いろいろと試行錯誤

「シフォン、これいる?」

「わぁ……綺麗な手甲ね。この透明感の有る赤はメッキ? 塗装?」


 テーブルに置いた赤い手甲に、シフォンの目が輝く。

 サーベル片手に前衛に立ったるする娘だから、盾代わりの手甲を持ってても良いと思うんだ。

 左の手の甲から肘まで、厚みを付けてそこで剣くらいは受けられるようにしてある。


「で……それはどんなギミックが有るんだ?」


 疑い深くなってるロックさんが、胡散臭そうに左眉を上げる。

 失礼な!


「何にもないよ? ただの綺麗な手甲。魔力のあるルビーでメッキしてあるから、一応魔力は帯びてはいるけど……」

「はぁ? ルビーでメッキだとぉ?」


 ここで反応したのは、ロックさんや、ザビエルさんたちの技術屋さん。

 基本的にメッキって、金属イオンを表面にくっつけるものだから、金属以外……宝石でメッキするなんて有り得ないのよ。

 でも、ゲーム内だと、できちゃうのよねぇ……。


「私のどこでも工房だけでなく、普通の工房にもメッキ装置が有るじゃない。最近ネットでメッキについて調べて、アレで何でメッキができちゃうのか不思議だったの。……ほら、当然電気なんて無いし、真空高温で蒸着もしてないっぽいし」

「赤射や焼結もな……」

「……なにそれ?」

「いや、何でも無い。話を進めてくれ」

「装置を調べても解らないから、たぶん謎な魔法でメッキしてるんだと思うことにしたんだけど……。皇水で溶かした宝石を中和したものだと、似てるからできるかなぁ……ってやってみたら、できちゃった」

「できちゃったって、お前なぁ……」

「綺麗だから、シフォンが喜ぶかなぁって、手甲をメッキしてみたの。それだけ」

「有り難くいただくわ。……ルビーは硬いのよ、意外に」

「それは宝石同士の話だろう? 宝石の剣で斬りかかられたら、シフォンは目が¥マークになって、使い物になるとは思えねえぞ」

「当たり前でしょ? そんな敵がいたら、高火力の人に速攻で倒してもらって剣を回収するに決まってるじゃない!」

「ブレねえな……お前も」


 ドッと笑いが起こる。

 最近は籠もり過ぎと言われてるから、ラストの一時間はダベリ室に加わってるよ。

 そのせいか、みんなが集まる時間もそれが目安になってます。

 何故か当たり前のようにいる、きゅうさんが探りを入れてくる。


「本当に綺麗なだけ? つい疑いたくなるけど」

「強いて言えば、重さ-1にしてあるくらい。シフォンは筋力捨ててるから、そのフォローとして。……手強いよ、錬金術は」

「お心遣いに感謝ね」

「そんな風に色々遊ぶから、シトリンさんは先に進んでいくのかなぁ? 他のギルドの連中は、勢い込んで始めたけど、悲鳴あげてるよ」

「何かしようと思うから、行き詰まるんだよ。これ使って、何ができるかって遊んじゃうのが一番」

「深いお言葉、ありがとうございます。リンクにも伝えとくわ」


 戯けて最敬礼するから、困ってしまう。

『錬金術大全』のコピーをバラ撒いたのは正解で、だいぶ風当たりは柔らかくなっているとか。その分、いかに私にコネを作るかを、各ギルドの細工師さんが企んでるという噂。……恐いなぁ。


「その楽しみ方が、ポイントを突くのよね。シトリンちゃんの場合」

「本当よ……うちのブティックが、むさ苦しいサムライ志望だらけになるなんて、どういう事態よ!」

「それは、着物でマハラジャ・イベントを制したシフォンが半分悪いよ?」

「良いじゃん、男性用の第二店舗を出したんだろう? 大儲けじゃねえか」

「もぅ……」

「あれは、ロックさんとの氷結鋼の話で、試したかったことをやってみたら、変な方向に行っちゃっただけだもん。……きっと私にヒントをくれるみんなが、ポイントを突いてるってことだよ」

「変な方向って……まったくこいつは」

「それはそうと……リコちゃん、何か欲しい楽器はある?」

「ブッ! ゲホッゲホッ……」


 ああ、ごめん。

 ニコニコと話を聞いてるリコちゃんに、急に話を振ったら、飲みかけのジュースに噎せちゃった。いきなり、話を振られるとは思わないよね。


「楽器って、なぜですか?」

「ほら、せっかくハーピィさんに呪歌を習ったんだし、吟遊詩人バードを広げなくちゃ! 何か楽器を準備して、リコちゃんを美少女バードとして売り出そうかと……」

「やめて下さい! そういうの向いてませんよぉ」


 私が冗談交じりの顔をしてるのに気づいて、途中から頬を膨らます。可愛い。

 吟遊詩人をバードっていうんだけど、そのための呪歌をハーピィさんが知ってるというのは、ワールドデザイナーさんの駄洒落?

 今度、夏姫なつきちゃんに確かめて貰おうかな……。


「でも、後半はともかく、前半は必要だと思うの。せっかく新しい職種が生まれる事態になってるんだから」

「確かに。呪歌は全く新しいスキルだもんなぁ」

「でも……私もシトリンさん同様に人前は苦手ですよぉ」

「だからよ。……アカペラで歌って伝えるより、楽器で演奏して伝える方が恥ずかしくないんじゃないかなぁって思うんだけど?」

「それはそうなのですけど……音盤じゃ駄目ですか?」

「気持ちは分かるけど、音盤じゃあ、発動しなかったから……」

「あぅ……」


 前に中央広場のイベントで使った自動演奏の音盤でも試してみたけど、リコちゃんの期待も虚しく、呪歌として発動しなかったんだよねぇ。

 やっぱり、自分で歌うか、演奏しないとダメっぽい。

 発動しないと、呪歌だと信じてもらえないからね。


「それなら笛が良いです。……フルートは作るの難しそうだから、横笛でもオカリナでも」

「出た! 私は絶対歌わないもん! 宣言」

「そこは指摘しないでぇ……」


 珍しいリコちゃんの悲鳴に笑いが起きる。

 これはザビエルさんの所の木工屋さんも、巻き込んだ方が良いかな?


「後で声かけてみるよ。笛だけでなく、ギターとか弾ける奴は多そうだし」

「尺八も作っておけば、虚無僧になりたがるのも出るかもな」

「スパイダーシルクの糸を投げて首締めるとか、かんざしで延髄を刺したがるお調子者もね……」

 シフォンの冷め切った眼差しは、既に何人もお調子者を見ている目だね。

 まあ、定番といえば定番だけど。

 ふぅ……とため息を吐いた後、シフォンは満面の笑みを浮かべてリコちゃんを振り返る。


「そんな事より、リコちゃんのバードデビューの衣装を考えなくっちゃね! キラキラ系とヒラヒラ系と清楚系で、どれが好みかしら?」


 完全にロックオンした瞳の輝きに、リコちゃんが助けを求めてこっちを見る。

 ごめんよ、リコちゃん。

 その状態のシフォンを止める方法なんて、私にもわからないよ!


 ……可愛く着飾ったリコちゃんを、私も見たいもん。

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