約束の場所で……

「さて、そろそろ逢いに行きますか……」


 ハーピィさんたちの姿も見えなくなると、エクレールさんがみんなを促した。

 太陽の巫女がいる、約束の場所がどこかは聞いていない。

 でも、わかってしまう。

 さっきからずっと、暖かな波動に包まれているから。


「似たような場所で待っていても、やっぱりハーピィよりは巫女さんの方が萌えるな」

「ええ、お世話になったとはいえ……」


 ロックさんと、ザビエルさんの本音に女性陣から「ちょっと男子ーっ」と言いたげな視線が飛ぶ。まあ、気持ちはわからないでもないけど。

 鳥さんたちが囚われていた、岩穴を進んでいく。

 岩穴の中は鳥さんたちの羽だらけ。うん、こんな狭くて暗い所にいたら、ストレスが溜まるよね。

 暖かな波動にいざなわれるままに、どんどん奥へと進んでいく。

 その奥には、緩やかな螺旋を描く石の階段があった。


「え~っ。歩幅を強制される階段より、スロープの方が歩きやすいのに……」

「腿上げ効果のある階段の方が、ダイエットには効果的」

「そっか! よし……頑張る」


 不平を漏らすコーデリアさんを、あっさりルフィーアさんがいなした。

 でも、VRゲーム中の運動って、効果無いよね? 本体はゴロ寝してるだけだよね?

 シフォンとペンネさんは肩を竦め、ルフィーアさんは知らん顔。

 まあ、その気にさせておいた方が罪はないかも。

 でも、この階段、長いよ……。まさか頂上まで続くんじゃ?

 結局、頂上のすぐ下辺りまで続いてたよ。


 そして、そこに彼女はいた。

 別の世界なら、白魔道士のシ○マちゃんみたいな服装で。


 む。当然のようにムービーが入るのね。

 天穴から差し込む光の中、目を閉じて祈る少女。

 ゆっくり目を開けて、こちらを振り返る。


「お待ちしておりました。『魔を封印する者たち』よ……」


 そして、微笑む。


 ……いいなぁ、ヒロイン。可愛さを演出してもらえて。

 夏姫ちゃんといい、この娘といい、羨ましいぞ。


 みんなして、突然のムービーにポカンと見とれていたら、どう動いていいのか解らなくてテレテレしてるよ。

 ムービーより、こっちの反応の方が可愛いじゃないか。


「ええっと、領主のお嬢さんですよね?」

「で、太陽の巫女さん修行中とか」

「あ……はい。ミューロゥと申します。修行は成ったと思います」

「良かったねぇ。こんな所にいて、お腹空いてない?」

「お前ら、遠慮がなさすぎだろう!」


 なんとなく、反応がリコちゃんっぽかったものだから、みんなして怒涛のオカン状態になってしまった。

 そんな雑な対応をしていたら、やっぱりお腹が空いていたらしく、ク~とお腹を鳴らして、恥ずかしそうに苦笑する。

 それじゃあ、しょうがないよね?


 私はいつもの、どこでも作業場を出して、カウンターの前に椅子を並べる。

 ホラホラと、ミューちゃんを座らせて、ペンネさんがずらりとスウィーツを並べる。マグに熱々のホットレモンを添えて、はいどうぞ。


「で、でも……あの、封印とか……いいんですか?」

「腹が減っては戦もできない。準備は万端、整える」

「それに私たちも、後発のチームを待って、戦力を整えなければならないのよ」

「あ、そうなんですか? では、遠慮なく頂きます」


 NPCはあまりご存知ないかも知れないけど、ラスボス戦前のセーブは、プレイヤーの常識だぞ。

『太陽の巫女』こと、ミューちゃんがケーキをパクついている間に、私も気になるものを確かめよう。

 実は、中ボス戦で、ずっとドロップが続いているアイスロック鉱石。

 これを四つ揃えて、精製してみる。

 できたのは……氷結鋼のインゴッドだ。

 やはり気になるのか、ロックさんも覗き込んでる。


「氷結鋼か……初めて聞く名前だな?」

「鉱石のままだと、区分は『魔鉱石』。精製したら『魔鉄鋼』になったよ」

「お前さんでも、初耳か?」

「うん。イメージ的に氷属性の有りそうな鋼だけど、このままだと魔力はないね」

「そいつで武器を仕立ててみたいが、ここには炉がねえんだよなぁ……」

「「うーん」」


 冷ややかな輝きを放つインゴッドを見つめて、二人でため息。

 精製してみたけど、謎が謎を呼んだだけだったね。

 街に戻ってから出ないと、どうにもならないや。

 せっかくだから、ロックさんのハンマーに敏速の魔法陣を刻んであげる。

 これで多少は当たりやすくなるはず。


 私もついでに、ボウガンに挫折したから、何か使える武器でも考えよう。

 バズーカ砲とか作ったら、妖精サイズでも銃弾くらいの弾が打てそうな気がする。

 いっそのこと、ビームでも撃って『反射妖精砲』でも作るか……って駄洒落てる場合じゃないね。

 多分、と戦うことになるんだろうし……。


 氷壁の中で蠢いている巨大な影をチラリと見る。

 首だけ見たら、金色の龍だよね?

 首が三つあっても不思議はないデザインだけど、ひとつで、身体は羽根と尻尾こそあるけど、直立の人間型だ。デカいけど。


「魔神っぽいかしら?」

「魔神ですね」

「これがラスボスよね?」

「恐らくは……」


 そんな事を言い合いながら、しげしげとラスボス(予定)を観察するという、ちょっと間抜けな事態になっている。

 あの着込んでいる鎧の下は、やっぱり鱗があるんだろうなぁ。

 あの鱗は硬そうだから、とても私のボウガンごときじゃ撃ち抜けそうにない。

 私が接近戦をしても、迷惑をかけるだけだろうし。せめて、牽制くらい……と思うんだけどね。

 う~ん……。


「こんな所に一人でいて、寂しくなかった?」


 悩んでいると、ミューちゃんを労るペンネさんの声が聞こえた。


「最初は寂しかったし……怖かったです。真っ暗だし、寒いし、氷の中に恐いのいるし……。でも、途中から地面が、水が、樹々が私を励ましてくれる。そんな感じがしてきたから、私は一人じゃないんだなぁって」

「そうなんだ……」

「そしてさっき、鳥たちの歌を聞いて勇気づけられたんです。私は私のできること……ううん、しなければならないことをできる限りの力ですれば良いんだって。

 私がするべきことは、大地や、水、樹々、そして風が貸してくれる力をまとめて、脅かすものを封じる手伝いをすれば良いんだってわかったんです」


 ……そうだね、ミューちゃん。

 できそうもない事をしようと考えても、無理があるよね。

 私は物作りの妖精さんであって、戦う妖精さんじゃないもん。

 それができる人に力を貸すのが、私の本分じゃないか。

 決めた。ボス戦の私は、守られる人に甘んじよう。

 その代わり……。

 私はキラキラ~っと飛んで、ルフィーアさんの肩に着地した。

 そして、耳元に内緒話。


「ねえ、ルフィーアさん。対ボス専用の決戦兵器があるんだけど……使う?」

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