番外編 冷凍販売

 ホダカは深夜に扉を叩く音に起こされた。

ドン。ドン。ドン。木の扉を突き破りそうな音で叩く音が聞こえる。

 耳を澄ますと、音の主の荒い息遣いが聞こえてきた。

「ゼ―、ゼ~、ゼー」

「誰だよ。こんな夜中に。何事だよ」

 と言いながらホダカは扉をあけた。

 ギイッと音がした先に立っていたのはミリカだった。

「よっ。みゃ。ホダカ」

「よっ。じゃないよ。皆も寝ているってのになんだよ」

ホダカの機嫌は頗る悪い。

「めんみゃ。めんみゃ」

「めんみゃって、もう」

 ミリカの軽い謝罪にホダカはイライラしていた。

「どうしたのー」

 階段をトントン降りてくるのはティナだ。起こさないようにベットからすり抜けて来たつもりだが、ホダカ達の会話が聞こえて起きてしまったらしい。

「よっ、みゃ」

「あら、ミリカじゃない。こんな夜更けにどうしたのー」

 ティナは付き合いも長く、ミリカのこういう突然の登場には慣れているようでホダカのように苛立ってはいないようだ。

「実はみゃ。おみゃ達にみゃ、儲け話を持ってきたみゃ」

 ミリカはにやりと笑い、尻尾をゆらゆらとさせた。

「何、その儲け話って 」

 ティナが小首を傾げてている。

「そうだぞ、ぐっすり寝ていたところを起こしたんだ。大した事なかったら、承知しないぞ」

 ホダカはミリカにぐいっと詰め寄った。

「ふふん、みゃ。その点は安心するみゃ。実はみゃ。明後日、近くの村のクリーミ  

村の領主が新しく発生したダンジョンの討伐に行くみゃ。近年稀にみる大規模ダンジョンみたいで大所帯で部隊を組んで出陣するみたいみゃ。問題が一つあって、そのダンジョンは食べ物が中で入手出来ない特殊なダンジョンみたいみゃ。そこで、領主は弁当を持参することを考えているようだみゃが、いくつか試作された弁当を食べてみたけど、どれも美味しくなく、栄養バランスも微妙だったらしいみゃ」

「ほう」

 ホダカは頷いた。

「そこでみゃ。おみゃーたちのコロッケの出番みゃ。コロッケを『レイカ』で氷漬けにして、ダンジョン内で解凍して食べられるようにするってのはどうみゃか」

「確かにそれはいいアイデアだが、儲かるのかね」

 ホダカの言葉にティナも頷いている。

「クリーミ村の領主は純粋な資産で言えば王様の次にお金持ちだみゃ。それに彼は新しい物が好きで変わったものにはいくらでもお金を積んでくれるみゃ」

「ねえ、ホダカ。ミリカの話に乗っかってみるのも悪くないと思うわ。ほら、ホダカ。店舗をもう一つ増やしたいとかいってたじゃない。それの頭金くらいにはなるかもしれないわ」

「そうか、わかった。大商人、フール・トールのミリカ様の嗅覚を信じよう」

「毎度ありみゃ。話は必ずこちらがつけるから、分け前はホダカ達が7でこっちは3割みゃ」

「ああ、しっかり持っていくな。だが、頼んだぞ」

「明後日が遠征だからコロッケを沢山用意して冷凍しておくみゃ。引き取りはあたしが来るみゃ。そうだな、五百個程普通のコロッケと二百個ほどのボッチ・コロッケを用意するみゃ」

こうして、ホダカ達の真夜中の商談は終わった。


 次の朝にはミリカから正式にコロッケの注文が手紙で来ていた。その時からホダカ達はひたすらコロッケを作り続けた。

「えっさ。ほいさ」

ティナが可愛い声を漏らしながらハートリーフを潰したり、コロッケを丸めたり、している傍でホダカもひたすら揚げ続けた。

ある程度溜まると、そこにカロリーナが『レイカ』を唱えて氷漬けにしていった。

 丸一日、ホダカ達はコロッケを作り続けて日が暮れるころに合計七百個のコロッケが出来上がった。

 ドン。ドン。ドン。

 ちょうどその頃、扉が壊れそうな勢いで叩かれた。

「――ミリカだ」

ホダカがそう思った瞬間に店のドアが開かれた。

「たのみゃー」

「ああ、みりか。丁度できた所よ。はい、これ」

ティナがミリカに氷漬けにされたコロッケのブロックを一つずつ、渡していった。

「ありがとうみゃ」

「それにしても、よく迅速に話をつけることが出来たな」

「へへん。それはこのミリカ様にしか出来ないことみゃ。実は、おみゃーたちのコロッケを自宅用に冷凍保存していたみゃ。それを解凍して領主様に食べさせたみゃ。試作を持っていったら美味しかったみたいでイチコロだみゃ。おみゃーたちのコロッケのおかげでもあるみゃ」

「そういうことかい。そう言えば代金はいくらだ」

「二百二十万ルを貰ったみゃ。特急でコロッケを作ってもらった料金が上乗せされているみゃ」

「に、二百二十万チルですって」

ティナが横で口をあんぐりとさせて驚いている。

「そうだみゃ。馬車を一台くらいは買えるみゃ。そこから三割はあたしが頂くみゃ。割り切れない分はおみゃーたちにやるみゃ」

「これで、わたしたちの店舗拡大の夢に一歩近づいたわね」

ティナがウインクしてホダカを見つめた。

「ああ、ミリカ。また頼む。夜中に起こされても我慢する」

「そうこなくっちゃみゃ」

「さあ、臨時で大金も手に入ったし、明日からも元気に店を盛り上げて行こう」

「ええ」

ティナが相槌を打ち、ホダカは手をパンっと叩いた。



※番外編の補足「ミリカの商談術」を近況ノートのカクヨム サポーター限定に記載しました。















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