B−2

「心配になってきたね、絵馬さん」

 何かと思ったら、私の話だ。

「いざとなったらすぐに鏃不依公園行けるよう、準備はしておけよ。兎影の父親の死を無駄にしたくねえからな」

「いざいざこざが起こったら、それはこの便利屋の責任になるからね。やはりそこは気をつけないといけない。確かに兎影くんのお父さんの死は僕たちが活かすほかないね。いかす方法でやらないと、胃下垂のような辛さを味わうことになるかもしれない。おっと、私は共感覚を覚えたことがないから、ストレスを感じて味の感覚を呼び起こされるわけじゃない。その辺りはきちんとキャラ付けのあたりをとっておかないと。烏賊だけに当たりめだね」

「うん、もう準備は一応済んでるよ」

 鏃不依公園。学校の近くにある公園だ。しかし、私はそんな恨まれる覚えは、あった。星紙恒翔だ。彼と許可なしで喋った私は、十分に下らないいじめを受ける可能性を持っている。

 少しだけ怖くなるが、すぐにある男の顔が浮かぶ。彼ならなんとかしてくれるだろうか。だが、彼に頼るのはなんとなく癪だ。が、背に腹はかえられない。

 携帯電話を取り出すと、彼に電話をかける。

「?」

「無礼ですが、馬淵まぶちプラネット咲佐さすけであっていますよね」

「。」

 どうやら、あっているらしい。

「ちょっと無聊ぶりょうなことがあって、私の行先を教えて欲しいのですが」

「。」

 了解は得られたようだ。

「?」

「ああ、今は無責任にも、問題の鏃不依公園の近くにいますよ」

「。」

 馬淵プラネット咲佐は、喋らない。喋れない、ではなく、喋らない。一度だけ私に対し喋ったことがあるが、すぐその後に後悔を露わにした。なぜなら、馬淵プラネット咲佐はあらゆる、まあ起こりうる可能性を常に、全て頭に浮かべてしまう、そういう病気らしい。最近、一部地域で奇病が流行し始めた。彼もその患者の一人だ。

 あらゆる可能性を考えてしまう馬渕プラネット咲佐は大体いつでもぼうっとしている。しかも、自分の話が伝わらない可能性が途轍もなく恐ろしくて、最初から聴く側を振り分けている。と、いうのも。彼は「。」だとか「?」だとか、「!」としか喋らない。

 後ろで何かが地面に落ちる音がする。振り向くと、そこには馬渕プラネット咲佐が目を開けたまま倒れていた。何かぶつぶつ呟いている。

「無事ですか?」

「。」

 無事ならいい。まあ、いつもそんな感じだ。

 

「無遠慮にも聞きますが、今日、私が暴力を振るわれる可能性はありますか?」

「、」

 考えている。馬渕プラネット咲佐が熟考するのは珍しく、少し驚いて、やっぱり不安になる。

「。」

 ある、か。公園に向かう。携帯の電源を付け、録音を始める。証拠は残しておいた方がいい。足をまた一歩、踏み出す。前に、震える手で星紙恒翔に電話を掛けた。

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