扉を開けて
「もーいーかい?」「まーだだよ」
なんて、ドア越しの可愛いやり取りで済んだのは3日まで。
6日目の今日は
「いい加減に出てこないと、ロックさんにドアをぶち破ってもらうわよ?」
なんて脅しになってしまったので、仕方なく研究室を出てダベリ部屋に向かった。
みんな揃ってるのは、いつものこと。
今日は『雷炎』のメンバーのみで、エクレールさんや、ルフィーアさんもいるよ。
「少しは進んだのかよ?」
「進んだのかどうかは解らないけど、別のドアを見つけたかもっていう所。もうちょっと形になれば、ロックさんの手とかも借りるかも知れない」
「どんな方向に進んだのか。みんながいろいろ言うから、気になって来てみました」
「エクレールさんが他のギルドに仄めかすには、このくらいアバウトな時期の方が良いかもね。……まだまだ入り口程度だけど、論より証拠。実験に付き合ってよ」
アイテム欄から、いろいろ取り出してテーブルに並べていく。
ガラスのコップみたいなものが、いっぱい。それから採取アイテム。
最後に大きめの薬品入りのガラス瓶。
並べたコップに順番に注いでいきます。
「その薬品は……皇水とは違うみたいね。匂いがツンと来ないわ」
「シフォン、正解。名前はつけてないけど、ずっとこの薬品を作ってたの」
「何が見られるのか、楽しみ」
「あまり面白いものじゃないかもですよ。さて……取り出しましたる、この葉っぱ」
「ヴァルシオンの葉……ですよね? ポーションの材料になる」
「さすが、ヒーラーのザビエルさん。これを薬品に漬けると……」
「え? 緑色が消えた」
葉はみるみる白くなって、薬品に緑色が溶けてしまう。
続いて、ヘルハウンドからドロップした炎の結晶も、隣りのコップに。
これもただの透明な石に変化して、薬品が赤く染まる。
どのアイテムを入れても同じ。アイテムは色を失い、薬品が色づく。
「まさかと思うけどシトリンちゃん。漂白剤なんて言うオチじゃないわよね?」
「それだったら、みんなに怒られちゃいます。でも、ペンネさん惜しい線です。……これは、アイテムが持つ魔力だけを溶かす薬品です」
「「「「「「魔力だけを溶かす?」」」」」」
嬉しい! とても驚いてくれた。
いろいろと苦労した甲斐があったよ……。
「シフォンのお店に遊びに行った時、ちょっとミスって皇水にスパイダーシルクが入っちゃったんだけど、糸はまったく溶けずに、魔力だけ失った感じになったの! それで、皇水をいろいろ改良して……いる内に別物に近くなっちゃったけど、これができた」
「魔力だけが溶けてる液体って、何に使えるんだろう?」
「このヴァルシオンの葉については、ほぼ解ってます。……今日はきゅうさんがいなくて、エクレールさんがいるのは僥倖かも。たぶん……より高性能な薬が作れます」
「それは……どういう理屈かな?」
「葉を擦ったり煎じたりするよりも、より純度の高い魔力成分が抽出できるから、効率良くなって当然。実際に魔力計でも高い数字が出ました」
「魔力計って、あなたそんなものまで作ってたの?」
あれ? 言ってなかったっけ?
高機能作業場セットにあったのを、その部分だけコピーして作ったんだけど……。
ああ……また呆れ顔で見られたよ。
「それはともかく……きゅうさん的には、即戦力な内容なわけで。このあたりはエクレールさんにおまかせしますので、何かきゅうさんから引き出したい情報がある時に……」
「これは、相当の情報が引き出せそうです」
エクレールさんが楽しそうに笑う。
少し胡散臭そうに左眉を上げるのは、ロックさん。
「で? シトリンよ、他のアイテムから抽出した魔力はどう使う?」
「まだ、わかんない」
「こらぁ! 期待させて、それかい!」
「だからまだ、別の入口が見つかった程度って言ったじゃない。魔力をそのまま溶かすから、ゴーゴンの瞳を溶かした液に触れると、ちゃんと石化するよ」
「どれどれ、ロックさんで試してみよう……」
「やめんか、ガーデン娘」
「遊んじゃ駄目だよ、本当に危ないから。今の課題は、抜き出した魔力をどんな形で利用するかってこと……難しいよ」
「剣にでもメッキしてみるか?」
「それもできるとは思うけど、威力は魔法陣刻むのと大差ないよ? 触れたものを石化する剣なんて、危なくて使えないだろうし」
「強敵相手には欲しくなりますが、それで勝っても誇れませんね」
「だよな……あのルフィーア砲より、タチが悪いもんなぁ」
「ルフィーア砲にはロマンがあった」
ルフィーアさんが胸を張り、周りは苦笑い。
そんなものを使っての勝利を、求めない人たちで良かった。人によっては、どんな手を使っても、勝てば良いのだって言う人もいるはずだもん。
「それでね……せっかくみんなが揃っているのだから、ちょっと意見出しをお願いしちゃいます。第一回、こんなアイテムの魔力が、この道具に付いてたら嬉しいな選手権! パフパフ~」
「シトリンのネーミングセンスは置いとくとして……。そんなに器用に付けられるの?」
「わかんないけど、試すならニーズの有るものを作りたいし、その方が励みになるもん」
「急に言われてもなぁ……考えたことがなかった」
「ウチのロボくんに、毒の牙をつけてみるとか……」
「万が一、舌噛んじゃったら、大惨事」
「それ嫌ぁ~! 今のは無し無し」
コーデリアさんが真っ青になって提案を取り消す。
愛されてるね、ロボくん。武器はそれが有るから、ちょっと難しいんだよ。
ちょっと首を傾げながら、シフォンが提案する。
「さっきの炎の結晶の効果を、魔導士とかのローブに付けられないかしら? シトリンのヒートプレートアーマーみたいにならない?」
「冬が来る前に、欲しい。ヒュンメル付近はまた寒くなる」
「それは採用。ローブとか限定しないで、布に付けられるかだね。真っ先に取り掛かろう」
「布に付けられるようになったら、蛍のように淡く光るドレスも作れそうね」
「シフォンのお店は大繁盛だ」
「そうね……魔法のドレスは革命よ」
「あとは……逆にポーション効果のある装備が作れないかな?」
「……どんなの?」
「石化防止の防具とか、毒消しの防具とか。高性能ポーションを作れるなら、魔法扱いできるかもしれないし」
「戦う相手や、局面で切り替えるのは有効ですね」
うん、ドジったら恐い武器で考えるより、防具の方が安全だよね。
やっぱり、一人で悩むより、みんなの知恵だ。
ドアからちょっと、中を覗けた気分です。
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