月の光に導かれ……

「シトリンさん……今日は顔が怖いです」


 翌日の午後(今日は月曜だから、午後にしか入れない)に、ログインした私は、リコちゃんに怖がられてしまった。

 ひょっとしたら、運営さんの仕掛けた大きな謎が解けたかも知れない。

 そう思うと、いくら私だって、真面目な顔になっちゃうよ。

 工房に行くと、トロワちゃんが、宝石の箱を渡してくれる。


「指示通りに、夜明け前に回収しました」


 蓋を開けてみると、一晩月の光をいっぱいに浴びた宝石たちは、いつも以上の輝きを放っている。

 その輝きの正体は、工房で測定してみてはっきりとした。


「魔力だ……」


 私は、意地悪すぎる偶然に笑い転げてしまった。

 この子達は宝石じゃない。パワーストーンなんだ。

 そんな事、黄水晶シトリンをキャラクター名にしている私が、真っ先に気づかなきゃいけないことじゃないか!

 その答に導くための満月のギミックなのでしょう。

 なのに、私はログイン時間が限られていて、昨日までこの世界の月を見た事がなかった!

 もし、一度でも月を見ていたなら、絶対に気づいていたはずだ。

 満ち欠けしない月がもつ意味に。


 邪気を吸ってパワーが低下したパワーストーンを浄化し、力を取り戻すための方法は幾つか有るの。

 どのパワーストーンにも効果のある浄化法が、石を月光浴させる事なんだよ。

 月……特に満月の光はパワーストーンを効果的に浄化してくれる。

 そうとわかれば、もっと手軽に浄化する方法があるんだよね!


 飛燕さんにメッセージを送る。


「飛燕さん、緊急の依頼です。坑道からなるべく多くの水晶を採掘してきて下さい。それと、水晶の次に多く採掘される宝石を。お金は通常の倍払いますので、大至急!」


 私は自室に移動して、お気に入りのインテリアにしていた大きな水晶の結晶に、手持ちのラピスラズリと、アメジストを置いてみる。

 私の予想通りなら、このどちらかが魔力電池の最有力候補だ。

 パワーストーンの最も手軽な浄化方法は、クリスタル……無色透明な水晶の結晶クラスターに置くことだ。

 月とクリスタルの力で悪を浄化するのは、某ヒロインだけじゃないんです。


 つまり、クリスタルのクラスターに触れさせたパワーストーンに発生する、魔力を伝えれば、魔力電池として動作する……はず。

 あとは、それぞれのパワーに必要なサイズを割り出せば……。

 スクロールだって、魔力を得たパワーストーンを粉にして墨と混ぜれば、魔力を持った魔法陣が描けるはず。コマンドワードを設定すれば、魔法の素養がなくても使えるに違いない。

 魔力はその魔法陣が持っているのだから。


 私が自室を出ると、何故かいつものメンバーが集っていた。


「リコがよ、シトリンが怖い顔してるってメッセージくれたんだが……何を見つけた?」


 さすがロックさん、きっと私は魔剣の時と同じ顔をしている。

 それに気づいてくれたのだろう。

 きゅうさんもいるけど、これは『雷炎』だけで隠し持つような情報じゃない。

 発見者の私の独断で、広めるべきだと思ってる。


「見つけたよ、この世界での魔力の作り方」


☆★☆


 気にかかった満月のことから始めて、パワーストーンのこと、宝石のこと。

 順番に話して、呆れられたり、感心されたり。

 でも、実際に魔力を持った宝石を見せたら、納得するしか無いだろう。


「でもよ、これはいわゆる『お守り』とは違うんだろう?」

「うん、あくまでイメージだけのはず。例えばガーネットは、お守りとしては、頑張る人に活力を与える的な意味が有るのだけど、FFOの世界では付加魔術の媒体として向いてるんじゃないかと予想してる」

