? こっちの準備はできたけど、そっちは今どこにいるの? あ、もう着く? 了解、じゃあ着いたらそのまま入ってきてね」


 中村さんが朝倉さんに電話で確認したようで、もう着くみたいだ。


 さて幼馴染か……一体どんな人なのか……。めちゃくちゃ緊張してきた。


 しばらくして玄関のドアが開く音が聞こえ、廊下を歩く二人分の足音が響く。そしてリビングのドアが開かれ、朝倉さんと幼馴染の人が入ってきた。


「わぁ~凄い飾り付け。みんな頑張ったね」


「うわっ凄っ」


 イケメンが現れた。目元にかかる程の長さの前髪にパーマをあてた髪型。肌の色も女の子に負けないくらいの白さで、というか女装しようものならとんでもなく可愛い男の娘が誕生してもおかしくないレベルの美形。背は俺と同じくらいだろう。朝倉さんの横に並んでるだけで、美男美女のカップルだと思ってしまう。


 あーあーあーあー、やったなこれ。神様はやっちまったなぁ。神社のお賽銭が毎回五円の俺に対する嫌がらせか? わざわざ二人が幼馴染になるような配置にしなくたっていいじゃないか。モブにもチャンスを与えようよ。もう俺のライフはあと一しか残っていないよ。


「ねぇりーちゃん、あの二人がさっき言ってた人たち?」


「そうだよ。最近知り合った友達の楠川君と古賀君」


 りーちゃん!? りーちゃん!?!? あーそうですか、俺はずっと苗字にさんづけなのに……りーちゃん!? 太一のちゃんづけよりも特別感がある。これが幼馴染の特権か。


「初めまして。僕は宮下みやした浩一こういちです。太一くんと修くんだね。今日は僕の為に来てくれてありがとう。凄く嬉しいよ」


 なんて柔和な笑顔! もう反則だよ! 俺の心は嫉妬で黒ずんできてるのに……。浩一くんがホワイトパールなら俺はひび割れたブラックパールだよ! ライフはオーバーキルされてしまった。誰か輸血を……俺に輸血をして下さい……ちなみにA型です。


「ささっ、こーくんは主役だから座って座って」


 こーくん!? こーくん!?!? もう……血液が足りません……。朝倉さんは浩一君をこーくんと呼び、浩一くんは朝倉さんをりーちゃんと呼ぶ。俺は朝倉さんに一度だけくっすーと呼ばれた(厳密に言えば二回だが)ことがあるが、もっと呼んでもらっておけば良かった……。そして録音しておけば良かった……あ、そういえば録音しても消えるのか。


 朝倉さんが浩一くんを席に案内すると同時に、みんなもテーブルの前に座って行く。浩一くんの座った場所を十二時とし、そこから時計回りに菜月くん、太一、俺、河内さん、中村さん、朝倉さんという感じに座った。


 各々のグラスに飲み物を注ぎ、片手に持つ。


「んじゃあ、宮っちの誕生日を祝してかんぱーい!」


「「「「「「かんぱーい!」」」」」」


 菜月くんの音頭で誕生日会が始まった。



「莉奈ちゃんどれもめちゃくちゃ美味いぜ」


「ありがとう、どんどん食べてね。こーくんもしっかり食べないと古賀君みたいに大きくなれないよ」


「僕は今から伸びるんだよ、多分。太一くんの身長が羨ましいな」


「かずみん、巻き寿司取ってぇ~あとナゲットも」


「はいはい。お皿貸して」


「楠っち、お茶取ってくれ」


「あ、入れてあげるよ」


 朝倉さんと朝倉さんのお母さんの手料理に舌鼓を打つ。どれも素晴らしく美味しい。手作りクッキーとバレンタインチョコを思い出すなぁ。あれもめちゃくちゃ美味しかったっけ。


「宮っち十六歳かぁ。この中では一番先に歳を取ったのか? 楠っちと古賀っちは誕生日はいつなんだ?」


「誕生日は一月だね」


 朝倉さん、聞いてる? 俺の誕生日は一月だよ。脳に刷り込んでおくれ。そして来年お祝いしてくれ。


「俺は十一月だな。後のみんなはいつなんだ?」


 ここで太一がナイスなバトンパス。


「私は十月だよ」


「友華も十月」


「あたしは八月」


「げ、俺が一番遅いじゃん。俺は三月だ」


 なるほど、朝倉さんは十月か。覚えておこう。


「まぁ歳なんて早く取ろうが遅く取ろうが気にしないでしょ? 同級生には変わりないんだし」


「でもよぉ中村、車の免許とかお酒とか煙草とかみんなより早く経験できるんだぜ? それは何か早く大人に近づいた気がするじゃんか」


「なにあんた、煙草吸いたいの? 自ら身体に毒素を取り入れるとかマゾなの?」


 サンドイッチを食べながら菜月くんにジト目を向ける中倉さん。


「一回は興味本位で吸ってみたくね?」


「僕は煙草はいいかな……お酒は少しは飲んでみたいけど」


「俺もパスだ。ニコチン入れるぐらいならタンパク質を入れる方がいいしな」


「俺も煙草はあまり好きじゃないかな」


 社会に出てから煙草を吸ってる人にたくさん関わったが、煙草臭いし、肌は荒れてるし、体力も落ちてるし、金もかかるしでメリットがなさそうなんだよな。


「でも車の運転が早くできるのは良いよね。免許取ったら遠くに行けるし」


「僕が免許取ったらりーちゃんを一番に乗せてあげるよ」


「ほんと? ありがと」


 がふっ。ナチュラルにドライブデートに誘いやがった。あれ、ピザの味がしない。味覚が壊れたかもしれない。


「りなちだけズルい~。友華も乗る~」


「あたしも行きたい所があるんだよね」


「分かった分かった。みんなでドライブに行こう」


 ハーレム! イケメンで幼馴染で遅生まれで免許が早く取れてハーレム。どれだけ優遇されるんだよ。俺には不死しかないのに……。


「女子ばかりセコいぞ。宮っち、俺たちも乗りたいぞ。なぁ楠っち、古賀っち」


「あぁ乗りてぇぞ」


「俺も」


「こりゃあファミリーカーをレンタルでもしないと乗れないな。というかまだまだ先の話だよねこれ」


 はははっと、やはり優しい笑顔を振りまく浩一くん。もし俺が浩一くんの立場だったら朝倉さんとのデートの邪魔をするんじゃない! なんて思いそうだけど……器の大きさが違うのか。


「じゃあ今現在の話をするかなぁ~やっぱり男女が揃ってるなら、せっかくだからみんなの恋愛事情気になるよな」


 菜月くんが小さな爆弾を投下してきた。

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