もう一人の妖精さん

 翌日、私がログインすると、『約束の場所』は、ごった返していた。

 私がいない間に、第二グループの攻略班が合流したらしい。

 私が来るまで、攻略を進めるのを待っていてくれたのが、何だか嬉しいぞ。

 感動に咽んでいたら、突然横から抱きつかれた。


「わー! シトリンさんだ。妖精仲間見っけたしぃ!」


 え? え? 同じ妖精キャラ、初めて逢ったような。

 でも、言葉遣いが……パリピなの? ギャルなの?


「そこのキャバ妖精! シトリンが固まってるから、一回離れる」


 ルフィーアさんが、摘んでペッと引き剥がす。

 凄い雑な扱いだけど、良いの?


「あれが、ウチの第2主砲のミモザ。コミュの距離感が滅茶苦茶だけど、悪い子じゃない」

「よろしく~! 気が向いたらお店にも遊びに来てね~」


 お店? 何屋さんなの?


「こらこら、シトリンは多分未成年なんだから、リアルのお店に勧誘しちゃ駄目だよ。そもそも、男性向けのお店でしょうが!」

「私はどっちでもイケる口だよ?」

「だからって、未成年をキャバクラに誘うな!」

「コーデリアも冷たいな。攻略のために休み取ってるんだから、少しは稼がせてよ」

「誘うなら、ロックさんとか誘いなさい!」

「もう誘ったし~」


 あぁ……びっくりした。色々な人がいるもんだ。

 ペンネさんが、絶対リコちゃんには近づけないと強い意志で誓ってる。うん、私も協力するよ。


「でも、同じ妖精キャラ、初めて見たよ」

「最近は結構多いのよ? 見たこと無いとしたら……」

「はいはい。私が引き籠もってるせいですね」

「自覚があってよろしい」


 ひと騒ぎ収まったのを見て、エクレールさんが声をかける。

 いよいよ、最終段階だ。

 私が到着する前に、チームの割り振りは決まっているらしい。

 うちから、シフォンとペンネさんが抜けて、Blue Wind さんと、北味きたみさんがこちらに加わる。

 エクレールさんは基本、両方に参加する形で、もしファーストアタックのチームが負けたら、ルフィーアさんも加えて火力アップの方針でいくらしい。


「じゃあ、シトリン。最初にデータ取ってくるわね」

「頑張って!」

「さすがに私の火力じゃ、中衛止まりよ。その分、弱点とか見てくるわ」

「ミモザ、火力不足なら、私を待つ」

「大丈夫だしぃ? もうルフィーア追い越しちゃってるかも?」

「言うだけ成果期待してる。行ってこい」

「任せるしぃ!」


 ミューちゃんを連れて、氷壁の前に。

 そして、突然、見えなくなった。


「始まったね……」

「負けないで欲しいけど……」

「大丈夫だよ、ミューちゃんもいるし」

「信頼してるのが、ミューちゃんかい!」


 軽くコーデリアさんに突っ込まれる。

 あまり、攻略組の戦力を知らないからなぁ。


「さて、こっちはどう戦う? シトリンは今回は守られキャラで良いのか?」

「うん。無理をしてもしょうがないよ。あまり戦闘向きじゃないんだから」

「だったら、シトリンさん。北味さんに矢を貸してもらえないかな? 多分シトリン製の矢の方が強力な気がする」


 Blue Wind さんの申し出に、北味さんが会釈する。

 なるほど、ロングボウを背負ってる。エルフの弓キャラですね。

 どうぞどうぞ、各種属性付加の矢が揃ってますよ。私より効果的に使ってくれそう。

 アイテムウインドウを開いて、まとめてぽいっと渡す。


「あ……本当に、一回り強力だ」

「ラグも頑張ってるけど、まだまだシトリンさんの域じゃないからね」

「この矢なら、無印から△くらいの働きに昇格できそうだ」

「いや、競馬に例えられても、女子たちわからないだろ?」


 そうか、今のは競馬の話だったのか。……言われて気づく程度の知識だよ。

 エルフキャラらしからぬ名前も、競馬由来なのかな?

 フォーメーションは、前衛は左からロックさん、ブルさん、エクレールさん。

 中衛は、ザビエルさん、北味さん。後衛にルフィーアさん、私、コーデリアさんの布陣。

 あとは第一陣の結果と報告次第です。

 誰もいない氷壁をじっと見つめていると、いきなりファンファーレが鳴った。


<ワールド・インフォメーション

 エラン他ギルド『雷炎の傭兵団』が氷壁の魔物の封印に初めて成功しました。

 エラン他のメンバーには『氷壁の魔物を封印せし者』の称号が与えられます>


 わぁっと歓声が上がり、拍手をしていると第一陣のメンバーが帰ってきた。

 みんな誇らしげ。少し照れてる感じなのが、ストーリーを辿り直す為に連れて来られたエランくんなのかな?

 ワールド・インフォメーションに名前が出ると、誇らし恥ずかしだよね。


「さすが、お見事!」

「なんとか、封印できました。戦力は想定通りでいけますね」

「ミモザ。封印止まりは情けない」

「ルフィーア、キツイしぃ! あの残りヒットポイント全部削るのは無理だしぃ! 先に封印が始まっちゃうしぃ!」

「じゃあ、格の違いを見せてあげる」


 すっと立ち上がって、二人の魔道士が睨み合う。

 ルフィーアさんの強気の理由を知ってるのは、私とロックさんだけだろう。

 苦笑しながら、ペンネさんがとりなす。


「ルフィーアちゃんも、少し待ってあげて。さすがに連戦では、エクレールさんが可哀想でしょ」

「ポーションを飲む時間くらいは、待ってくれると助かります」


 飲む時間どころか、しっかり効果が出るまで待ちますよ。

 その間、第一陣が貰ったボスのドロップ報酬を見せてもらう。

『氷雪魔法大全』とか、『寒冷地食材図鑑』とか、知識系の本がよく出てる。

 ストーリークリア後は、色々なスキルで新エリアを楽しんでね? っていうことかな。

 私か、ロックさんかのどちらかで、氷結鋼の謎も分かる本がもらえるといいのに。


「お待たせしました。では、参りましょう」


 エクレールさんに促され、第二陣が立ち上がる。

 さすがにちょっと緊張するよ。


「ルフィーア、大見得切って大丈夫?」

「任せて。初撃破の報酬も『雷炎』で貰う」

「なら、信じるけど。……面倒なのは氷のブレス。開始時と、三段あるHPゲージの切り替わりで吐いてくるので、ザビエルさんはそのタイミングでシールドをよろしく」

「了解。そのあたりで回復の必要があれば各自ポーションでお願いします」

「敵は羽根はあるけど飛ぶ気配はなかったので、ロックさんは膝狙い中心で」

「おうよ。でも膝をやられたら、さすがに飛ばないか?」

「初回は飛びませんでした。そして、最後の赤いHPゲージが3分の2になると、封印イベントが始まります。その近くに来たら、あとは攻撃せずにルフィーア任せで」

「3分の2は結構な量じゃないですか?」

「大丈夫。秘密兵器があるから」

「信じるよ、ルフィーア」

「シトリン製って言うと、信頼度が上がるでしょ?」

「確かに!」


 そして、私たちは氷壁の前に立った。

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