コロボックルさんの事情
「コロボックルの集落なんて、あったんだ……」
「どうやら、私たちは外れルートを進んでたみたいだね」
どうせ自動で続いている戦闘は放って置いて、コロボックル1の勇士(自称)のロップに付いて行って、コロボックル集落に来てみた。
話しづらいからと、みんな魔法で妖精さんサイズになってるよ!
泉の畔の黄色いキノコの陰。
確かめる為にパーティーを外れてみたエクレールさんによると、エリア解放後でも確かにそこにあるらしい。
「力押しだけでは、駄目だということですね」
「この情報は、売るの?」
「いえ、せっかくですから全てクリアしてからにしましょう。シトリンさんのログイン時間は限られていますし、他所に一番手柄をやることもないですから」
「そうよ。せっかくなんだから、一番にストーリーを楽しみましょう?」
「賛成だ。このゲームの攻略班は、少しシトリン流を学んだ方が良いんじゃないか?」
「そのようです……」
集落に住むコロボックルたちは30人ほど。
そういえば、念のためにギルドや錬金術学校の本で読んだ博物誌では、コロボックルは絶滅危惧種扱いになっていたのを思い出す。
「俺たちの声は小さすぎるせいか、人間たちに届きづらいからな。段々と、お互いに関わらないようになっていたんだ」
「でも、あんな戦いの中にいたら、気づかずに、味方に踏み潰されちゃうよ?」
「だからって、人間たちが戦ってくれているのに、我らが戦わないわけにもいかないだろう?」
「その心意気は立派ですが、味方であると認識されていないと不自由ですよ」
「味方と言えるほど、大した戦力ではないからな。……せめてもの意地だ」
「人間たちは、自分たちの畑を守ってるだけなんだよ?」
「それでも結果的に我らの畑や、泉の穢れを守ってくれているんだ」
「泉の穢れって?」
「暮らすには水が必要だ。ウンディーネたちも封じられてしまっているのか、今の泉の水は湯冷ましでもしないと飲めないからな」
湯冷ましって、一度沸かしてから冷めたのを飲むやつだよね。体調が悪いと時々飲まされるよ……。
でも、それなら……。
「こういうの、必要?」
毎度お馴染み、冷水ポットならぬ温水ポットを取り出す。
ちょっと魔力を流してあげると、たちまち湧き出すホカホカのきれいなお湯。
コロボックルさんが大騒ぎだよ?
空の水瓶を持ってきてもらって、ちょっと人助けしよう。
念の為にと持ってきた、どこでも工房を展開。蓋のサイズにステンレス板を切り出して、持ち手を作る。その底面に水の魔法陣を刻んでやれば……と、出来たよ。
今作った蓋を水瓶に乗せて、魔力を流す。
5分も待てば、8分目になるよ!
「ちょっと魔力が必要だけど、これでキレイなお水が飲み放題だよ!」
「妖精、お前凄いな!」
「他の水瓶でも使えるから、使ってね」
「これは助かる、ありがとう」
水の汚れは病気の元だもん。
快適な入院環境のないところでの病気は、よけいに辛いから。
「この恩を返すために、ますます戦いに出なければ……」
「それは控えて下さい。この戦いが済んでから、改めてコロボックルと人間の友好を取り持つから、それからにしましょう」
「だが……」
「まずは、コロボックル集落の繁栄を考えて下さい」
「確かに……この戦いで何人の戦士が、踏み潰されて果てたか……」
おーい! と、みんなで総ツッコミだ。
身体のサイズが違うのだから、ちゃんと意識して共同戦線を張らないと!
「何を言う。我々がここに暮らしていることを、人間たちが知らぬ訳がないだろう?
顔を見合わせる、エクレールさんとルフィーアさん。
正しく、こっちがメインルートだよね、これ。
ロップさん、ちょっとタイム。打ち合わせをさせて下さい。
「今の言葉に、心当たりは有るかい?」
「……完全にミスルートをしてますね。鳥たちの代表を見つけていませんし、ウンディーネと獣人は……討伐してしまってます」
「なんで? 獣人はともかく、ウンディーネは……」
「最初から、問答無用で攻撃してきたので、敵と判断せざるを得ませんでした」
「なにか行き違いがあったってことかしら?」
「恐らくは……もうこの時点で行き違ってますから」
「あの時は、このエリアを開放したあとで、生き残った兵士から泉の情報を聞いたね。今となっては、それがミスリードにしか思えない」
運営さんの意地悪。
そんな開始早々からミスリードを仕込まなくても……。
それとも、強引にルートを戻せる方法が設定されてたのかな?
それを探すより、やり直した方が早そうだけど……。
「人間たちは、そんな事も忘れているようでは、もう『太陽の巫女』はおらんのではないか?」
ちょっとロップさん。立て続けに重要なことを言わないで!
小出しにしてくれないと、エクレールさんとルフィーアさんが、マジで頭を抱えちゃってるよ……。
『太陽の巫女』……おそらく見つけてないよね?
多分、オープニングムービーで祈ってた、可愛い女の子じゃないかと思うんだけど。
逢っていないのかな? ……逢ってないみたいだね。
でも、オープニングムービーに出てるんだし。
「大丈夫だよ。知られてないだけで、『太陽の巫女』も多分どこかで受け継がれてるよ」
「……本当かの?」
「まだ逢ってないけど、きっと可愛い女の子だよ。祈ってくれてるよ」
プレイヤー故のメタ発言だけど、確信有るもん。
男性陣もきっと、魔たる敵を探すより、可愛い巫女を探す方が気合入るでしょ?
「人族は、そうも気楽に未来に希望をつなげるのだな……」
うん、そうだね。
私は妖精さんだけど。いかにも、良い事言った風なドヤ顔も許してあげよう。
やっとエクレールさんが立ち直ったかな。
「私たちは、まずこのエリアを開放すべく動きますので、まずはこの集落の守りを固めて下さい。その後に、コロボックル集落とヒュンメルの町の友好関係を結ぶべく動きましょう」
「だが、すべて人族任せというのは、コロボックルとしての矜持に関わる」
「大丈夫。すべての妖精族を代表として、私も戦うよ」
「そうか……ではシトリン。すべてのコロボックルの命運を、妖精に託そう」
ロップさんは集落の奥の神殿のような所から、琥珀色の珠を持ってきて渡してくれる。
「これは我ら一族の預かる『大地の守り』だ。魔の封印には、必要になるぞ。コロボックルの信頼の証として、お前たちにこれを託す」
アイテム来たー!
どう考えても、他の三種族からも信頼されて、『〇〇の守り』を受け取る流れだよね?
誰ですか、滅ぼしちゃった人たちは?
苦笑いでポリポリしてる攻略チームのお二人さん。
これで、もう安心してこのエリアを殲滅して、エリアボスを倒せるよ!
いざ行かん!
という所で、私のログアウトタイマーが鳴ったよ?
ここはセーフエリア? セーブできる場所?
良かった……申し訳ないけど、続きは明日だ。
十五分前だけど、残り時間じゃ何も出来ないものね。
ごめん、ロップさん。もう一日だけ待って!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます