昼下がりのテーブル

「リコちゃん、冒険者ギルドに採取依頼を出してきて」

「……行ってきます」


 お仕事するのが嬉しそうに、暑い中パタパタと駆けてゆく。

 大人しいだけで、働き者だよね、リコちゃん。


「何か、リコちゃんが来てから、シトリンの引き籠もりが加速してる気がするのだけど?」

「採取依頼くらいしか外に出ない奴だったのが、これだもんよ」


 シフォンとロックさんがうるさい。

 この際、私はい~の! リコちゃんにいろいろ触れさせて、こっちでどんな事を覚えるのか考えさせないといけないんだから。


「なんなら、二人まとめて連れ出そうか? 少しは戦闘スキルも上げといた方が良いだろう?」


 なんて笑うのは、『雷炎の傭兵団』の留守番隊指揮兼若手育成担当の飛燕さん。

 普段は新規ギルド員のレベル上げの指導をしている人です。


「リコちゃんはともかく、私はレベル15あるもん」

「攻略隊の仕事が済んだら、またシトリンつれて、今度は新エリアのアイテム探しよ? そんなレベルで足りるわけないでしょ?」

「戦闘中心に楽しみたい人たちは気が荒いから、まだリコちゃんには刺激が強すぎます」

「お母さんの許可が出なかったら、仕方がない」


 すっかり、リコちゃんのお母さん扱いされてるペンネさんだけど、何か嬉しそう。

 リコちゃんも懐いてるしね。

 エクレールさんが厳選したメンバーだけあって、引き籠もりの私はもちろん、人見知りの激しそうなリコちゃんも、ちゃんと打ち解けてるのは凄い。

 ちなみに、ギルド名に『シトリン工房』と表示されてるリコちゃんは、細工師ルーキーたちに羨ましがられてるとか。

 そんな事を、きゅうさんが言って笑ってた。

 まだ、細工師を目指すとは決めてないけどね。そこは、本人次第。


「で? その引き籠もりは今、何をしてる?」

「相変わらずの魔力電池探しと、宿題の温室。それに伴う魔法陣のお勉強?」

「魔法陣か……お前さんの妙な剣以来、こぞって勉強始めてるな、みんな」

「ロックさんも覚える? 何が出来て、何が出来ないのか知ってると有利だよ?」

「少しは覚えようとしてるんだけどな……理系の書く文章は、どうしてああなんだ?」


 うおぅ! ロックさんがそんな事を言うなんて、明日は嵐か?

 でも、わかる。説明しようとすると余計に分かりづらくなる文章、多いよね。


「あれ? プレイヤー同士で、手持ちのSSやファイルのやり取りできたっけ?」

「トレードウィンドウでファイルを選べばできるぞ?」

「じゃあ、ロックさんにも私の攻略本をあげよう」

「なんだそりゃ……おおっ! お前……こんな物どこで手に入れた?」

「リアルの理系さんの知り合いが作ってくれたの。魔法陣記号を名詞とか、接続詞とか、言葉みたいに分類して一覧表にしてあるから、わかりやすいでしょ?」

「くぅ……こんなのが有るなら、早く教えてくれよ」

「しかも、前のイベントで私が交換した、『応用魔法陣』に出てくる条件分岐やループとかも入ってるから、ギルドにある『中級魔法陣』より内容が濃かったりする」

「道理で、お前さんの頭でスラスラ魔法陣を描けるわけだぜ!」

「ロックさんと頭の出来は、似たり寄ったりだもんね」

「回転の速さは、お前にボロ負けだけどな」

「ちょっと! 二人で独占するつもり?」


 もちろんそんな気は無くて、シフォンやみんなにもコピーしてポイ。

 とりあえずは、『雷炎』の秘蔵データということで。

 池上先生、ありがとう。


「ルフィーアさんの言葉じゃないけど、本当にシトリンを叩くと、いろいろな裏技が出てきそうよね」


 睨まないでよ。言い出すタイミングを逸しただけなんだから。

 みんな、そんなに魔法陣の勉強始めてるとは思わなかったもん。


「「「「引き籠もってるからだろ(でしょ)!」」」」


 ……その通りだけどさ。

 そんな声を揃えて突っ込まなくても……。


「そんなんじゃ、私たちが計画したイベントのことも知らないでしょ?」

「イベント? ナニソレ?」

「これだもの……」


 シフォンやペンネさんにも呆れられてしまった。

 ちょうど帰ってきたリコちゃんにも訊いたら、知ってたよ? 何で?


