治療の話をしましょう

「まあ、だから彼女がいなくなったあと、私がクラスのリーダーみたいになったんだけどね」

 具視がおずおずと尋ねた。

「聞いてもいいかい、その症状を」

 まあ、君も秘密を話してくれたしね、と地恵も答える。

「空野の病気はね、みんなから見えなくなってしまうって症状なんだ」

「なんだかあれみたいだ、透明人間」

「うん、言い得て妙な例えだ」

 地恵が神妙な顔つきで言うので、割と出やすい例だと思うけど、と私は吹き出してしまう。


「恐らく、すぐそこにでもいるんだろう、空野?」

「バレましたか、と言っても聞こえないか」

 誰にも聞こえないのに私はそう言って、具視と地恵の間の席に座る。椅子を引く音がやけに響くと思ったら、吹奏楽部は菓子をお供に談笑に耽ていた。

 ノートと鉛筆を取り出して、文字を連ねる。

「椅子が勝手に動いた!」

「具視ちゃん。話せてないよ、倒置して」

『流石地恵、名探偵!』

「達筆だね、空野ちゃん」

 友達と自分を同時に褒められたのが嬉しかったのか、地恵は咳払いをした。

「空野の病気を治すには、ある漫画が必要でね」

 具視はほう、と相槌を打つ。

「それが手塚治虫本人のサインが入った、ブラックジャックなんだ」

『私の記憶を刺激しようってお医者さんは言ってたけど、レアすぎて、ネットで買おうにも高すぎるんだよ』

 具視は少し考えるような顔をすると、ニヤリと笑って言い放った。

「言っただろう?近くの本屋で大人買いをしたのは私たちだって」

 ふとタブレットの画面がつき、

「やっと宿題終わったー」

 と言う少女の声が聞こえた。

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