『雷炎』会議

「寒いよぉ……。私、暖房入りの鳥かご作って入ってるから、ロックさんが持ち歩いてくれると助かる」

「何でお前ばっかり、ぬくぬくとさせなきゃならねえんだ?」


 ロックさんの意地悪。

 寒さに震える、か弱い妖精さんを労ってよ。

 ここは、アップデートで広がった世界。氷の山脈の中心都市ヒュンメル。

 王都の真夏から、一気に真冬だよ~寒いよぉ~。


 王都に続いてヒュンメルにもギルドハウスを建てた『雷炎の傭兵団』。

 二つのギルドハウスは謎技術で繋がって、互いに行き来できるのです。

 それはお店でも同じことらしく、ウチのギルドはもちろん、他のギルドやソロプレイヤーからの要望もあって、我がシトリン工房と、ロックさんの工房の支店をこっちにも出して欲しいとの事。

 それで、手続きのためにヒュンメルの街を歩いてます。

 暑いのも嫌だけど、寒いのも嫌だぁ!

 どこかに常春の楽園はないの?

 つくづく入院病棟の環境の良さを、思い知る私です。


 お金的には問題ない。使うことなんて、材料の採取依頼くらいしか無いし、それすら製品化すれば、倍以上の額で返ってくる。増える一方だもん。

 ギルドハウスのなるべく近くに、店舗を買った。

 これで謎技術でお店が繋がり、こちらの店舗に入っても王都の店に入店し、同じ出口から出ても、ヒュンメルの店から出るらしい。

 看板だけ付けておいて、お店の建物は後でザビエルさんが同じのをこっちにも建ててくれるそうです。

 中央の魔法陣で、支店設定をして……オーケー!

 終わった終わった。

 私に温もりをプリーズ!


 でも、ギルドハウスに戻るといきなり暑い……。

 慌てて、シフォンに作ってもらった、ダウンのコートをかなぐり捨てる。


「お疲れ様。お二人の店はリクエストが多いので、お願いさせていただきました。体調は大丈夫?」

「どこかの引き籠もり妖精とは、鍛え方が違うぜ」


 エクレールさんの労いに、ロックさんがニヤリと笑う。

 冷風扇にしがみついてる私と、偉い違いだ。

 いずれ、このゾーンのアイテム探しにも駆り出されるだろうから、なにか寒さ対策を考えなきゃいけないね。


「まずはお互いの進行状況について、情報交換をしておこうか」


 攻略班は、順調にエリアを開放しているものの、今回はストーリーがあるらしい。

 それに合わせて、行ったり戻ったり、隠しエリアもあったりで、苦労をしているそうな。

 今回もちょうどヒュンメルでのストーリーイベントがあったので、戻ってきたついでに会議を開いたのだとか。

 中ボスのドロップで『応用魔法陣』の本が出たことから、私を驚かせようと、内緒にしてくれてたのに。……既に私が持ってるどころか、それを含む魔法陣攻略本を見せられて、微妙な表情になってしまったのは、申し訳ない。

 全開放後、アイテム探し要員は強制的に。それ以外は希望者がいれば、添乗してストーリーを体験させてくれるそうです。リコちゃんを連れて行ってあげて!


 王都組からは、新人加入の詳細とシトリン工房ヘルパーズの件。それと、リコちゃん。

 イベントでの私の剣に触発されての、魔法陣研究の活発化。

 宝石からの魔力発生原理と、魔力電池製作等その利用法の調査結果。

 そして、帰還スクロールの完成と、ルフィーアさんの杖を試作しての実験協力依頼。

 ……新人以外は、ほとんど私案件だね。


「スクロールは、今のところ帰還のみ?」

「石とのマッチングがありますから、必要な魔法陣を作ってから石選びをする方が効率が良いです。他に欲しい物が有れば、要望に合わせて、何とかできるものは何とかします」


 まだ『上級魔法陣』の本が公開されてないから、無理なものは無理。

 専門職ができるレベルで深い感じがするし、できれば専門の人がいてくれると嬉しいな。

 リコちゃんでも巻き込むか……。楽譜魔法陣はもう使いこなしてるんだし。

 できれば、確実に長くゲームをしていてくれる人の方が良いけど。

 リコちゃんは退院しても、遊び続けてくれるとは限らない。


「攻略組として気になるのは、宝石と装備の関係ですね」

「簡単な実験はしてありますけど、エキスパートな人が使うとどうなるやら……」

「楽しみ。すぐにやるよ」

「実験台はロック鳥かな?」


☆★☆


 と、言う事で王都の山岳エリアのエリアボスの一つ、ロック鳥のいる場所まで来た。

 簡単に倒れないし、効果を見るには充分な相手だ。


「うん、これは可愛いものだ!」


 ルビーのデフォルメ招き猫付きの杖はお気に召したようで、まずは魔法陣無しのもので宝石効果を見る。

 エリアボスなので、規定のラインを超えるとロック鳥はやってくる。


「【炎の槍ファイアジャベリン】で牽制……って、あ。曲がった」

「何で曲がるんだよ!」


 牽制のはずの火線が、大きく弧を描いてロック鳥に命中する。

 もちろんグラつくだけで、落ちやしない。

 面白がって、【炎の槍】を連射するルフィーアさん。

 避けても避けても、追いかけ回されるロック鳥さんが可哀想に思えてくる。


「ホーミングって言うわけじゃないよな?」

「うん、私が操ってる。いっけージャベリン!」


 全弾命中。クリティカルが出たのか、翼を撃ち抜けれて落下する鳥さん。

 こんがり焼かれて終了です。


「これ、凄いね。威力そのものに違いはないけど、魔法のコントロールが別次元だよ。打ち出した魔法の操作もできるし、魔法の効果範囲も自由自在。フレンドリーファイアの心配がなくなるよ」


 大興奮のルフィーアさん。

 試しに魔法陣強化付きの杖に持ち替えて、もう一度ロック鳥を呼んでみたら……ジャベリン二発で終わらせてしまったよ?


「火力を集束することもできる。これで、エクレールの魔剣『ライトニング』にも負けないよ」

「それは頼もしいというか、怖いというか……」

「素直に喜んでよ」


 ドッと笑いが起こった。

 どうやら、魔法の微細なコントロールを可能にするみたいだね。

 石との魔法の相性で、コントロールの精度が変わりそう。

 次はザビエルさんを実験台にして、神聖魔法との相性を調べましょう。

 ただ、回復とかに特化すべきか、精度が無くても多目的に対応するべきかは悩む。

 最後はプレイヤー個々の判断によるとはいえ。

 あとは、魔法の練度で操り具合が違うっぽい。これも当然かな。


 尊いロック鳥さんの犠牲の元、宝石と武器の関係の研究が進んだのでありました。

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