秘剣誕生?

 メンテナンスが終わり、まずすべきことはロックさんの工房でサーベルを買うこと。


「珍しいな、応募の品は剣なのか?」

「そう決めたよ。出来たら教えるから、見に来る?」

「もちろん、優勝候補の作だからな」


 王都の町は、珍しく閑散としています。

 攻略組は雪山に、勧誘組は初心者スタート地点の港町へ、それぞれ出かけてるからね。

 王都に残ってるのは、生産職たちくらい。

 一週間もすれば、ルーキーたちも王都に来るんじゃないかな? とみんな言ってる。

 しばしの静寂を楽しみましょう。


 シトリン工房は、相変わらずの盛況です。

 一人だけ飛び抜けて変なものを作ってる工房なので、参考になるかと見学客が多いみたい。気になるものは、買って調べるらしい。

 過去最高に変なものを作ろうとしているオーナーは、ニヤニヤ笑いが止まりません。

 メンテ中に、リアルで何度も見直した魔法陣。間違いはないはず。

 どこでも作業場を展開して、普通に作れるかどうかを確かめる。

 サーベルをセットして、魔法陣……結構大きい。をセット。加工!

 ……うん、形は問題ない。魔法陣が刻まれてるよ。

 軽く振ってみる。

 わ~い、ちゃんと刀身が光ったし、音も出た。

 こうなると、エクレールさんが攻略で雪山に行ってしまってるのが痛いな。

 美人でクールな彼女にこそ、使ってみて欲しかったのに。

 しょうがない、これを最もノリノリで使ってくれそうなシフォンに頼みましょう。

 彼女と、あとは約束どおりにロックさんも呼ぶ。

 メッセージ送信。

 なのに、なぜ生産職ギルド長勢ぞろい? きゅうさんもリンクさん連れてきてるし。


「シトリンさんの品のお披露目があったら教えてと、ロックさんに頼んでたんだ」

「シトリンちゃんが何を出すのか、楽しみだもの」


 場所はダベリ室。

 でも今日はテーブルとか食器棚とかは持ち物欄にしまってある。

 広くないと困るからね。


「で、私は何をすれば良いわけ?」


 ラッキーなことに、今日は白ゴス姿のシフォンが、腰に手を当てて頬を膨らませる。


「このサーベルを使って、剣舞をして欲しいの」

「はあっ? 私は剣舞なんて踊れないし、音楽はどうするのよ?」

「この剣を使ってみれば、わかるってば」


 首を傾げるシフォンに、サーベルを押し付けて下がる。


「じゃあ、部屋の明かりが消えたら始めて」

「勝手なこと言うなあ!」


 はい、ライトOFF。

 魔力を流したのだろう、サーベルの刀身が青く光った。

 私は拍手。つられてみんなも拍手。

 仕方がないと、諦めてシフォンが剣を一振り、二振り。すると流れ出すピアノの音色。

 曲がわかったのだろう。

 シフォンが、優雅に剣を振り始める。……絶対好きだと思った!


「この曲って……『白鳥の湖』?」


 曲の進み方によって、刀身は光る色を変える。

 清廉な白を纏ったり、深い青に仄かに光ったり……。

 もうシフォンはノリノリである。表情からして浸りきってる。


 チャイコフスキー作曲、『白鳥の湖』より『情景』。

 見事に踊り切って、拍手喝采を浴びる。


「シトリン、何を作ったのよあなたは!」

「え~。シフォンはあんなにノリノリだったじゃない」

「中途半端に照れたら却って恥ずかしいでしょ! 乗るしか無いじゃない」

「でも、シフォンちゃん。綺麗だったわよ」

「もう……ペンネさんまで」


 恥ずかしがって、コーデリアさんの後ろに隠れちゃった。

 とっても可愛いシフォンです。

 大笑いしながら、ロックさんが片眉を上げる。


「しかし……これだけ実用性のない剣を良く作ったな」

「ちゃんと実用性も有るんだよ? 追加効果『氷』+1に、敏捷性も+1だもん」

「はあっ? 馬鹿なのか、凄いのかわからん奴!」

「いえ……凄いですよ。魔法陣付加って一つの効果しか出来ないと思ってた」


 リンクさんが、目を輝かせてお遊びサーベル、名付けて『秘剣 白鳥の湖』を見つめる。

 その刀身を見せながら、私は笑った。


「それは勘違いですよ。一つの効果ではなく、一つの魔法陣しか乗らないの。本の魔法陣そのままだと、一つ一つの効果しかないでしょ? 魔法陣を自作すると、二つの効果どころか、光るし、演奏したりもしちゃうんだから」

「普通、後半はどうでもいいけどな……」


 そこが楽しいんじゃない。ロックさんは情緒がないなぁ。

 刀で水を作ったり、魔法の発動体にしたり、文字を書けるようにしたり

 魔法陣で無限の機能を加えられるんだから。

 あ……刀で刀を打ったりできるかも?


「やめてくれ、頭がおかしくなりそうだ……」

「やーね、おじさんは頭が固くて」

「誰がおじさんだ、コラァ!」

「きゃー」


 笑いながら逃げ回る。

 みんなの呆気にとられた顔を見られたから、それだけで作った甲斐があるというものです。

「さすがに引き籠もり妖精さんはとんでもないなぁ」

「きゅうさん、その『引き籠もり妖精さん』はやめて。シトリンの方が文字数が少ないですよ?」

「そうですね。……でも、ありがとう。ものの見事にリンクのドタマかち割ってくれたね」

「あはは……でも、リンクさんだけじゃなくて、私以外の細工師さんが皆、魔法陣付加で満足しちゃってるって聞いて……ちょっとガッカリしたから」

「わざと方向性をズラしてるけど、今の細工師の仕事が子供だましに見えるよ。これを見せられちゃうと」

「でも、さすがロックさんの剣です。量産品でも、あのデッカイ魔法陣を見事に乗せちゃうんだもん」

「剣の質でも変わるの?」

「はい……剣の質イコール、乗せられる魔法陣の大きさですから。これはバラしちゃった方が良い情報だと思います」

「なるほど、君とロックさんは魔剣を打てる最強タッグだったね」

「はい、いつも助けられてます。……本人には絶対に言わないけど」


 笑いながら、テーブルや食器棚も元に戻す。

 からかわれまくりのシフォンも含めて、いつものダベリモードに戻りかけてる。

 コーデリアさん、それ結構よく切れるから、振り回すと危ないよ。


 イベントの内容が『他国の王族への献上品』ということなので、相応しい刀装をしていたら、締切日の三日前になっていた。

 ブルーメタリックの鞘に銀の装飾を施され、ユニコーンの白皮を巻かれ、サファイアの宝石を嵌め込んだ柄を持つ美しい剣が誕生し、献上された。

 その機能の詳細を知らない人たちは『宝剣』と噂した。

 あとで、思い切りズッコケることになるとも知らずに……。

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