第五章 錬金術を紐解く引き籠もり妖精
風立ちぬ。読書の秋の妖精さん
「お帰り~! どう、楽しかった?」
5日ほどのイベントストーリー体験ツアーから帰ってきた、リコちゃんを迎える。
おぉ、その満面の笑顔を見れば、何も言わなくてもわかるよ。
「楽しかったです! 私もルフィーアさんと一緒で、カメさんに守ってもらいながら魔法を撃ったんですよ!」
「あっという間に、このあたりで戦えるレベル。育った」
うんうん。あの泉を守る戦いは、印象的だよね。
攻略のヒントを貰った各ギルドが次々とクリアし始めて、最近はリコちゃん同様に、イベントストーリーを体験するツアーが流行ってる。
クリアするには力不足の新人さんたちもストーリーを楽しめて、既にクリア済みの勇者たちは、更なるレベル上げと報酬ゲット。
ついでに新入ギルド員勧誘も狙える、美味しい企画らしいです。
「クリア報酬は、私はこれをもらいました」
と差し出したのは『氷雪魔法陣大全』。氷系の魔法陣を集めた本だね。
リコちゃんに、そっと耳打ち。
「全ページ、SSを撮って、その画像を池上先生に渡して、攻略本を補強しようね」
リコちゃんも、ちゃんと悪い笑顔をするようになりました。
それから、ハーピィさんに教わって、呪歌を何曲か耳コピしてきたらしい。
出来すぎですよ、あなたは。
あまりはしゃぐとバイタルが上がって、アクセス禁止されちゃうから、落ち着こう。
リコちゃんをエスコートしてくれたのは、私たちのパーティーから、コーデリアさんとシフォンを抜いて、
メンテは明日からだけど、さすがにルフィーア砲は封印せざるを得ず、封印止まりです。
「シトリンさんは何をしてましたか?」
「ミシンの部品が上がってきたので、3台ほど組んでいたのと、錬金術のお勉強。錬金術もなかなかお面白そうです」
「どんな感じなの? あまり進めてる人見ないけど……」
「まだ、大雑把なイメージだけど……いろいろな材料を混ぜて、別のものを作る感じ? 最終的には、オリハルコンとかも作ることができそうな雰囲気かも」
「また、怖い話を……」
「そんな所までは当分行きそうにないです。せいぜい、魔力の伝達性をアップするとか、その程度までしか解んないもん」
「早く作れるようになって、材料を俺の所に回してくれ」
「やめなさいって。また運営に、妖精さん恐怖症の人が増えるから」
あぁ……公式サイトの運営さんブログに、そんなネタがあったね。
どうも、今は討伐できるはずのない魔神を、討伐しちゃったみたいで……。
ルフィーア砲のムービーまで添えられてたよ。
違反の晒し上げというより、凄いもの作ったねっていうノリで。
「でも、リコちゃんたちの帰還が間に合って良かったよ。明日からメンテに入っちゃうから、『約束の場所』に置いてけぼりは可愛そうだもん」
「ルフィーアもいたから、運営さんとしてはメンテ明けに挑んで欲しかったかも知れませんね。また、アレを使われるんじゃないかと、気が気じゃなかったでしょう」
「さすがにお達しがあったら、使わない。二度目は本は出ないし……」
「本音が漏れてるぞ、おい」
そう、明日から三日間のメンテに入るんだ。
遊べないのは辛いけど、魔法陣重ねがけ禁止処理だけでなく、特にコーデリアさん待望のテイマースキルの実装と、3次ロットの新規プレイヤーを迎えることになってます。
更に、その後のアップデート内容も公開されていて、ヒュンメルの町近辺と、王都に新たにダンジョンが設置されるのだとか。
腕自慢の戦闘職の人たちの、ストレス発散の場になる事請け合いです。
「頭を使いすぎるストーリークエストの後は、何も考えずにダンジョンハックさせとくのが一番だろ?」
とは、生産職のはずのロックさんの弁。
まあ、非力な妖精さんには縁のない場所です。今のストーリー体験ツアーのブームが一段落した頃には、ちょうど良い力試しかも。
何か良い素材が出るようなら、依頼して取ってきて貰おう。
「宝箱も開けたことのない斥候が、何言ってる?」
「ミミック恐いもん。食べられちゃう」
