宝石たちの使い道
試行錯誤の結果、遂にFFO世界にL1,L2,L3と3つの規格の魔力電池が誕生した。
L1は大型冷風扇を動作できるパワーレベル。
L3はポータブルの冷風扇や、ポーションヒーター、演奏板などを動かせるくらい。
L2はその中間くらいの設定。
LはレベルのLです。
シトリン工房でも売ってるけれど、図面を公開しているので、細工師さんなら誰でも作れる状態。その方が恨まれないし、規格も統一しやすいもん。
同時に、周囲を羨ましがらせていた大型冷風扇と、攻略部隊用の大型温風扇の販売も開始。売れ行きは順調過ぎます。
みんな暑いのは嫌いなのね……。
温風扇、冷風扇、アイロンあたりまでは、思い切って下請け工房に任せてみることにした。
その名も『シトリン工房ヘルパーズ』!
それでいいの? と私は思うんだけど、それで良いらしい。
ロックさんの言じゃないけど、勉強になるし、独学よりよほど上達すると好評らしく、どんどんメンバーを増やしているとか……。
親工房は二人しかいないのにね。
早くミキサーや、やんま君くらいまで、任せられるようになると良いんだけれど……。
そんな手助けもあって、私は先にやっておいた方が良さそうなスクロールの実験中です。
攻略班の為にも、帰還のスクロールは準備してあげたい。
ル○ラ的な魔法は、まだ習得できていないらしいけど、基礎となる転移の魔法陣は有るからね。
思い当たりそうな石を、片っ端から粉にして墨に混ぜ込んでみた。
結果、『人生の荒波を乗り越える』オニキスがジャストフィットするようだ。
どうかな?
「【帰還】!」
と叫びつつ、リコちゃんがダベリ室に出現する。
眼の前の私を見て、にっこり笑った。
「大成功です!」
<ワールド・インフォメーション!
シトリンが初めて、マジックスクロールの作成に成功しました。
シトリンには『魔法を描く者』の称号が贈られます。>
わっ! 久しぶりにワールド・インフォメーションが出ちゃった。
最近は攻略部隊の、攻略情報のアナウンスばかりだったから、ビックリだ。
私がまず、何のスクロールを作ろうとしていたかを知っているルフィーアさんから、『待ってました!』のメッセージが届く。
スクロールについては、一番向いている石さえ見つかれば、L3魔力電池相当の魔力を混ぜ込めた墨で描けば作動するみたいだね。
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶリコちゃんも可愛いが、スクロールは、とりあえずここまでかな?
魔石の粉の混合とかも試したい気はあるけど、欲しいスクロール優先。
あとは必要なものをリクエストを採ってから、作ればいいや。
【帰還】は何本か作っておくべきだけど。
お習字はリコちゃんの方が上手そうだから、お任せしちゃおう。
成功か失敗かは、文字の光り具合を見ればわかるからね。
私には、私の仕事があるのです。
☆★☆
あら? いつの間にかダベリ室に見慣れぬものがある。
リンクさん作の冷蔵庫ですね。暑い夏だし、なかなかのヒット商品。
氷の魔法陣で庫内を冷やして、魔力はL1電池で供給。構造はシンプルなんだけど、丁寧な作りで使いやすいのです。
色々な人が工夫を凝らしてくれると、楽しくなるよ。
でも、本題はそちらじゃない。
「これなんか、なかなか可愛いと思うんだけど……」
「でも、こっちの方が強そうよ?」
「どんな形でも、加工は難しくないの?」
「そこはゲームだもん、図面が有れば何とでもなるよ」
私の店の看板イラストを描いてくれた『グリーングリーン』所属の本職イラストレーターさんにお願いして、ルフィーアさんに使ってもらう杖のデザインをしてもらった。
実験検証用とはいえ、使えるなら実戦投入もあり。
リアルでもルフィーアさんと仲良しのコーデリアさんたちと、幾つかあるデザイン案を選考中です。
コンセプトは、『可愛くて凶暴』なんだとか……。
「杖はミスリル製なんだっけ?」
「うん。ミスリルの杖にルビーで実験」
「白ニャンコ確定? 配色的にはウサギっぽいけどね」
「赤猫だと、江戸時代火事を広げる火の粉のことを言ってたのよ」
「そう言う意味じゃ、ルビーでの猫を作るこの案もアリか?」
最終的に全員の賛同を得たのは……ミスリルの杖にルビーの招き猫の乗ったデザインでした!
呆れないでよ、ロックさん。ルフィーアさんならきっと、大喜びで使うよ?
招き猫も、デフォルメされて可愛いんだから。
デザインさえ決まれば、あとは私の仕事です。
サブの杖として使えるように、短めの20センチ位にして……杖に増幅の魔法陣を刻む。
そして、大きなルビーを加工して、綺麗に磨いて……。この石に魔法を照射するように調整する。
試しに、リコちゃんに【
でも、石と魔法の関係を調べるなら、スクロールが早そうですね。
そっちで調べて、相性の良い組み合わせで加工する方が手間が省けます。
あと。石と魔法陣も、ざっとだけど調べてみた。
こっちは相互強化みたいな関係は、無さそうだね。
石に魔法陣を刻んでも動作しないし、剣に刻んだ魔法陣にスクロール用の墨を刷り込んでみても、魔力使用量が減ったり、威力が増したりはしない。
ただ、炎の魔法陣に刷り込んでおくと、一回だけ炎の魔法が飛んだりする。
炎のスクロールの効果と同じだね。
使えるかどうかは、使用者次第かなぁ。
石そのものに固有の波動があるから(パワーストーンってそういうものです)、そこに魔法が干渉した場合はどうなるのか?
その辺はルフィーアさん用に作った杖で、石を通して魔法を照射した時の効果を確かめてもらうしかないです。
戦闘中心の強力な魔道士さんの感想を聞いて見なくちゃ。
「なるほどなぁ……。今の所はスクロール向きってことか」
「リコちゃんもお習字得意だから、スクロール作成のお仕事に向いてそうだよ」
「特に魔道士じゃなきゃ駄目ってことは無さそうなのか?」
「うん、魔力は墨に、コマンドは図案にあるから、図案を間違えないことのほうが大事」
「シトリン、印刷機を作るんだ!」
「印刷するより、手書きの方が有り難みがあるじゃない! 値崩れさせるより良いよ?」
新しいお仕事になりそうだし、オリジナル魔方陣を作る意欲をそいじゃダメでしょ。
工夫次第で、まだまだ伸びる職種だよ。
あとは杖がどう出るか……。
攻略隊が戻っての会議は、今度の日曜日に決まった。
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