「検証はまだできてないのね?」

「だって、さっき魔力を確認したんだもん。魔力電池の配合を先に考えなきゃいけないし、そっちの検証はまだまだ先だよ……」

「それはそうね……でも、大発見よ、これ」


 みんな、真面目に頷いてくれる。

 わざわざ宝石鉱山のあった意味。満月の意味。……全部繋がって、私もモヤモヤが解けてスッキリしたよ。

 最後の鍵が、一番最初から存在する夜空にあったなんてね……。

 昼間にしか入ってないとわからないよ、そんなの。


「皆さんがイベントをやってくれたおかげです。初めて夜空を見たもん」

「「「「「「引き籠もってるから、だろ(でしょ)!」」」」」」


 あうっ……確かにそうなんだけど。

 借家の工房時代から、そこでログイン、アウトしてたし、夕空なんて見てない。

 その前はガラスのことしか考えてなかった。

 生産職をやってると、引き籠もり気味になると思うんだけどなぁ?

 ……私だけ?


「魔法と宝石の関係の検証って、どうやるの?」

「多分パワーストーンに似せてると思うから、ルフィーアさんにルビーの付いた杖を使ってもらったり、あとはスクロールかなぁ」

「スクロールもいけちゃうの?」

「多分墨に魔力を持った石の粉を混ぜて、魔法陣を描くんじゃないかな? と思ってる。その魔法に向いた石を使う方が、魔力が軽くなるんじゃないかと……あくまで予想だけど」

「確率の高い予想だなぁ……他にない気がする」

「何となく、私……このゲームを作ったデザイナーさんとお友達になれそうな気がするよ。いちいち物の好みが同じなんだもん。物凄く解ってしまうというか」

「この話、今エクレールさんにもメッセージで送ってみた。『拍手で労って下さい』って、返事が来たよ。もうちょい検証が進んだら、攻略を中断してでも会議する必要があるってさ」


 アハハ、飛燕さんの言葉に併せて、本当に拍手してもらえちゃった。

 リコちゃんにキラキラの目で見られて、ちょっと誇らしい。お姉さんの面目躍如かな?

 水晶の次に採取量が多いのは、やはりアメジストらしい。

 きゅうさんも慌てて、ギルドに水晶とアメジストの採取を指示してるよ。理由はまだ説明してないみたいだけど、『今シトリン工房にいる』の一言って、殺し文句になるの? 心配しなくても、配合が決まったら、ちゃんと図面は細工師ギルドに登録します。

 リアルの乾電池の様に、規格を決めちゃった方が使いやすいもん。


「魔法陣の次は、パワーストーンのお勉強かよ……」

「魔法陣はともかく、パワーストーンの方は細工師か、錬金術師が覚えるだけでいいと思うよ。魔法陣を石で強化できるかどうかはまだ不明だし、石と武装の関係も未知数だもん」

「そんなもんか?」

「多分、武器の製作指示をする人が考えることだと思う。ロックさんたち鍛冶屋さんは、取り付け方だけじゃないかな?」


 ふむ……。石と魔法陣の関係も調べないとね。

 何だか急にやることが増えちゃった気がするよ?

 あ、そうだ。


「ねえロックさん。私がこっちにかかり切っちゃうとミシンとかの製造が止まっちゃうんだけど……」

「それ困るわ!」

「わかってるから、シフォン。……だから、どこか下請けに良い工房って知らない?」


 訊いてみたら、ロックさん、片眉上げて得意げだよ。

 なにか心当たり、ありそうだね。


「昨日、お前さんが逃げちまったあとにな、シトリン工房入会希望者を集めて、発破はっぱかけておいたんだ。『お前ら集まって、自分たちで工房を作れ』ってな。下請けで、シトリン工房の部品作ったり、簡単なものを組み立てて収めたりするだけで、かなりの勉強になるだろう?」

「ロックさんも、時々凄いね?」

「お前の対人スキルの無さは知ってるからな。そっちは俺がまとめておいてやるよ」

「それじゃあ、これを渡しておいて」

「ん? ……例のどこでも工房だろ? これ渡しちゃって、お前は大丈夫なのかよ?」

「実は最近もう一つ貰っちゃって……二つ有るのよ。それが有れば、私みたいに宿屋で工房を開けるでしょ?」

「なるほど、連中には何よりの援助だ。確かに渡しておく」


 ふう……何とか、いろいろ目処が立ちそうだね。

 そういえば、リコちゃんは魔道士さんだったね、いろいろ手伝ってもらわなきゃ。

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