B−1

 この世には、いや、私が今生きている世界には、他に「イフ」の世界線が存在するらしい。例えば、違う世界線の私は、私が大好きなSFものに疎いかもしれない。毛嫌いしている風船に想像を膨らませているかもしれない。風船を膨らませるように。そんなことを無表情で考えていると、星紙せがみ恒翔こうとが話しかけに来た。

「おい絵馬ちゃん、聞こえているかい?もしわざとなら、結構ショックだぜ」

「はい、無視しました」

「なんでだい?」

「無論、うるさかったからです」

「そっかあ」

 こう話している間にも、女子からの視線が滅多刺しにしてくる。星紙恒翔は、全国民にアンケートを実施したら日本一桁台に入るくらいの二枚目だ。故に、女子の間で『許可を取らないと星紙恒翔に話しかけてはいけない』という掟が定められたらしい。誰に許可を取ればいいか、なんて、ふざけた事はどうか抜かさないでほしい。そんなの、小林こばやし地恵ちえに決まっている。

 私の場合、星紙恒翔が何もせずとも話しかけてくるのだが。

「絵馬ちゃん知ってる?飛行機を表すプレインって鉋って意味があるらしいぜ」

「へえ、それについては無知でした」

 そろそろ視線が痛くなってくる。

「そういえば星紙恒翔は、そんなに無理にモテようとして、何が目的なんですか?」

 星紙恒翔は悩む様子を見せた。腕を組み、うーんと唸ると、星紙恒翔は口を開いた。

「モテてモテたら、またモテるんだ」

「それで無双したら、どうするんですか」

「またモテる」

「私と『モテる』は無縁なのでよくわかりません」

 星紙恒翔は「うん、やっぱり難しいぜ」と呟いた。

「まあ、危なくなったら、俺が格闘技で助けてあげるよ」

「それは無用です」

 なんとか死地を潜り抜け、席に戻る。前に、お手洗いに行く。みたらしに行くわけではない。廊下を出て、トイレに向かい始めると、万部の三人が前を歩いていた。

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