仲良くしましょうよ!

 たらのマヨネーズ蒸しは美味しい。

 鱈の切り身の片面にマヨネーズを塗って、そこに青海苔を散らして蒸してあるの。

 淡白な鱈に、マヨネーズのコクと青海苔の塩気が絶妙なの。

 電子レンジでチンして作るらしい。

 私があまりにも美味しそうに食べてるから、「ダイエット食になるのでは?」とレシピを教わった夏姫なつきちゃんが言ってた。


 その幸せのままにログインしたら、コロボックル集落の雰囲気が変わってた。


 生産職のトップの集合体だからね。

 ペンネさんは、レシピ交換をしてスイーツをずらりと並べてるし

 コーデリアさんは、作物の種や肥料を交換していろいろやってる。

 シフォンは、新たなファッションムーブメントを起こそうとしてるし

 ザビエルさんは家の修復作業を手伝ってる。

 ロックさんは武器を打ち、エクレールさんとルフィーアさんは、子どもたちに稽古をつけてる。

 このメンバーを一日放って置いたら、まあこうなるよ。

 すっかり仲の良くなったメンバーは、コロボックル集落の前で吹くとコロボックルを呼べる『コロボックルの笛』を貰った。

 あとで私もお店で吹くと、店員のアンたちが気づいてくれる笛を作って渡そう。

 手持ちにはないけど、使える品がシトリン工房には一杯あるよ!


「じゃあ、また来るからね~」


 そう言って別れるのは、きっと社交辞令じゃない。

 根っからの生産好きな連中が、こんな異文化集落を一度の訪問で済ますわけがないじゃないか。私も来るし、ロップさんたちにも来て欲しいぞ。

 妖精サイズのみんなは新鮮だったのに、集落を出たら魔法が切れて元の大きさに戻っちゃう。つまらない。

 外に出たら、まだイベント乱戦中です。


「ストレスと自分への嫌気が溜まってるから、一掃して良い?」

「NPCとはいえ、味方を巻き込んじゃ駄目だよ」

「ニャンコの杖を使うから」

「……私も、自己嫌悪が溜まってるんですけどね」

「じゃあ、いきま~す! 【火球爆発ファイアボール】!」


 ルフィーアさんの魔杖『まねきニャンコの杖』から放たれた、戦場いっぱいに広がる大爆発は、器用に味方を避けて、雪ゴブや雪オオカミだけを完全に屠り去った。


「あぁ……すっきりした」

「ずるいよ、ルフィーア。……次は私が行く」


 第二エリアに入った途端に、今度はエクレールさんが駆け出す。

 たちまち巻き起こる、目も眩むような雷光。『魔剣ライトニング』の太刀筋だ。

 我ながら、派手な魔剣を作っちゃったね。


「すみません。我々ばかりが暴れちゃって。いろいろ思うことがあって、ひと暴れせずにはいられなくて」


 エクレールさんが悪びれずに、肩を竦めて謝る。

 こんな序盤からミスリードを誘う、運営さんが意地悪なんだよ。

 そして、表情を引き締めた。


「この先はエリアボス戦です。敵はアイスオーガとアイスウルフ4体。……アイスオーガは自動回復が有るので、長丁場になります。くれぐれも安全第一で。ザビエルさんは、先手先手での回復をお願いします」

「やっと神官らしいことができるかな?」

「オオカミくんたちは、私が倒すから。みんなは初手から、オーガでよろしく」

「……では、行きます!」


 飛び込んだら、動けないよ!

 なんで? と思ったら、イベントシーンみたいだよ?

 何で、エクレールさんたちが驚いてるかな?


「いえ……前回は何もなく戦ってました」

「うんうん」


 一天俄に掻き曇り、もの凄い吹雪が来たよ。

 その吹雪を遮るように立ち上がる3メートル位の巨大な影、アイスオーガ。

 ガオ~と吠えると、配下のアイスウルフたちが集まってくる。

 睨み合うと、突然勝手に私の身体が動いてる! 懐から『大地の守り』を取り出して天に捧げてますよ、私。

 すると、黒雲と吹雪が消え、青空と太陽が!

