第四章 雪国を彷徨う引き籠もり妖精
雪国に旅立つ妖精さん
「準備は万全ですか?」
防寒装備、オーケー。リコちゃんに不足材料の余剰見込みを含んだ発注数の決め方教えた。サポーターズに、リコちゃんのサポートも頼んだ。
……残念ながら、全部終えてる。行かなきゃダメかぁ。
「安心しろ、寒いのが嫌いなのは、お前だけじゃない」
なんてロックさんは言うけど、ちっとも気休めにならないよ。
鍛え方の違う人は、か弱い妖精さんを唆さないで。
もう一度ストーリーをなぞり直す為に、私をリーダーとしてパーティーを組む。
採取チームのみんなとはもう仲良しだけど……仕方ない。妖精さんは旅に出るよ!
ギルドハウスのドアを開けたら吹雪だ。
みんな、大急ぎで耐寒装備に着替える。
シフォンは、まるで宇宙をSLで旅行しそうな黒いワンピと帽子に、白いブレストアーマーで決めている。
ロックさんは、それ自体がハードレザーアーマーな、ボア付きレザーブルゾン。
ペンネさんと、コーデリアさんは、私がこの間着てたのと同じダウンコート。
エクレールさんとルフィーアさん、ザビエルさんは冒険者装備の上に毛皮のマント。
みんな格好いいね。
「で、お前のそれは何なんだ?」
ロックさんが胡散臭そうに、私のスタイルを睨めつける。
何って、ロックさんが一番見慣れてるじゃない。普通のフルプレートアーマーだよ?
顔の所は開いてるけど。
「だから、何で斥候の妖精がフルアーマーなんだ? レザーアーマーならともかく」
「私は防御力気にしないから、完全チタンで作ったよ? 凄く軽いの」
そこでピンときたらしいルフィーアさんに捕まって、懐に入れられた。
……意外に胸があるから居心地いい。
「やっぱ、温かい。ヒートプレートアーマーだね、これ」
大正解! 温度維持の魔法陣を付けたよ。手元のスイッチで、三段階に温度変更できる優れものだよ?
爆笑を覚悟で作った装備なんだけど……気まずそうに顔を見合わせる方たちが。
エクレールさんたちの鎧にも仕込みますので、出発は三十分遅れます。
痩せ我慢は良くないよね。
禁忌の部屋に入れてナイナイしていた、前回に採取ツアーで使ってた槍を持ち出すのも嫌味っぽいよね?
前にロックさんが『こいつが武器に魔法陣刻んだのは一度きりで、魔剣を作った時と合計二本しか魔法絡みの武器は作ってねえよ?』なんて、リンクさんに断言してくれたものだから、出すに出せなくて……。
ということで、今回は新たに
魔法陣付きの矢をいっぱい準備したから、少しは頑張る。
ルフィーアさんに懐炉代わりにされながら言っても、説得力に欠けるけど。
気を取り直して、新世界の起点となる領主の館に入る。
ドアを開くと……ムービーが始まった。
雪の舞う寂しい街道をひとり進む白馬の騎士。
もちろん
見上げる雪の山を覆う黒い影。影の人物が手を広げると、冷気とともに大地が凍りついてゆく。……この影の人が、みんなが探しあぐねてるラスボスさんかな?
凍りついた大地を吹雪が襲って、魔物が一緒に駆けてくる。
ここからカットバックで、曰く有りげなおじいさんとか、祈る女の子とか、ニヤリと笑う魔物とか次々と流れて……『FFOストーリーイベント 魔の棲まう氷壁』とタイトルがド~ン! と。かっこいいかも。
オープニングムービーが終わると、お城には唯一人、夏姫ちゃんが佇んでいる。
まだオープニング中だな?
「あなた方も来て下さったのですね。
ご覧の通りこのヒュンメルの街は、魔の力によって雪と氷に閉ざされてしまいました。
どうすれば、この地域を開放できるのかは、私にもわかりません。
私は、この事態を王に伝えにいかねばなりません。
どうか皆さんのお力で、この事態を解決に導いて下さい。……お願い致します」
言うだけ言って、出て行っちゃう夏姫ちゃん。ちょっと無責任ではなかろうか?
