泣いてたまるか

『十六歳』

 もしもし。最近文化祭の準備で忙しくてさ、あんまり電話できないんだよね。うん。え、大学にも文化祭あるんだ。へえ。

 そうだ、最近掃除してたら、仮面ライダーベルトを見つてさ。仮面ライダーファーストね。魔術使って敵を倒すさ。覚えてない?

 人を助けることこそが魔術だ!ってやつ。ええ、覚えてないかあ。これお姉ちゃんが無くして大号泣したやつじゃなかったっけ。それ私がお母さんのイヤリング無くした時のやつか。

 

 『十五歳 公園』

 緋色くんが隠し事をしているとはっきり気がついたのは、先週、まあ昨日のことだ。

「その、嫌なら話さなくてもいいんだけどね」

「どうしたの?」

 後ろで結んだ自分の手を握り、ついには話した。

「その、相談したいことがあったら話して欲しいの。だから、その」

 私は笑って誤魔化すと、内心でとても後悔した。

 私が笑い続け、能動的な受け身を気持ち悪がったのか、いじめもほぼ無くなったので、少し浮かれていた。

 ごめん、気にしないで、と言おうとした矢先、彼は言葉を繋いだ。

「僕さ、病気なんだよね。それも世界レベルで珍しい難病」

 そんな気がしていた。何回も病院に行く姿を見たし、遊びにも断られることが多くなった。

「過負荷性変身症候群っていう病気で」

 しばらく沈黙が流れた。私と緋色の間を赤い壁が隔てたように感じた。

 久しぶりに一人で迎えるいつもの家路が、いつもより歪んで見えた。

 

 『十五歳 父親の部屋』

 父のパソコンで病気のことを調べればいいと気がついたのは二時間前のことだ。父は今家を出たし、姉は友人の家に泊まりにいっている。

 この機に、父の部屋に忍び込んだ。そもそも、家に誰もいないので忍ぶ必要はない気もするが。

 そういえば、パスワードを知らない、と焦ったがパソコンのセキュリティがゆりかご並みで助かった。

 父はそもそも病気関係に興味があったのか、検索履歴には「精神病 対応」と調べていた。

 不慣れな手つきで「過負荷性変身症候群」とキーボードを叩く。一番上に表示されたサイトを開いた。少しスクロールし、内容を読む。

 この疾患者は世界でも数人と限られていて、未だ治療法もよく分かっていません。ただ、多くの患者が同時に症状をあらわしています。

 また、共通点としては患者の全員が強いストレスを受けてから発症していることが分かっています。

 その特徴として、以下の三つが挙げられます。

 

 一、自分の体を血が出るまで擦るようになる。

 二、定期的に、強いストレスを受けた際の光景がフラッシュバックする。

 三、この症状が現れた状態で、さらに強いショックやストレス、精神的な病を併発した場合、遺伝子の変形が起こる。※一

 

 ※一

 この症状の発生原因、また、変形方法も未解明です。記憶が深く関係すると言われていますが、この症例は世界でも一件しか見られていません。

 

 変形。その様子をよく想像できない。緋色が、緋色じゃなくなるということ?人間じゃないということ?

 私は強く手を握るが、握り返してくれる手はいない。

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