「あぁ……妖精サイズだと、パクっと一口だな」
「だから、私はダンジョンには潜りません。宝箱にも近寄らないよ」
「……そんなフラグ立ててると、また今回みたいに」
「やめてってば。私は引き籠もって錬金術を学びます。もう全ページSS撮影済みだから、メンテ中も予習できるもん」
「任せた。シトリンの知恵がウチのギルドの底力」
「変に知恵つけると、またとんでもないもの作って、妖精さん恐怖症患者を増やすぞ」
「それは知恵をつけなくても同じ。シトリンはそういう娘」
酷いよ、ルフィーアさん。
ついでにルフィーアさんから頼まれていた、ミモザさん用の魔杖『キラキラスティック』が完成したので渡しておく。秘剣『白鳥の湖』の応用で、魔力を込めるとキラキラと光るよ! 妖精サイズでも目立つよ。存在感あるよ。
ミモザさんに渡すタイミングは、ルフィーアさんにお任せ。
本当に優しいんだか、意地悪なんだか。
そんな他愛のないお喋りも、メンテ中はできなくなっちゃう。
私のお友達は、映画の配信や『錬金術大全』のSS画像を見せてくれるタブレットと、篠原ナースと、たまに来てくれる池上先生だけです。
リコちゃんと二人、可愛くお願いした甲斐があって、三日間の遅すぎる夏休みをフルにそれで潰した池上先生は、無事に『氷雪魔法陣』も攻略本に加えてくれた。
『錬金術』も面白く読んでるそうだけど、こっちはまだ形になってません。
もうFFOのプレイヤーになっちゃえよ! と思うけど、若手のお医者様は人使い荒く使われるので、緊急連絡対応ができないと拙いそうな。
私とリコちゃんの楽しそうなリアクションで、お腹いっぱいらしい。
退屈してると噂のリコちゃんに、篠原さん経由で書籍の『FFOプレイヤーズガイド』を貸してあげたりしながら、三日間をやり過ごす。
そして、やっとメンテ明けだぁ~っ!
午前10時のメンテ終了後も、致命的なバグは出ていないみたいで、メンテ延長はなし。
みんなに遅れること3時間で、久々にFFOの世界へ。
とは言っても、いつものウチのお店の私の部屋なんだけどね。
「おかえり~」
ログインするなり、歓迎の挨拶を受けて慌てる。
ここはプライベート設定だから、入れる人は私以外に一人しかいないのに!
ベッドに腰掛けて、水晶の結晶を愛でているのはエルフの魔導士ナツヒメさん。……って、何で
「映画の撮影も先週で終わったし、今はオフだもん。取材で学校も二時間で早退だから、もうそのままサボっちゃった」
「いいのぉ? 芸能界屈指の優等生キャラの人が」
「だって、人見知りの妹がいつの間にか、『FFO屈指の問題児』になってるんだもん。何がどうしてそうなったのか、気になるじゃない?」
「普通に遊んでるだけだもん」
「妖精さん恐怖症患者、増えてるよ?」
「何でだろうね?」
見つめ合って、大笑いする。
お守りや、改良型サングラス(ちゃんと顔の丸みにも対応したよ!)、ミスリルの杖とか、ずっとプレゼントしたかったものをまとめて渡す。
凄い凄いと褒めてもらえるのが、何より嬉しい。
「ストーリークリアした? まだならお手伝いさん呼んで、ツアーをするけど?」
「5日くらいかかるのは無理。入り口のコロボックルさんだけでも紹介してくれれば充分」
「いいよぉ。じゃあ、行こうか」
護身用の強化スピアを持って部屋を出る。
いつになく静かなのは、きっとコーデリアさんが森に子狼くんをテイムに行くのに付き合ってるからでしょう。リコちゃんは、ドアの隙間からちょっと覗いて、見慣れぬ誰かと一緒なのを見て引っ込んじゃった。
ごめんね、今日はリコちゃん以上のレアキャラがいるものだから。
外の気候はもう秋だ。ヒュンメルに出たので、ちょっと肌寒いくらい。
クリア前のナツヒメさんは雪景色にしか見えてないらしいけど……。あ、シフォンのブティックのダウンコート着た。夏姫ちゃんも持ってるんだ。
さて初めての佐伯家双子姉妹のお出かけ。
話したいことは、山ほどあるんだから!
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