番外編

番外編 かぼちゃコロッケ=ボッチコロッケ

  ホダカはティナに急に起こされた。

「ホダカ―、起きて―。ねー。起きてよー」

「うーん。まだ眠いよー。ティナ」

「サイ王子が、サイ王子が家に来てるよー」

「うん、サイ王子が、何事だろう」

 ホダカはティナと共に一階に降りた。時計をみるとまだ午前六時だ。

「なんですか、こんなに朝早くから、サイ王子」

ホダカはドアを開け、立っていたサイ王子に皮肉を少し込めて言った。

「いやー、ホダカさん。こんなに朝早くに申し訳ございません」

「昨日、コロッケが売れに売れて、忙しかったので、休日の今日はゆっくり休んでいたかったのですが」

「ホダカさんがお忙しいのは百も承知です。しかし、一大事なのです」

「どうしたんですか」

「ホダカさん達のお店がハートリーフの有用性を広めたことで、ハートリーフの市場への供給が追い付いていないということが分かったのですよ」

「なんだって」

「このまま行くと、今年の冬はホダカさんのお店『グーワ・マッシュ』はコロッケを提供出来ないでしょうね」

「それは大変だ」

「そう思いましでね。それで、一大事だと思い、朝早くにこうして駆け付けた訳ですよ」

「ふーん、流石。サイ王子。相変わらず優秀だわね」

 と横でホダカとサイ王子の会話を聞いていたティナが言った。

 これはどうしたものだ。ホダカは考えた。コロッケの生命線とも言えるジャガイモが手に入らないとは『グーワ・マッシュ』が潰れるかもしれない。どうしよう。ティナの生活が俺の肩に掛かっているんだ。うーん。そうだ、ジャガイモ以外のものでコロッケを作ればいいんだ。例えば、かぼちゃとか。

「ティナ、この世界には硬い皮で覆われた丸い緑の物で中が黄色の食べ物はあるかい」

「それって、ボッチのこと」

「ああ、恐らく、そのボッチのことだ。ミリカにそのボッチというのを仕入れてもらおう」


――数日後、ホダカはミリカを出迎えた。

「手紙の中に入っていた注文書に書いてあったボッチを五つとあれを持ってきたみゃ」

「ありがとう。ミリカ。」

「いいみゃ、いいみゃ、ホダカ。それよりも早く新作コロッケを作るみゃ。それをあたしに一番に食べさせるという条件で急いで持ってきたみゃ」

「ああ、約束だ。ミリカ。まずは物を見せてもらおうか」

「はいみゃ」

 ホダカの前にゴロンとした重い野菜が置かれた。どこからどう見てもカボチャだ。ボッチはそのままかぼちゃの事らしい。

「よし、これならば、問題なく作れそうだ。あっちの方もあるか」

「あれだみゃ。はいみゃ」

 次にミリカが机に置いたのは、瓶に入った黒い液体だ。

「これがジャッキの実から作った汁かい」

「そうだみゃ。ホダカが手紙で説明した醤油ってものに似ていると思うみゃ」

「どれどれ」

 ホダカは瓶を開けて香りを嗅いだ。醤油に近い香りがする。ホダカは少し手の平に垂らして舐めてみた。

「うん、これは醤油だ。いい物をありがとう。ミリカ」

「いいみゃ。いいみゃ。さっさとコロッケを作るみゃ」

「ああ、そうだな。ティナ、こっちに来てくれ。助手を頼む。」

「あい」

 ホダカはティナと一緒にキッチンに並び立った。

「よし、まずはボッチのワタとタネ取りだ」

 ホダカは力一杯、硬い皮を包丁で叩き割るとタネを採り、ワタをくり抜いた。その後、皮を剥いてフライパンに並べた。そして、ボッチが少し浸かる程度に水を加えて、フライパンに蓋をした。

「ティナ、『カエナルン』を頼む」

「あい」

 ホダカはティナに薪に火をつけてもらい、十分ほどボッチを蒸した。

「よし、ティナの火力で上手く火が通っているな」

 ホダカは柔らかくなったボッチをボウルに入れてスプーンで潰した。

ホダカはそこに、モールのバターと砂糖代わりのシンサイの木の粉、醤油代わりのジャッキの汁を加えた。

「ティナ、手伝ってくれ」

「あい」

 ティナと一緒にホダカは一生懸命に混ぜ合わせてタネを作った。

「それじゃ、丸くしようか、ティナ」

「あい、分かったわ。ホダカ」

 ホダカはティナとタネを手のひらに少しずつ取って、一つずつ形を丸く整えていった。そしてホダカは、出来上がった丸いタネにシー・ロックチョウの溶き卵と小麦ととパン粉をハートリーフでコロッケを作る時と同じようにまぶしていった。

「さあ、あとは揚げるだけだ」

 ホダカは一つずつ小金色になるまで揚げていった。

「かぼちゃコロッケ、いや、ボッチコロッケの完成だ」

 ホダカは声高らかに叫んだ。

「うおー、美味しそうだみゃ。いつものコロッケよりも丸くてコロコロしてて見てても楽しいみゃ」

「だろう。ボッチコロッケはいつもよりも小さくして一口で食べれるサイズにした。さあ、ミリカ、食べてごらん」

 ホダカはミリカにボッチコロッケを差し出した。ミリカはさっとホダカの手からボッチコロッケを奪い取るようにして、そのまま口に放りこんだ。

「あ、あついみゃ。猫舌には堪えるみゃ」

「そりゃ、出来立てだからだよ」

 ホダカがティナを見るとティナがやれやれという様子でミリカにダメ出しをしていた。

「ふみゃ、ふみゃ。こ、これは、あまーい。うまーい。たまらんみゃ」

 ミリカが叫んだ声で、ホダカの鼓膜が破れそうになった。

「おおい、びっくりさせないでくれよ」

「ホダカ、これはいつものよりも、甘くてうまいみゃ。最高だみゃ。今すぐ売るみゃ」

「はは、ああ、そうするよ。でも、その前に、ティナ食べてみて」

「うん、ありがとう。ホダカ。どれどれ。うーん。おいしー。本当に甘くておいしいわ。ボッチの甘みが引き出されているわ」

「俺も一口。うーん、これは上手い。衣ともベストマッチしている。すぐに売ろう」


――翌日より、ホダカはボッチコロッケを店頭に出し、数日が経った。

「ボッチコロッケを俺にもくれー」

「あたいもほしいさ」

 ホダカは開店前から並ぶ客の声をまたまた朝早くから家に来ていたサイ王子と共に聞いていた。

「ホダカさん、かなりの人気ですね。数日前に作られました新作のコロッケは宮殿でも話題ですよ。ボッチコロッケは発売と同時にロロンの町で話題を呼び、ボッチコロッケを買い求める客の列が夜遅くまで途絶えなかったとお聞きしましたよ」

「ああ、これも。サイ王子がきっかけをくれたからさ」

「私はただ、ハートリーフが入手出来なくなる可能性を伝えただけです。そのピンチをチャンスにされたのは、ホダカさん達ですよ」

「はは、ありがとう。サイ王子」

 ホダカとサイ王子が話をしていた所に、朝の支度を終えたティナがやってきた。

「さーて、ホダカ、今日も頑張ろうよ」

 ティナがホダカに言った。

「ああ、今日もやりますか」

 ホダカはティナと共に本日の開店準備に取り掛かった。

「グーワ・マッシュ、開店でーす」

 ティナの明るく元気な声が、厨房で控えるホダカの耳に届いた。































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