 戦闘開始だ。


 ルフィーアさんのホーミングミサイルならぬ、追尾型【炎槍ファイアランス】が4本放たれ、逃げ惑うアイスウルフたちを撃破する。

 アイスオーガは、シフォンのファーストアタックの突きを難なく躱し、その華奢な背に巨大な棍棒を叩き込もうとする。

 間一髪、カウンターでロックさんのハンマーが、棍棒と相打ちのように弾き合う。

 その隙をついたエクレールさんの切っ先が、左肩を掠めた。

 派手な火花とともに、左肩から血が吹き出す。その傷口が、塞がらない。


「ん? 自己再生が無い?」

「メインルートの強みかね? それとも、『大地の守り』の加護か?」

「多分後ろの方。前回の戦いは吹雪の中だもん」

「コロボックル様々だな」


 自己再生が無くても、アイスオーガは硬い。

 それに体力も有るから、ルフィーアさんの大火力も、長呪文を狙われるので投入できない。

 私も、牽制くらいにはなるかと、爪楊枝扱いされてるボウガンを打つよ。

 目を狙ってるんだけど、腕で庇われちゃう。本当にワンアクション遅らせることしか出来てないよ。残念。

 でも、よくこんなの自動回復付きで倒したねぇ?


「時間さえかければ。なんとかなるものです」

「ウチは、シトリン製の魔剣と魔杖のある分、少し楽だった」

「ひょっとして中ボス四人全員、自動回復を無くせるんじゃないかと気づいたんだけど」

「その予感は、きっと正しい。……いらない苦労、経験値の元」

「変な標語を作らないでね。ルフィーア」


 そんな無駄口を、叩けるくらいの余裕が出てきた。

 エクレールさんの剣が手首を襲って、棍棒を落とさせる。

 オーガの脳天に、まともにロックさんのハンマーがドカンと。

 そして最後は、いつものようにルフィーアさんの爆炎でこんがりと。

 大して戦力にもなってないのに、経験値ドッサリでのレベルアップは申し訳ない。

 よし、エリア開放だよ!

 ドロップアイテムのアイスロックって何だろう?

 鑑定してみると、魔鉱石……う~む。

 念のために、へたり込んでいる兵隊さんの話を聞く。

 なるほど、泉に行った兵士を心配する声ばかりだ。


「この後はどうします? シトリンさん」

「う~ん……人の情報だと泉なんだけど……。いろいろ事情に通じてる妖精さんたちの情報に沿った方が良さそうかも。コロボックルさんを連れて、お城に行ってみたい」

「そうね、完全放置の『太陽の巫女』の情報も欲しいわ」


 もう一度コロボックル集落に戻って、エリア開放を報告しました。

 歓喜に湧く中、ロップさんを伴ってフィンメルの街へ向かうよ。

 ルフィーアさんの懐炉と化してる私を見習ったのか、ロップさんは名前の似てるロックさんのポッケに入って、運んでもらってます。

 その方が速いんだから仕方がない。

 ロックさんの渋い顔は、尊い犠牲。


「コロボックル集落の代表の方をお連れしたのですが、領主様と会えませんか?」


 お城の門番さんに、ロップさんを見せて問いかけると、慌てて連絡に走ります。

 さすがメインルート。すぐに門が開いて迎え入れてくれました。

 謁見室で、我々を迎えてくれたのは……ムービーに出てきたお爺さんだ。


「おぉ……確かにコロボックル殿……伝説は真だったのか……」

「伝説にしてるのは人族だけだぞ。他の種族はちゃんと盟約に従って動いている」

「すまなんだ……忘れていた人族だが、ご神託もあって動いているよ。我が末娘が、突然『私が太陽の巫女になる』と宣言して、何処かへ行ってしまった」

「心配するな。『約束の場所』は魔を近づけない。すべての盟約を果たして、魔を封印すれば無事に戻ってくるよ」

「だが……魔を封印できる者たちはいるのだろうか?」

「いるさ、ここに」


 ロックさんの掌に乗ったロップさんは、胸を張って私たちを振り仰いだ。


「魔の四将の一人を倒して、コロボックル集落を開放した人族と妖精が、ここにいる」

「おぉ……人族にも、まだ希望が残っていたのか」


 そこで初めて私達を見た領主様が、微笑みを浮かべる。

 ここはカッコつけていい場面だよね。私は懐炉状態だけど……。


「俺はもう少し、人族の領主と話していく。お前たちは、ウンディーネの様子を見てきてくれないか? 水の穢れを見る限り、彼女たちが心配だ」

「わかりました」


 このイベントはここまでと、城を後にする。

 ふむ、人族ルートでも、妖精ルートでも、次は泉になるのか……。

 泉の場所は、エクレールさんが知ってるので案内してもらう。

 泉というよりは、湖に近い大きさだね。


「前に来た時はどうだったの?」

「いきなり、攻撃。ヒュドラにケルピー。絶対に殺る気できてた」

「今回は、コロボックルさんの笛を吹いて、『大地の守り』を見せながら行ったら、どうかしら? 少しは反応が違うかも知れないわ」


 ペンネさんの提案に乗って、ピーピーと時代劇の捕物状態で泉に近づく。

 なのになぜ?

 水面を割ってヒュドラに、ケルピーが三つって、絶対に殺る気だよ!

 

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