異能の話をしましょう

 具視の家に行く途中で、葵という少女が合流した。休みであったので、制服でなく私服だ。

 意外と天気は良く、と言ってももう夕暮れで、しかしそれが青春の輪郭を際立てている。赤っぽい風が見えない私の肩を撫でた。

「あの大人買いが役に立つとはねー」

『なんで大人買いしてたんですか?』

「タメ口でいいよ、空野ちゃん」

 葵が私の方に微笑みかける。

 彼女らがした“大人買い”とは、街の本屋の一面を飾る手塚治虫コーナー、そのおよそほとんどを買い占める、というものだ。量が量なだけあって、それなりに噂になった。

「話題、イメージ、あんど思い出作り、だよ」

「なるほどね」

「どんな異能なんだい、ずっと聞いてなかったけど」

 ああ、と地恵が小石を拾った、と思ったらそれは仮面ライダーのベルトになった。

「ランダムで小石と何かの位置を入れ替える、それが私の症状だよ」

 おどけながら地恵が言った。

「それの持ち主に返さないとじゃん」

「まあ、そうなんだけれど」

『百回に一回くらいで、とてもレアなのに変わるんでしょ?』

「そうそう」

 いいながら地恵は手にした仮面ライダーのベルトを地面に置いた。もう一度小石を拾うと、今度は通帳になってしまった。

「それは本当にダメだ、返さなきゃ」

 具視はそう注意するが、地恵は素知らぬ顔で投げ捨てた。かさっと音がして、通帳は力無く地面に伏す。一本技あり。

「いやいや、流石にダメでしょー」

『交番に届けないとだよ』

「そうだそうだ」

「こういう時はね、こう言ってやるんだ」

 地恵は息を吸うと、珍しく、少し大きな声で言った。

「女子高生舐めんな!」

 私は冷や汗をかいている。

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