空に星が綺麗
『十六歳』
そうそう、私の学校にね、すごい人がいっぱいいるんだよ。便利屋って何でも屋があったり、数学オリンピック日本代表の絵馬さんとか。
ね。すごいよね。うん。うん。え、その人なんて名前?やっぱり!
うちの学校にもいるよ、星紙くん。そう、めっちゃイケメン。話しかけられないけどね。
『十五歳 夜の公園』
何を話せば良いかわからない、と気がついたのは、バーの弔いが終わって直後の、今だ。
夜の色はベッタリと貼り付けられたように重く背中にのしかかってきた。
傷だらけの緋色を前にして、肯定を貫いていると、向こうから言葉を刻んでくれた。
「僕さ、もしかしたら、僕じゃなくなるかもしれないんだよね」
うん、と沈黙を続けるしかない。
「だからさ、二人だけの暗号をつくろうよ」
幾つも貼られた絆創膏の上から、彼が頰を掻く。
「暗号?」
「うん。山と川みたいな」
「二と車みたいな?」
何それ、知らない暗号だ。彼は不思議な顔をする。月の光は弱く、彼の輪郭は不鮮明だ。
「ツーといえばカー、っていうでしょう?」
「あれ、そういう意味じゃないよ」
そうなんだ、と私は素直に驚いた。もう真夜中であるけれど、驚くほど眠気はなかった。私たちの声が轟くほどあたりは静かで、程よく聞こえる風の音が心地よかった。
空には星が輝いている。
「でも、今どき急に山って言われたら川って答えちゃうんじゃない?」
私が冗談で
「まずい、どうしよう」
と彼は本気で焦り始める。それを見て、私は息を漏らす。
「じゃあ、例えばおはようって言われたら、おはよう、とか答えが限定されるでしょ?」
「うん」
「だから、そこを少しずらせば良いんじゃない?おかえり、とありがとう、とか」
緋色は少し考えると、それはほんの少しで、言い換えると、一瞬だけ考え、
「澄恋、天才!」
と声を上げた。
「おかえり」
「ありがとう」
私は、いや、私たちはそう言い合って笑い合う。それから何度も、私たちは暗号を使って合図を送った。自分は自分だよ。
代わりに、緋色の傷はどんどん増えていった。
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