魔導器アイデア交換会?

 シトリン工房の新製品は、宝石ミルです。


 元々、スクロール作成中のリコちゃんが申し訳無さそうに、宝石の粉末化を私に頼みに来ていたことから、専用機の必要性を感じたことが始まりです。

 いつもならね、リアルの機械の仕組みをネットで調べて、それを応用するのだけれど……。

 今度ばかりは、一筋縄ではいかなかった。

 リアルでもステンレスのカッターを回転させて粉にする機械はあるけど、ステンレス刃の摩耗が凄くて、削れたステンレスが粉に混ざっていそう。

 ガス噴流で……という大掛かりな工業機械も有るけど、私の頭では理解不能!

 洋画家さんが昔から絵の具で似たようなことをしているけど、乳鉢でゴリゴリするのでは、途中でみんなめげちゃうだろうし……。


 結局、謎な解決法を実行したんだけど、みんなわかってくれるかな?

 使う分には、静かに数分で綺麗に粉にしてくれるから、喜ばれてるけどね。

 リコちゃんの愛用品だし。


「良い仕事をしたわ~」と、次のものにかかる間に、温室用の操作パネルのアイデアをだべり室で、みんなとワイワイやってた時に、きゅうさんがふらりと現れた。


「引き籠もり妖精さんは、今度は一体何をしたのかな? ウチのリンクが頭を抱えて唸ってるけど……」

「宝石ミルを作っただけだよ? 私悪くないもん」

「いやいや、悪く言うつもりはないです。 ただ、物を見たリンクが本気で頭を抱えていて、機構部品が何もないのに、何で宝石が粉になるのかって?」


 きゅうさんは優しいね。

 悩んでいるリンクくんに、ヒントだけでも教えて欲しいって顔してる。

 私も最初の内は、作ったものをギルドに登録して図面や魔法陣を公開していたのだけれど、同業者が増えてきたことと、もう現状の技能レベルをカンストしてる雰囲気が有ることから、製品の登録をしなくなってる。

 魔力電池とか、規格化した方が良いものは別ですが……。

 だから、ヘルパーズの工房にでも入らないと、図面や魔法陣を見ることは出来ない。

 意地悪じゃないけど、余所に合わせてます。

 ただ、新製品の宝石ミルはまだ、ヘルパーズに降ろしてないけどね。


 意地悪する気もないので、私もクスクス笑いながらちょっとヒントを。


「種も仕掛けもないと動かないです。だから、仕掛けがないなら種があるの」

「種って……う~ん」

「きゅうさん。魔法陣って、魔法を発動するためのものですよ?」

「魔法かぁ……って、でもあんな小さな機械の中だけ、宝石砕くような魔法を展開することなんて……待て! ……この妖精さん、この間魔石の使い方を研究してたよなぁ?」


 さすが、きゅうさん。

 一つのヒントで、どんどん正解に近づいていく。

 謎な手段と言われているのは、実は物理衝撃系の魔法と、重力系の魔法です。

 普遍、完全、達成の石、フェナサイトを媒介にしてコントロールして、使用者から魔力を引っ張って、勝手に魔法陣経由で衝撃系の魔法で宝石を砕かせ、重力系の魔法で磨り潰して粉末化させてるの。

 いつもはリアルの機械を参考に、動力源としてしか魔法陣を使っていなかったけど、こんな手だって有るのですの一品。


「だいたい、何をしたのかわかったでしょ? ヒントあげたんだから、こっちのアイデア出しにも協力してよ」

「貰った代価はデカいからね。協力いたしますよ。……で、何を悩んでるの?」

「温室用のコントロールパネルだよ。相変わらず」


 今回試作してみたのは、軸に嵌ったリングに数字を刻むダイヤル。

 コーデリアさん曰く、自転車のナンバーロック式。ネットで調べてみたら、本当だ。そっくりのが有る。

 数字も見えるし、操作もしやすいからどうかな? と思ったんだけど


「数字が小さくて、見ずらいかな?」とか

「結構動かすの、面倒臭いよ? 半分パネルの中だと」とか


 イマイチ反応がよろしくないのだよねぇ……。

 我儘言うなぁ! で押し通してもいいけど、使いづらかったら意味がないもん。


「これって、温度管理用だよね。何時から何時までは何度にして……。って感じの」

「うん。それ以外にも、何時から何時まで水やりとか、それもさせたいって」

「そのための時間表示か……。PCのモニターが欲しくなるね」

「むしろ、PCそのものをプリーズ」

「あははは……。これ、操作と表示を分けて考えた方が良くない? シトリンさんなら、液晶は無理でも電光表示を作れそうな気がするけど。……パネル全体で考えずに、数字の表示方法だけ別に作っちゃう」

「数字の表示って、普通どうするの? 板がパタパタって捲れたりとか?」


 一番身近な医療機器にも色々な表示がるけど、それは測られる側には見せてくれないんだよねぇ……理由はわかるけど。

 病室の時計も針だし。スマホは点々を整列させて、人文字みたいにしてるんだよね、確か。そんなドットの管理を魔法陣でするの? しんどそう……。


「シトリンさんなら、難しいことは無さそうだけどなぁ……」


 そう言いながら、きゅうさんがノートに変わった書体で大きめに『8』を書いた。

 うん、映画とかで見たことの有る書体だね。


「この真ん中の横棒を隠すと、『0』になって……」


 次々に0から9までを作って見せてくれる。

 おおっ! こんな方法があったのかって、私が驚いていると、周りの目が冷たい。


「むしろ、そんなに驚いてる方が不思議よ?」

「シトリンはHDDレコーダーとか持ってないの?」

「たま~に、常識的なことが抜けてるのよね」


 袋叩きである。

 最近は、ネット配信とタブレットが、お友達だからね。

 私が触れていいデジタル機器は、それとVRゲームユニットだけだもん。

 苦笑いで済ませておくけど……。


 でも、これなら作れそうな気がする。

 1なら、こことここ。2ならここと、ここと、ここと、ここと、ここ。って、光らせる場所を指示してやれば、その通り光るユニットを作って組み込む。

 それで表示は行けそう。

 あとはコントロールから、そのユニットに数字の指示だけすれば、勝手に光って数字を示してくれる。それと別に、内部処理をすれば楽になるね。

 満面の笑顔でやる気になった私に、きゅうさんが商人の笑顔で囁いた。


「数字の表示ユニットは、必ず、ギルドに登録して販売してね」

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