C−1

 畏怖はしなくとも、イフは無数に存在する、らしい。簡単に言っちゃうと、この世から分岐した「ありうること」がばらばらに進む事実のことだ。

「ねえねえ、勉強しないで、そんなに呆けて大丈夫なの?時間を返せと叫んでも、もう君のエネルギーは戻らないと心得てね」

「うるさいよ」

 後ろを見る。休み中だと思ったら、いきなり小野おの夜琴よことは単語帳を見、眼球をいっぱいに開き、記憶を脳内に押し込むようにした。そのすぐ後に小野は脱力した。

「いいよね絵馬は。勉教しなくてもできるんだから」

「あんなの、頭がいいうちに入らないよ」

 私は、ちょっと算数が得意だ。ほんの、ちょっと。

「どんな物理演算も一分以内に終わらせられる才能は、平凡って言えねえよ」

「いや、本当にそんなことはないと思うよ」

 応答がないなと思い、振り向くともう、また単語帳を使い、知識を頭に押し込む時間がスタートしつつあった。

 小野は学習時間と、憩いの時間を短時間かつ交互に回し、日々を過ごす。私には、学習が小野を縛り、苦悩を作る、という構図にしか見ることが不可能だ。

「ぜってえ次のテストは一位になって、絵馬を見返してあげるよ」

「うん、頑張ろう」

 小野は少し黙った後、

「絵馬って、結構煽るよね」

 と言ったが、何をいうか、とショックを感じた。

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