佐伯姉妹のドタバタ道中
「へぇ……杖の先のニャンコの生首を付け替えることで、色々な属性に対応するんだ」
「……生首言うなっ。
「おぉ……何だか急に強くなった気分。
炎の竜巻で雪ゴブリンを屠りながら、ニッコリと。
ファンの皆さ~ん、これが夏姫ちゃんですよ? 画面で見るお淑やかな印象に騙されちゃいけません。見た目に反して超アクティブなんだから!
パーティーリーダーを夏姫ちゃんにしたものだから、私の目線も冬に逆戻りだ。総チタン製ヒートプレートアーマー、装着したよ。
「あ、そうだ。ついでにテイマーも取ったから、前衛になりそうな魔物もテイムしたいんだ? 何がお勧めなんだろう」
「それはお知り合いのスタッフの方に、直接訊いてみてはいかがでしょう?」
「私のプライベートのキャラは内緒だもん。陽菜ちゃんのお友達に『魔物馴致大全』を持ってる人がいるでしょ? 何か聞いてない?」
「もう……攻撃力ならオオカミで、守りは牛さんか、カバさんが良さげだって」
「雪オオカミでも良いのかな?」
「属性の不利益があるから、どうだろう?」
「じゃあ、しばらく先頭交代。イベントクリア後ならいろいろ出るんでしょ?」
「も~我儘なんだから」
「陽菜ちゃん相手にしか、我儘言えないもん」
はい、秋になった~!
夏姫ちゃんも、ダウンコートとさようなら。
草原地帯を離れて、森林ゾーンに踏み入っていく。ウサギさんも可愛いと思うけど、今は実用本位の前衛さんが欲しいらしい。
生産職も面白いのに、取る気はないみたいね。
テイムした魔物を前衛に、魔道士ソロプレイを目指すそうな。
なかなかパーティ組みづらいもんね、お互い。……主に、夏姫ちゃんのせいだけど。
「鳥も良いなぁ……」
「前衛にするには、どうかと思うけど」
「陽菜ちゃん乗せて飛ばせてみるとか、面白そうだよ?」
「面白そうだけど、怖すぎるよ」
「もう、ビビリなんだから……」
「深窓ならぬ病室のお嬢様だもん。大事に守られてるもん」
「ちゃっかり美化するし」
ついこの間、ルリカケスさんに連れられて、空を飛んだのは内緒。
絶対に羨ましがるか、再現しようとするかのどちらかだもん。
私といる時は、お淑やかとか、優等生とかの仮面をスパッと放り出しちゃうからなぁ、夏姫ちゃんは……。
「ところで、テイムってどうやるの?」
「お腰につけた吉備団子を一つあげて、『最初から決めていましたっ!』って、右手を差し出すの。『ちょっと待った! 』や、『ごめんなさい』が来ないと成立」
「……何か、いろいろ混ざってない?」
「大きくは外れてないよ?」
「どーだか?」
ウサギさんやシカさん、たぬきさんは無視して、狙いはオオカミさん一本らしい。
水辺じゃないから、カバさんはいないし。
あ、オオカミくんいた!
