荒唐無稽な最終兵器

 そして、最終決戦のムービーが始まる。


「最初に古き封印を解除します。再び封印できるよう、魔神の生命力を減らして下さい。私の受けた啓示によれば、赤い帯の3分の1が千切れし時に封印が始まるとのことです」

 真剣な顔でそう告げたミューちゃんが、小さな祭器に四つの守りの珠を供えて、祈りを捧げる。

 魔神を封印した氷壁が揺れ、ヒビが入り、砕け散る。

 魂を吹き飛ばすかのような咆哮を上げ、魔神が解き放たれた!


「【聖なる盾セイクリッド・シールド】!」


 タイミングバッチリのザビエルさんの張った魔法の盾が、まず魔神の氷のブレスを弾き返した。


「シトリン、例のものをお願い」

「回収はいつでも使えるように、ルフィーアさんがよろしく」


 私は、収納から、ミスリル製の巨大な筒を引っ張り出す。

 そして、魔神に狙いを定める。固定台の魔法陣に魔力を流して、物を地面に固定した。


「おいおい、マジでそれを使う気かよ!」

「怪獣退治みたいなものだから、使い時でしょ?」


 自分で砲塔を作っておいて、何を今更ロックさん。

 そう、前にきゅうさんとの会話の中で、冗談のように話していた、ビーム砲こと、ルフィーア砲だ。

 なんとなくいけそうな気がしたから、本当に作ってみたんだよね。

 激闘を続ける戦闘メンバーを他所に、私は砲の3つの増幅の魔法陣に魔力を注ぐ。

 この筒越しに、ルフィーアさんに最大の爆炎魔法を使ってもらって、増幅の魔法陣でパワーアップして3倍の威力でぶつけるのがルフィーア砲の原理です。

 だ、だから戦闘班の人。呆れ顔でこっちを見てないで、真面目に戦ってくださいね?


「なるほど、本当に面白いことを考える人ですね」

「面白すぎて、次は何を作るのかクセになるよ」


 見事に鱗を貫いて、ボワッと炎を上げた矢を射つつ、北味きたみさんが笑う。

 Blue Wind さんも、魔神の剣をシールドで受けながら、そんな事を言ってるし。

 更にロックさんもハンマーを魔神の膝に叩きつけ、楽しげに笑う。


「毎度毎度付き合わされる方は、度肝を抜かれっぱなしだけどな」

「ロックさんが唯一、一方的に振り回される相手ですから」


 エクレールさんまで、そんな事を言うし!

 既に一度戦って勝っているエクレールさんのリズムに合わせての、前衛の波状攻撃。

 合間合間に北味さんの矢が、絶妙の牽制になってる。

 ダメージを受ける前衛たちには、何よりの回復時間稼ぎだ。

 お互いを良く知っているせいか、連携が絶妙だよ。

 まったく、魔神に付け入る隙を与えない。


「【聖なる盾セイクリッド・シールド】!」


 HPゲージがグリーンからイエローに切り替わった瞬間、再び光の盾が張られる。

 二度目のブレスも、カキーンと。

 グングンとまではいかないが、ジワジワと順調に魔神のHPを減らしている。

 黄色のゲージが半分になった時、ついにルフィーアさんが呪文の詠唱に入った。

 ロックさんのハンマーが、魔神の右膝を叩き壊して、跪かせる。

 ここまで来れば、もう押せ押せだ。


「ただ見てるだけじゃ、申し訳ない気がするよ」

「何言ってるの? みんなの使ってる武器は、ほとんどシトリンさんの作じゃない。何もしてないのは、私だよ……」


 私の呟きをコーデリアさんは拾ってくれる。

 こうして見てるだけなのも、心苦しいものです。


「【聖なる盾セイクリッド・シールド】!」


 三度目の盾が張られて、最後のブレスを弾き返す。

 エクレールさんの指示が飛ぶ。


「残りHPに気をつけてダメージを入れて下さい。ここまで来れば、あとは焦らず確実に」


 腰に一撃入れて、ロックさんが下がる。

 ワンダメージが大きいから、その方が無難と判断したみたい。

 ぐいっとポーションを一気飲み。


「よしっ! あとは任せたよ、ルフィーア!」

「【極大炎焼メガフレイム】!」


 解き放たれた魔力は炎となって、砲門を潜り抜け……ナニコレ凄い!

 ほぼ白熱化した火炎魔法は、まさにビーム砲のようになって魔神に突き刺さる。肩甲骨の下から腰のあたりまで、大穴開けて身体をぶち抜いたよ?


「シトリン、計算を間違えてる。増幅の魔法陣三つは2かける2かける2で8倍。それに杖でも増幅してるから、16倍【極大炎焼メガフレイム】だよ」


 ムフンと、得意げなドヤ顔でルフィーアさん。

 さすがに身体を真っ二つにされては、魔神さんも生きてるはずもなく……。

 驚愕の顔で崩れ落ち、ポリゴンの破片に変わった。


<ワールド・インフォメーション

 シトリン他ギルド『雷炎の傭兵団』が氷壁の魔物の撃破に初めて成功しました。

 シトリン他のメンバーには『氷壁の魔物を抹殺せし者』の称号が与えられます>


「こいつら、本当にやりやがった!」

「……有言実行」

「ルフィーアも凄いけど、シトリンさんが一番凄いっ! 全部シトリンさんの武器だよ」

「戦ったのは、みんなだもん」

「そんな大砲の存在、誰も信じてくれそうもないなぁ」

「シトリンが作ったといえば、誰も納得する。でも、ミモザには内緒。あれは、ちょっとキーッとなって、努力させるくらいがちょうど良い」

「ルフィーア……君は親切なのか意地悪なのか、わからないね」


 健闘を称え合ってると、ボス討伐のドロップアイテムが配布される。

 えっと、私のは……『錬金術大全』?


「ぐわぁ! 何で俺に『魔法大全』……」

「一応高レベル魔道士なんだから、当たり前。私も同じ」

「俺のは『剣技大全』か。……奥義みたいのがあるのかな?」

「キャーッ! 今の戦いをスタッフさんがモニターしてくれてたのかも? 『魔物馴致大全』って、嘘でしょう!」

「俺のは『弓技大全』。こっちに組み込まれてラッキーだったね」

「僕のは『神聖魔法大全』。当然ですね」

「ふぅ……再戦では、本は落ちないみたいですね。残念な検証ができました」


 エクレールさんの苦笑いで、報奨報告会は終了。

 もちろんその他のアイテム類も、一杯もらえたよ!

 でも、コーデリアさんの報奨って……マジでモニターされてた?

 肝心のテイマー技能の実装はまだだけど、コーデリアさんには何よりの報奨だ。

 何となく、みんなでお空に向かって手を振ってみる。

 スタッフの方、見てますか~。みんなで楽しんでますよ~。


「皆さん凄いです。まさか魔神を封印でなく抹殺してしまうなんて……」


 ローズピンクの瞳を真ん丸に見開いて、ミューちゃんが駆けてくる。

 ミューちゃんが一生懸命祈っていてくれたからだし、コロボックルさんや、ウンディーネさん、九尾さん、ハーピィさんを始め、この土地のみんなが頑張ってくれたおかげだよ!

 しれっと、ルフィーアさんが砲門を回収してエクレールさんを促す。


 さあ、まずは仲間たちのもとに凱旋しよう!

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