まあ、ゲームだから、プレイヤーが何とかしないとね。
夏姫ちゃんを見送って、振り返ると、みんながいた。
「氷壁というんだから、山に行けば出てくるんじゃないかな?」
「どこの氷壁よ? それにフラグが立ってないと、目の前を通り過ぎても出てくるわけ無いでしょ?」
お気楽に笑うコーデリアさんに、突っ込むルフィーアさん。仲良いなぁ。
私はキラキラ~っと、その辺にいる人達に片っ端に話を聞きまくる。RPGの常識的行動だよね?
ひたすら絶望する大臣さんたちと、農地を守る兵士たちの戦いを心配する衛兵のどちらかになってる。兵隊さんたちを助けに行くようかな?
「城内の情報では、他の動きは取れませんよね?」
エクレールさんの確認に、みんなで頷く。
情報が、農地を守って戦ってる兵隊さんだけだもん。
仕方なく雪の降る街に出る。くまなく路地を歩いて、街の人に話しかける。家の中の人はサブクエでなかったら怒るよ?
重要そうな情報は
「はるか昔、先祖たちが封じた魔物が……」
「封印が破られたのか……」
「魔物に従う四人の配下も蘇ったのだろうか……」
「太陽に祈ろう」
ザビエルさん、最後のは何?
「一応神官をやってる身として言うと、このゲームの神は太陽じゃないよ。だから、太陽に祈るっていうのは、別の意味があるんじゃないかと」
「おぉ……ひたすら太陽が恋しい私は、実感として見過ごしちゃう所だね」
「太陽に祈るようなイベントは、発生してないよね?」
「うん、どこでも祈ってない」
エクレールさんとルフィーアさんが頷き合う。
早くも要確認項目が出てきたのは良い傾向。寒い中、来た甲斐があったよ。
とりあえずは、農地に向かってダッシュだ。
「やっぱり、新規の人と来ると乱戦状態に戻るんだ……」
「とすると、兵隊さんはもちろん、戦ってるのは全部NPCか……」
「……まとめて焼いちゃダメ?」
「シトリンさんたちの行動を邪魔しないように」
襲いかかってくるのは、雪ゴブリンと雪オオカミ……ちょっと安直?
「さて、少し戦闘レベルも上げておかなくちゃね!」
そんなセリフとともに、シフォンのサーベルが雪ゴブの喉を貫く。
途端にボワッと炎ダメージが回って、一撃で葬った。
「姉妹品、秘剣『黒鳥』……シトリン製だけあって、効果はえげつないわね」
「それは、光って演奏しないのかい?」
「ネタ扱いされるのは、一度で充分よ。それを外して、炎ダメージと敏捷性プラスのを作ってもらったの」
「準備は万全ってわけだ」
そう言うロックさんも、柄の長いハンマーを振り回して狼にカウンターを食らわせてる。
ザビエルさんに実験用に作った回復重視の杖も、今はただの打撃武器だね。
私はロックさん曰く『爪楊枝』を撃っていても意味無さそうなので、戦場に目を凝らしてる。
ここも解放後は採掘ポイントらしいけど、今は採掘サインも無し。
……って、あそこの石の影から、妖精さんサイズのが弓を射てない?
味方に踏まれないように、気をつけて近づく。
「何だ、お前は? 空を飛ぶコロボックルなど見たことがないぞ?」
「私は妖精さんだよ。あなたはコロボックルさん?」
「コロボックル1の勇士ロップだ。俺たちの畑を守らなきゃな?」
「妖精のシトリンだよ。私は弱いけど、仲間の人間はとても強いよ!」
「人間に見つかると、大変なことになるぞ?」
「大丈夫だよ、みんな友達だもん」
「本当か?」
「本当だよ? ……ねえ、みんなちょっと来て!」
何があったのかと来たエクレールさんが唖然としてる。
風の壁で安全地帯を作ったルフィーアさんも同じ。
どうやら、いきなり妙なものを引き当てちゃったみたい。
「人間たち、コロボックルに悪さをしないか?」
「しないよ、ねえ?」
「もちろん、魔物以外には優しいぜ」
「コロボックルは魔物じゃないぞ! なのに最近の人間ときたら……」
戦場のど真ん中で、コロボックルが愚痴りまくってるんだけど、これは止めちゃっても良いのかな?
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