「まったく! 教えてあげるから、しっかり聞きなさい。

 来週、中央広場を借りて『ファッションウィーク』『美味しいフライパン』『グリーングリーン』『南蛮渡来』の4ギルド合同で、新入ギルド員勧誘イベントをするのよ」

「私も混ぜてよぉ?」

「あなたの所は新ギルド員を入れるつもりはないでしょ?

 生産系のギルドは『頼もぉ!』って、ギルドの門叩く以外は、なかなかきっかけがないから、大学のサークル勧誘を真似してやってみようと思ったのよ。

 木工の人とか、革職人とかグレーゾーンの、良さげな人も確保しておきたいもの」

「ふぇ……、いろいろ考えてるんだ」

「そうよ、引き籠もっていて背中を押されづらい人も、こっちから手を引っ張れば入りやすいでしょ?」

「……何で、私を見て言うかな?」


 抗議したら、笑いが返ってきたよ?

 ペンネさんの所は、お料理無料サービス。……炊き出し?

 コーデリアさんの所は、ポットフラワー配布しつつ、やんま君大活躍?

 ザビエルさんの所は、家具作り体験と、木工アクセの配布。

 シフォンの所はお洋服フリマと、ハンカチの名前入れ、無料配布だって。

 面白そう。見に行こう。


「ロックさんの所は参加しないの?」

「炉を動かせないから、研ぎくらいしかやれないだろ。それに弟子入りは間に合ってる」

「ロックさんの所は引く手数多だもの……唯一の魔剣鍛冶だし」

「私の所は誰も来ないよ?」

「お前さんはいついるのかも、どこにいるのかもわからない。レアキャラ扱いだからな」

「ちゃんと決まった時間には、いるのに……」


 また生暖かい目で見られたよ。

 たいがい、自分の部屋か実験室かダベリ室にいるけどさ……。

 あ、そうだ。


「何か、必要なものが有れば作るよ?」

「温室~」

「ミシン~」

「携帯式の炉~」


 真似をしても、ロックさんは可愛くないよ!

 コーデリアさんには、またちょっと我慢していただきたいけど。


「ミシンは、うまくすれば参考出品できるかも」

「本当! 遂に?」

「直線縫いしか出来ないよ。やんま君作る時の歯車試作しながら、上糸の針と下糸のオカマの回転を合わせる事に成功したから。あとは、糸の取り回しと、布の押さえ方かな?」

「シトリン偉い!」


 抱きつかれちゃった。

 イメージは足踏み式ミシン。でも、踏んで動かすんじゃなくて、足を置いて魔力を流す形です。反対の足は非常事態用のブレーキ。

 ミシン針に突刺の魔法陣付加してあるから、硬い皮も貫くよ!

 それでは、デモができるように仕上げを急がなくちゃね。


「あ、そうだ。雰囲気盛り上げるのに音楽演奏の板も作ってくれると嬉しい。シフォちゃんの秘剣ができるなら、作れるんじゃない?」


 と、コーデリアさん。

 そういえばこのゲームって楽師さんいないものね。

 呪歌とか無いのかな? まさか作れるとか無いよね?

 普通の演奏なら、楽譜さえ有れば、真鍮板一枚だから、すぐにできる。

 でも、何の曲にしよう? ドラ○エマーチとか演奏すると、運営さんに怒られそうだし。

 FFOのメインテーマとか、楽譜有るのかな?

 なんて言っていたら、リコちゃんが


「私……耳コピできますけど……」


 今日一番驚いたよ!

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