本当に腰につけたポシェットから、丸い魔物フードを取り出して、コロコロっと……。
「ねえ。私と契約して、使役魔物になってよ?」
「……さっきと台詞が違うよ?」
「アドリブだもん」
「要するに、何でも良いのね?」
「大事なのは気合と真心だから」
訝しげに魔物フードの匂いをクンクンしてたオオカミくんだけど、アイドル女優の魅力に負けたらしい。パクっと食べて、右手にスリスリしてる。
「よしよし。君をリクと名付けよう」
「夏姫ちゃん、それって……春にやってたドラマの相手役の役名では?」
「いいの。『何があっても、僕が君を守るから!』って台詞があったし、ピッタリでしょ?」
「感動的だったのに……」
「目標達成。コロボックルさんの所までよろしく」
また雪景色だよ……。
手っ取り早く、コロボックル集落の前で笛を吹いて、ロップさんを呼び出す。
選手交代で、夏姫ちゃんに任せてイベントスタートだ。
ロップさん連れて、お城に行って、領主さんの話を聞いてオッケー。
時間のある時にまた、泉とかを一つづつ、順番にやっていくそうです。
「それじゃあ王都にでも行って、リクのレベル上げをしながら、のんびりと話しますか」
「夏姫ちゃんも『シトリン工房』に入る? そうすると、工房から自由にヒュンメルにも王都にも行けるし、『雷炎の傭兵団』のギルドハウスも使えるから、港町にも行けるよ」
「それは、最初からそのつもりだよ。同じギルドなら、アイテムのやり取りも留守番メッセージに付けて渡せるようになるもん」
「ちゃっかり者めぇ! ええい、勧誘してやる!」
「ぎゃあ! 勧誘されたぁ……」
なんてふざけながら、ナツヒメさんの名前の上に『シトリン工房』の文字を追加する。
お店経由で王都に戻って、『実りの森』へ。
いきなり、毒蛇さんことポイズンバイパーに遭遇したけれど、魔法で蹴散らして経験値を分け合ってる。スタートはレベル1だもんね。この方が効率が良い。
強化版ツノウサギを軽く倒せるくらいになるまでは、こうして過保護に育てる方針だとか。
「ああっ! 白オオカミ! あっちをテイムしたかった……」
「リクくんに失礼でしょ。それに、あっちは他の人の子だよ」
だって、見慣れたハンカチを首に巻いてるし。
やっぱり、コーデリアさんだ!
「珍しいな、引き籠もりが森にいるなんて」
「ロックさんは、コーデリアさんの付き添い?」
「この二人じゃ、前衛がいないからな」
おお、ルフィーアさんもいた。コーデリアさんも白オオカミくんのレベル上げかな?
「そうだよ! シトリンにも、ロボくんをお披露目できた!」
「狼王とは大きく出た。親バカ丸出し」
「いいじゃない。私とともに育っていく子なんだから」
「で、そっちの連れの美人さんは何者?」
少しデレながら、ロックさん。
二人しかいないはずの『シトリン工房』メンバーだし、リコちゃんが急に育つわけ無いもんね。同じサングラスかけていても、妖精とエルフじゃ見栄えが違う。美人さんであることは隠しようがないんだなぁ……。
「ナツヒメさんといって、エルフの魔導士にして……私のリアルの姉です」
「どうも、妹がいつもお世話かけてます」
「その挨拶!」
「だって、評判を聞くに、あなたがみんなを振り回してるとしか思えないもん」
「あ、どうも。主に振り回されてる鍛冶屋です」
「その恩恵に預かってる爆炎魔道士」
「ちゃっかり経験値タダ貰いのガーデン娘兼テイマーです」
どういう自己紹介よ!
まあ、名前は頭の上にでてるし、立ち位置がわかりやすいといえば、わかりやすいけどさ。
駄目だ、夏姫ちゃん含めて、笑っちゃって話が進まないや。
「それはともかく! 手持ちに皮もあるから、ロボくんとリクくんの首輪を作ってあげようか?」
「いいの? 後で頼むつもりでいたけど」
「絶対作ることになると思っていたから、構わないよ。欲しいのは敏速かな? それとも攻撃力?」
「え? 皮の首輪でバフかかるの?」
「前に自分の革鎧で試したの。金属プレートをつけると、魔法陣強化可能だよ」
「そういうことを試すから、妖精さん恐怖症の人が増えるんだって……」
呆れないでよ、夏姫ちゃん。
それはか弱い妖精さんが、生き残るための知恵なんだから。
「でも、意識しないと魔法陣は発動しないんじゃなかったっけ?」
「首輪の内側につけて、常に肌と触れてればオッケーだよ?」
「本当にいろいろ裏技を試してるし……」
「えへへへ。何色の首輪にする?」
ロボくん用が赤で、リクくん用は緑ね。
この為に、シフォンの所から分けてもらった色付きの皮と、得意の真鍮材で作るよ。
どこでも工房を出して、みんながカウンターでダベってる間にチョチョイのちょいと。
敏速+1にHPの1割アップもおまけに付けておいたからね。
生き延びるんだよ、二匹とも。
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