小さな夜

 『十五歳 葬儀場』

 姉をなくすのは、自分を無くすのと等しいと気がついたのは、今だ。

 

 『十五歳 父の部屋』

 姉を殺したのが、昔ここで犯罪を犯した奴で、それが緋色の兄だと気がついたのは今だ。

 

 『十七歳 父の部屋』

 私が精神疾患を持っていて、父がそれを隠していたと気がついたのは、今だ。

 

 『十八歳 コンビニ』

 今見た景色の全てが、走馬灯だと気がついたのは、たった今だ。目の前には姉を殺した犯人がいて、憎い人間がいて、緋色の兄がいる。その生物は銃を持っていて、何故か私の首にナイフを当てていた。

 ゆっくりと思い出す。ここは家の近くのコンビニで、この男は急に声を荒げ、その銃を振り回して、周りを脅した。

 深呼吸をしてみるが、声が震えてできない。男はすでにレジ側にまわっていて、通報ボタンを押すことすらできない。

 男は何やら叫び続けているが、全く聞こえない。と、いうか。聞きたくなかった。

 男のナイフを握る手が強くなっる。鋭い痛みが首を刺した。外はもう夜だった。意識が段々に薄れていく。ああ、死にたくないな。

 私の後ろに立つ化け物は叫び、唾を飛ばす。かかったら汚いな。

 そう思っていると、足の力が抜けた。お腹が焼けるみたいに痛い。いやだなあ、地面が急に近くなる。すると、いきなり自動ドアが開いた。誰かが入ってくる。銃声が響くが、その人物の歩みは止まらない。

 もう、私にはそれが誰だかわかっていた。ずっと待っていた。会いたかった。彼の傷を、孤独を、私が救いたかった。

 ただ、その言葉は使えない。使っても彼が癒えることはない。代わりに、私は一つずつ、言葉を縫い合わせて、言った。

「おかえり」

「ありがとう」

 緋色の影は変わり、人のものではなくなった。だが、男の影よりよっぽど、格好よく、私は大好きだった。

 

 『十八歳 病院』

 私は今病室のベットの上だ、と気がついたのは、つい先程だ。父が来た形跡があり、そばには着替えが置いてあった。

 あの後、どうなったのだろう。病室にテレビがついていて、それを見ると、コンビニ強盗が話題に上げられていた。

 どうやら、警察が着く前に解決していたが、誰が解決したかはわからないらしい。私は、私のヒーローを誇らしく思った。

 窓の外から家路が聞こえてくる。隣には姉がいない、母がいない、バーがいない。その事実は、やっぱり重く、まだ受け止められなかった。

 そして、私の隣に緋色がいないことが、何よりも悲しくて、でも、何よりも安心した。

 遠くに見える山に、太陽が落ちる。それだけの、瑕疵でもない普通の風景が寂しくみえた。

 こういう時、なんて誤魔化すべきだろうか。私はふと、高校の友人が言っていたセリフを思い出した。

「女子高生舐めんなあ」

 私の声は涙に溺れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウサギトカゲ 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